表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/34

第18話

「へえ?エリカさん、シルバー王国に来るんだ」


ある日、僕宛てに届いた手紙を見て、そうつぶやいた。


「シルバーの栄光」寮内の談話室で、僕とラナン、ナス、シアン・ルジッグ、そしてダオがくつろいでいた。


僕のつぶやきを目ざとく聞きつけたラナンが、すぐに反応する。


「ん、誰だい?そのエリカさんとやらは」


「あ、ああ、知り合いでね。今、プラチナ帝国の皇太子補佐官についているんだ」


「今度、表敬訪問でシルバー王国に来るらしいから、休みの日に会おうって。ついでに町を案内してよって」


「へえぇ」


ラナンは、少し含みのある声を出した。


僕は、


「じゃあ、フェレット様、アカデミーの授業を休んでそちらに対応しないといけないのかな?」


と、誰にともなくつぶやく。


それに疑問を持ったナスが聞いてきた。


「うん、なんでフェレット様なんだ?」


「だって、フェレット様がこの国の王太子殿下なんでしょ?」


以前、ラナンから、王太子だろうと噂されているのがフェレット様だと聞いていた。


だから、プラチナ帝国の皇太子が表敬訪問に来るのなら、対応するのだろうと思ったのだ。


シアン・ルジッグもダオも、顔色を変えない。


それぐらいのことは、噂としてみな知っているのだろう。


しかし、ナスだけは不思議そうな顔をしている。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


俺はナス。


先ほど、フェレット様がこの国の王太子だという話を聞いて、過去の記憶がよみがえる。


おかしいな。


たしか、俺が皇太子時代に学んでいたときは、シルバー王国は王太女、つまり王女が跡を継ぐと聞かされていた。


フェレット様は男だ。


俺は思わず、


「そうなのか、しかし・・・・」


と反論しそうになったが、慌てて口をつぐんだ。


まあ、自分には関係ないし、後で変更したのかもしれない。


なにより、あの時代の知識を使うことは、できるだけ避けたい気持ちがある。


それに、そんな重要な知識を披露して、俺がかつてプラチナ帝国の皇太子であったことを知られるのは避けたい。


今となっては、黒歴史だし。


それに、俺は今の平民の暮らしを気に入っているからな。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


私はプラチナ帝国皇太子、ローレル・プラチアーナ。


我が国から、表敬訪問の大使としてシルバー王国に到着したところだ。


隣には、私の愛する妻サーラ・プラチアーナがいる。


つい先日、式を挙げたばかりで、今はラブラブ新婚期間だ。


しかし、父上、皇帝陛下の命令により、シルバー王国と親交を深めるため、表敬訪問を命じられたのだ。


すでに兄上である第二皇子ジェード・プラチアーナが、アカデミー高等部に交換留学をしている。


そのうえ、私までシルバー王国に足を運ぶ必要があるだろうか?


父上は、はっきり理由を仰らない。


だが、私や兄上と同世代の者を、なるべく多く送り込みたいという思惑があるように思える。


なぜなら、アカデミー高等部を訪問しろと内命を受けているからだ。


なぜだろう。


私の供には、側近や魔法騎士団の護衛、補佐官を数名つけている。


もちろん、私と同世代だ。


「やれやれ、やっと着いたね」


愛しい妻の声を聞きたくて、私は声をかけた。


「そうですわね。ローレル様」


「サーラ。疲れたかい?予定では、このまま王城でシルバー王国国王陛下に挨拶をしに行くことになっているが、先に休ませてもらってもいいんだよ」


私の愛する妻は、少し身体が弱い。


本当なら、無理をしてシルバー王国にも連れて行きたくなかった。


少しでも負担を楽にしてあげたくて、つい声をかけてしまう。


その様子を、周囲の側近や護衛はいつも微笑ましく見ている。


だが、妻のサーラは自身の身体より公務を優先してくれるのだ。


「お気遣いなく。この国へ来て、国王陛下へ挨拶に行くのが今回の目的でございます。そちらを優先してくださいませ」


分かったよ。


そういう表情で、私は王城へ向かうよう供の者に指示をした。


プラチナ帝国からの訪問団を、王城の大広間でシルバー王国国王ロンバムウ・シルバーナが出迎える。


「遠路、ご苦労であった。プラチナ帝国皇帝陛下は息災か?」


「はっ。幸い、すこぶる元気にあらせられます」


「それはなにより。・・・・我が国は、そなたの国と違い、それほど見るものはないであろう。育成機関のアカデミーでも訪ねてはいかがか?」


「そなたたちと同世代の者が多くいる。また、アカデミーは我が国の自慢でもあるでな」


「お言葉に甘えて、そうさせていただきましょう」


お互い淡泊ではあるが、これにて表敬訪問は終わった。


皇太子一行は、最高位の客室に案内され、しばし休憩を取るのであった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


僕がアカデミーの午前の講座を終え、中庭で昼食を取っていると、周囲が騒がしくなっていた。


「どうしたのかな?」


従者のエクレアに聞くと、


「どうやら、プラチナ帝国皇太子の一行が、このアカデミー高等部を見学に来るようです。その様子を見るために、生徒たちはざわついているみたいですね」


と教えてくれた。


そんなことに興味のない僕は、午後の講座の教室へ向かう。


すると、ナスとばったり出会った。


「おい、聞いたか!今からプラチナ帝国の一行が」


「来るんでしょ?聞いたよ」


「それだけじゃなくて、俺たちが午後から受ける歴史の講座を見学しに来るそうだぞ!!」


「おかげで、我が国の代表である第二皇子ジェード・プラチアーナ殿下と、公爵令嬢キャロット・アプリコット嬢まで、歴史の講座の教室へ来るそうだ」


「げ。それは・・・・嫌だね」


「だな。俺なんて気まずくて気まずくて」


ナスは元プラチナ帝国皇太子で、第一王子ナスタチウム・プラチアーナだった。


しかし、あるやらかしで皇族から除籍され、追放されて平民となったという経歴を持つ。


「なるべく目立たないようにしよう」


とぶつぶつ言いながら、僕とナスは午後の講座の教室へ向かった。


その途中、やはり皇太子一行に出くわした。


向こうは僕のことを知らない。


だが、その一行の中に、補佐官であるエリカさんがいた。


そのとき、後ろから、


「あの女の人がエリカさんかい?ふ~ん、きれいな人じゃないか」


と、不意にラナンから声をかけられた。


「ああいうタイプが好みなのかい?」


「え、い、いや、そんな関係じゃないよ」


僕は慌てて否定した。


ラナンは、そんな僕をふ~んという顔で見ていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


皇太子一行がアカデミー高等部の訪問を終え、王城に戻ってくる。


すると、シルバー王国の王位継承権第一位を持つ王太女が、一行を出迎えた。


高貴な身なりではある。


王国随一の衣装をまとっているのだろう。


だが、どこか軽やかな印象を与え、気品よりも動きやすさを重視したドレスに見える。


王太女は、王族特有のカーテシーを取った。


「おかえりなさいませ。皇太子殿下。殿下たちの宿泊する部屋にご案内いたします」


皇太子の供応役は、やはり身分が対等である者が望ましい。


ゆえに、王太女直々に世話を任されるのである。


皇太子たちが部屋へ案内され、王太女がその場を離れたのを確認すると、サーラが口を開いた。


「ねえ、気付いておりましたか、ローレル様」


「うん。ねえ、エリカ君。ここのシルバー王国の王太女と知り合いだったのかい?気のせいか、ずっと君の方へ視線を向けていたよね」


皇太子補佐官エリカが答える。


「いえ、そんなはずは。面識もありませんし。ですが、私も気になっていることがあります」


「それは、今日見た王太女殿下の視線が、先ほど訪れたアカデミー高等部で感じた視線と同じような気がするのです」


そう。


あの教室には、彼がいた。


彼。


彼に手紙を書いて、表敬訪問でシルバー王国へ行くから、時間ができたら町を案内してねと送った。


以前、プラチナ帝国の皇太子宮で一緒に仕事をし、色々と相談に乗ってもらった彼。


ずっと気になっていたのだ。


アカデミー高等部の教室で彼がいるのを見かけたけれど、任務中だったから声はかけられなかった。


ところが、その近くにいた男子生徒から、敵意を含んだ視線を感じたのよね。


王太女と同じ視線。


同一人物?


そんなはずないのに。


一体、なぜかしら。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ