第2部 アカデミー歴史資料研究室のモゴロド教授 第1話
「はあ、はあ、はあ、それで、だな。わしはこう評価したわけだ」
「まず国としては、シルバー王国の評価はそれぞれ、軍S、将軍SS、国土C、政治Bであるな」
「こう見ると、圧倒的に軍と将軍が強い。なんなら、軍の力で国が成り立っていると言っても過言ではあるまい」
「対してプラチナ帝国は、魔法騎士団の力量はせいぜいAだろう。しかし、聖女たちの支援があり、その回復能力を総合的に判断して軍はS」
「さらに国土も広く、肥沃だから国土A。そして政治も盤石と言えるからAと言えような」
「最後に神聖ゴールド聖教国。あそこも軍はAだ。ん?Sじゃないのかって顔をしているな。たしかに、二つの国と渡り合ってきたから、そう考えるのが妥当なんじゃが・・・・」
「あの国が我がシルバー王国とプラチナ帝国と長年渡り合えたのは、わしが考えるに、もう一つ要因がある。それは兵の数じゃよ。あそこは圧倒的に兵の数が多い」
「そうだな。シルバー王国を100とすると、プラチナ帝国が150。・・・・いや、180か」
「そして神聖ゴールド聖教国は300を超えるじゃろう。二つの国の軍を合わせたよりも数が多い」
「そして、その兵の数を生かす将軍も充実している。伝説の聖教六武威の看板を背負う、六人の将軍がいるのだ」
そう言って、目の前にいる初老の男性は、やっとしゃべるのをやめた。
「・・・・ふぅ。のどが渇いたわい」
かと思うと、側に置いてある茶碗でのどを潤す。
だが、まだまだしゃべる気満々の様子だ。
申し遅れた。
私は、このシルバー王国の軍務大臣兼政務大臣兼第一将、ジングート・サンライズ公爵。
まあ、ジングートと呼んでくれ。
今、軍師養成所の教官を務める目の前の男、モゴロドに用があってやってきたのだ。
ところがこの男、一度スイッチが入ると、自分の気の済むまでしゃべりまくる。
もうかれこれ三時間しゃべり通しだ。
一応、私はこいつの上司にあたるのだが、まったく意にも介さない。
これがなければ、空白の第三将の座を任せてもいいぐらいの逸材なのに、もったいない。
この男、モゴロドは将軍の才能にも恵まれている。
だが、その旺盛な好奇心が災いして、将軍を務めても戦果を挙げられないでいた。
それよりも、知的欲求を満たしながら昔の戦術の研究や軍事兵站の分析をすることの方が、性に合っているようだ。
現にこの男は、アカデミー高等部で歴史研究室の教授も兼ねている。
まあ、誰も歴史研究室に希望する者はいないらしいが。
今日も、私が被害の少ない戦術を調べに来たというと、スイッチが入った。
そして、戦術よりも戦略と兵站が大事で、それを生かすには国の評価が必要なのですぞ、としゃべり続けている。
「そして、ここからが本番だあ!!将軍の評価にいくじょ!!」
モゴロドはさらに声を大きくして、ウキウキした表情になる。
これは長くなりそうだな。
はあ。
「この中央平原で一番の将軍はと聞かれたらーー!!シルバー王国の英雄、大将軍シェーラ閣下その人に決まりでしょう!!!」
うんうん。
それは同意する。
「かの大将軍閣下は、武力SSS、統率力SSS。攻撃にも防御にも隙がなく、さらには戦う相手に合わせて戦術を変える柔軟さも持ち合わせておりまする」
「さらに驚異的なのはあああ。将軍として百戦を超えるのに、いまだに同じ戦術を取っていないことおおお!!」
「すべて違う戦術思想で軍を展開しておりまする」
「こんなこと、あり得ない。どんな将軍でも得意な戦術や苦手な戦い方というものが存在するが、かの方にはそれが見当たらないのでござりまする」
「しかも、常に補給と兵站が優先で、兵の数より備蓄を計算しながら戦略を立てておるのじゃ!!」
「その強烈な武力に目が行きがちですが、本当の真価はその戦術と兵站思想にあると、わしは考えておりまする」
まったくもって、その通り。
かの方の真価は、われら凡夫には計り知れないのだ。
私、ジングートは、敬愛する大将軍シェーラ様に対する持論を展開するモゴロドの話を、好意的に聞いていた。
私はここ数年起きた戦争すべての情報を集めて解析し、新しい戦術を編み出そうと考えて、この軍師養成所兼戦術研究所に足を運んだ。
そこでモゴロドに捕まり、話を聞かされる羽目になったのだが、まだまだ話は続きそうだ。
「次点の将軍は、第一将ジングート様ぁ、と言いたいところですが、さすがにご本人様を目の前にして評価をすることは憚られまする。どうかご容赦を」
モゴロドは、神妙な表情をする。
私はこの男にも遠慮するという感情があることに、逆に驚きつつ、黙って話を聞いていた。
「ですので、僭越ながら第二将のアカエール様を評価奉らせていただきたいと思いまする」
「アカエール様は一言で言うと、戦場の空気を肌で感じる『感将』のタイプでございましょう」
私もそう思う。
アカエールは理屈ではなく、戦場の空気を肌で感じ取り、敵の罠や自軍の感情を敏感に感じ取る。
それは才能だ。
それも、天才の類だろう。
かつてはその才能を羨ましく思ったこともある。
「そして、得てしてそのタイプの方は、自分の武力を存分に発揮するため、軍の先陣に立たれる傾向にありますが、アカエール様はさにあらず」
「軍の中央で指揮を執ろうとなさる将軍でございます。それゆえ、常に軍は安定し、兵卒は安心して敵を蹴散らすことができるのですじゃ」
「間違いなく、この中央平原でも五本の指に入る将軍と言っていいでしょうな」
「ですが、欠点もありまする」
ぴく。
アカエールの欠点だと?
私は、この男がどんなことを言い出すか、興味深く聞いていた。
「ずばり、軍の被害の予想がつかない。つまり、受けが弱いということですな」
なるほど。
アカエールは、理屈抜きで軍を動かす。
これは攻めに転じれば、すさまじい効果を生み出す。
だが、一度守勢に回ったとき、強固な守備というものが不得手で、思わぬ被害を被ることがある。
そして、ややもすれば、補給すなわち兵站を無視して、戦果を出すことを優先しがちになりやすい。
それは致命的な欠点になる。
この男は、そのことを言っているのだ。
さすが、よく分析している。
モゴロドは、じろりとこちらを見た。
「それでは、ジングート将軍の求める被害を抑えた戦術の参考にはできませぬ。そこで、私が目を付けたのは――」
モゴロドは、いったん言葉を切る。
そして、机の上に置いてあった紙を取り出し、私の前に持ってきた。
ん?
どうやら、調査報告のようだ。
なになに。
「将軍。そこに書かれてある将軍こそ、私がシルバー王国第三将に推薦したい御仁です。名をカウスリップと言いまする」




