第15話
『いまさら長く生きても仕方がない。僕は人から嘲笑と侮蔑を受けることに疲れたんだ』
・・・・・・・・。
・・・・。
夢だ。
また夢を見ていたみたいだ。
なんだか、ぼんやりする。
朝みたいなので、ぼんやりする頭を振り切って身体を起こした。
近くには、クレオメがにこにこして僕を見つめている。
今日はうなされていなかったみたいだ。
エクレアたちに心配をかけなくてよかった。
今日は、例の高位貴族の子息との決闘の日だ。
場所は「大将軍の兜」寮の目の前。
僕は指定の時間まで余裕があるのを確認し、準備を整えて、個室の部屋を出た。
部屋の外には、すでにラナンが待っていた。
「おはよう~」
にこにこしながら、手を振ってくる。
「体調はどう?今日は決闘の日だよ」
僕は短く答える。
「ああ。分かっているさ」
「本当に付与付きの剣を用意しなかったんだね。これ、良かったら僕の家の剣だけど、使う?」
そう言って差し出してきた剣には、かなり高度な魔力が感じられた。
だけど、僕は断った。
「ふぅ。君ならそう言いそうな気はしたけどね。勝つ自信、あるの?」
ラナンは、少し心配そうな表情をしている。
僕はそれに答えず、決闘の場所へ向かった。
「大将軍の兜」寮前には、すでに人が集まっていた。
どういうわけか、僕たちの決闘はアカデミー内でも広まっているらしい。
誰だ。
広めたのは?
「やあ。おはよう。体調はどうだい?それと、剣はどれほどのものを用意したんだい?」
そう聞いてきたのは、立会人を頼んだ「大将軍の兜」寮長のシザンサスだった。
「何も。特に普通の剣ですよ」
ほら、と腰にある長剣を見せる。
「・・・・」
無言で僕を見つめるシザンサス。
とても心配そうな目をしている。
そうしていると、
「へ~。本当に来たんだ。てっきり退学手続きをしていると思ったのに。ちぇっ、僕の負けだよ。ミョースト、君の勝ちだよ」
そう言って現れたのは、今日、僕と決闘する予定の高位貴族の子息だ。
・・・・あれ?
名前、知らないや。
まあいい。
向こうも僕の名前を知らないみたいだし。
聞いてこないし、名乗らないし。
無視だ、無視。
それに、今の話だと、僕が逃げる方に賭けまでしていたようだ。
む~。
腹立つなあ。
「・・・・ぼっちゃん。だから言ったでしょう。相手を決めつけ、見下すのはおやめくださいと。旦那様からも言われているじゃないですか」
渋い顔で忠告しているのは、彼の護衛のようだ。
う~ん。
身のこなしからして、実力は冒険者のBランクぐらいか、それより少し下ぐらいか。
相手が油断していれば、僕でもなんとか勝てる程度だ。
「さ~て。観客も楽しみにしているようだし、決闘を始めるか。ふふん。結局、君、名乗らなかったね。僕?僕からは名乗らないよ。こういうのは下の者からが礼儀だよ」
「じゃあ、名無しの君。我が家に伝わる魔剣、“雷閃の太刀”の餌食にしてあげるよ。ぷくくく」
そう言って、見るからに雷属性の魔力をまとう剣を手に持つ。
対して僕は、怪我をさせないように実習用の刃をつぶした長剣を手にした。
だって、明らかに剣を持て余す程度の実力しかないことは分かっていたんでね。
「こりゃあ、いけねえですね。ぼっちゃん、魔剣を使っても勝てませんよ」
ミョーストと呼ばれる護衛は、高位貴族の子息に忠告した。
「ぬわぁ、ぬわぁんだとおお!!僕があんな貧相なちびに負けるというのか?!」
「はい。まったく相手になりません」
うわ、すごいこの人。
あっさり僕の実力を見抜いた。
相当、修羅場をくぐっているのが分かる。
「あの~。そろそろ始めますよ」
シザンサスが、僕と高位貴族の子息の両方に声をかける。
「構いません」
「始めてくれたまえ。・・・・いや、ちょっと待て。私はこの魔剣に加えて、従者も決闘に参加させることにする」
「ええ?!いや、でも」
「古い決闘のルールには、剣と従者は貴族の所有物なり、とありました。私は由緒正しい侯爵家に連なる者。当然、由緒正しいルールで決闘をすることに不思議はないでしょう」
この言葉に、観客は呆れていた。
ラナンは、
「あ~、たしかに300年ほど前まではそういう考えもあったらしいけどねえ。今それを出すかね。長剣の平民相手にさあ」
とつぶやく。
そのつぶやきが観客たちにも聞こえたようで、
「たしかに、さすがに卑怯じゃね?」
「魔剣だけでもかなりの差があるのに、従者まで参加させるの?」
と、周囲から非難らしき声が大きくなる。
その声を聞いた高位貴族の子息は、まずいと思ったのか、
「え~い、だまれだまれ。だいたい、おまえ、おまえはどうなんだ!?剣も従者も自由にしていいぞ!!どうだ、このルールで決闘だ!!」
僕は、
「構わない。そのルールで行こう」
そう言って、目標を護衛のミョーストと呼ばれる人に変える。
「はあ。立会人たる僕に一言の相談もなく・・・・もういいや。好きにしなよ。それじゃ決闘を始めるよ」
諦め顔のシザンサスは、決闘開始の合図をした。




