第2話
夏の長い休みを終え、アカデミー高等部では、受けられる講座がさらに専門性を深めている。
いよいよ、所属する科に関連する講座を受けていかなくてはいけない。
僕は文官科に所属している。
この科は卒業後、王宮の文官、内務卿や教育卿、法務卿が管理する役所で働く文官を目指すことになる。
または、地方都市の文官という選択もあるが。
成績次第だけど・・・・。
ところで僕は、最近興味が出てきた分野があるんだ。
でもその分野は、あまり文官の出世につながらない。
それでも興味があるので、講座を受けようか悩んでいる。
「一度、エクレアに相談してみようかな」
「エクレア様に御用ですか?ご主人様」
つい、言葉が出ていたんだろう。
近くを通りかかったクレオメに聞こえてしまったようだ。
「ああ、いや、ごめん。ちょっとね。悩んでいて」
「はあ。ご主人様もお悩みになることがおありなんですね」
クレオメは、つぶらな瞳をこちらに向けて、心底不思議そうな表情をする。
そりゃあるよ。
そんなつぶらな瞳で見ないで。
まだまだ君たちの主人には相応しくないんだからさ。
せめて、いい稼ぎのできる職について出世して、みんなを養っていけるようになったら、僕も自信が出てくるんだけど。
「うん・・・・あのさ、クレオメ。クレオメは、主人である僕にはやっぱり出世をしてほしいよね?」
「ほぇ?出世でございますか。う~ん、私は別に・・・・ご主人様が出世なさっても、なさらなくても、私たちのご主人様に変わりありませんし」
「エクレア様も、きっとご主人様のやりたいことを応援すると思いますよ」
クレオメが満面の笑顔で答える。
すると、後ろからエクレアの声が聞こえてきた。
「その通りでございます。親愛なるご主人様。わたくしどもは、ご主人様がお望みになることを全力で応援させていただく所存ですよ」
「何かご要望でも?あ、いよいよ世界征服ですか?それとも、美人を集めたハーレムを作れとか?」
「十五分・・・・いえ、十分いただければ、完璧に実現してご覧に入れますが」
やばい。
またエクレアの妄想が始まりそうだ。
止めないと。
なんだよ、世界征服って。
それに、美人を集めたハーレムって。
妄想を通り越して怖すぎるわ。
「ストップ、ストーーップ。まったく、ちっともそんなこと考えていない」
「勝手に暴走しないで、よく聞いて」
「実はね、エクレア。僕、文官科の講座の中で、出世コースにつながる講座ではなく、歴史の講座を選びたいんだ」
「出世できなくなるかもしれないけど、いいかな?」
僕がそう言い終えると、エクレアと、それにいつの間にかそばにいたシェラが、にこにこと笑顔で答えてくれた。
「まあまあまあ、さようでございますか。ご主人様は興味のある講座を選択するべきでございます。出世など、何の価値もありません」
よかった。
これで安心して、歴史の勉強ができるぞ。
「ありがとう」
僕が笑顔で言う。
その言葉を聞きながら、エクレアは僕に聞こえないぐらい小さな声で、
「むしろ、歴史研究の教授に問題がありますね」
と呟いていた。
今日は久しぶりに、ナスと二人で歩いている。
「で、決めたのか?専門の講座」
「うん。実は歴史研究のモゴロド教授の研究室に入ろうと思っているんだ」
「え?でもあそこ、出世コースじゃないぞ。それに、誰も取りたがらない分野のはずだ。相変わらず良い趣味しているな」
ナスは呆れたように言う。
「ふふ、そうだよ。良い趣味してるでしょ。どんな研究ができるか楽しみで仕方がない。あ、こっちだ。それじゃあね」
おう、とナスが手を振り、僕たちは別れた。
僕は案内板に従って、モゴロド教授の研究室となる建物に向かう。
すると、珍しい人物に出会った。
ダオだ。
ダオが、目的の建物の方から歩いてくるのが見えた。
ダオも僕に気づいたようで、とても嫌そうな顔をする。
「どうも、リーダー先輩。こんなところでどうしたんですか?うろうろしていると、不審者と思われますよ」
あいかわらず口が悪い。
決闘の事件や、校舎への忘れ物の件で、だいぶ僕になついていたように感じていたんだけど、また以前のような雰囲気に戻ってしまっている気がする。
「実は、僕、歴史研究のモゴロド教授に会いに行くところなんだ。歴史研究の講座を受けようと思ってね」
そう言うが早いか、ダオは血相を変えた。
「それはやめたほうがい・・・・、あ、い、いや、何でもないです」
そう言って、ダオは走り去っていった。
一体、どうしたんだろう。
まあ、モゴロド教授の評判は良くないから、僕を心配してくれたのかなあ。
「ここだ。教授は部屋にいるかな?」
僕は研究室の前まで来た。
間違っていないか、ドアに書かれている名前を確認していると、突然ドアが開いた。
「うるさい!誰だ、一体?」
そう言って出てきたのは、白髪の壮年と言っていい人物だった。
服装はよれよれだが、教授が着るような服を着ている。
この人が、モゴロド教授だろう。
「はじめまして。歴史研究の講座を希望しました。よろしくお願いします」
そう言って、僕は頭をぺこりと下げた。
「ほうほうほう。そうか。お主が、わしの歴史研究講座を選択したという、近年まれに見る奇特な生徒か。よう来た。よう来た」
そう言って、モゴロド教授は僕を中へ入れてくれた。




