第14話
彼、シアン・ルジッグはおっちょこちょいのようで、剣術の実習中に自分の番と間違えて練習の場に入ることや、他人の剣を間違えて持っていってしまうというドジをすることが度々あった。
今までは遠巻きにされていたが、僕は相手に謝り、シアン・ルジッグにも謝るように促した。
シアン・ルジッグは、意外にも素直に謝った。
自分でも謝りたいと思っていたのか、それとも誰かに言われないと動けなかったのかは分からないけど。
しかし、そんな彼が、しゃれにならないポカをやってしまった。
騎士科のシアン・ルジッグは剣術実習で、高位貴族とも組むことがあるらしい。
そこで、振り向きざまに持っていた剣が、相手の防具に当たってしまったそうだ。
その相手は「大将軍の兜」寮長シザンサスだった。
穏やかな彼は、恐縮するシアンに「気にしなくていいよ」と言った。
ところが、同じ「大将軍の兜」寮に所属していた高位貴族が、それを咎めた。
尊敬している寮長への無礼を、見過ごせなかったのかもしれない。
だが、シザンサスが止めても、高位貴族の子息はシアン・ルジッグを詰り続けた。
いくら詰ってもじっと耐えているシアン・ルジッグが、面白くなかったのだろう。
ついに、とんでもない暴言を吐いた。
「所詮、父親が投資詐欺で破産するだけのことはある。貴様ら親子は貴族に不適格なんだ!!」
その言葉に、シアン・ルジッグも、側で聞いていた寮長のシザンサスも顔色を変えた。
「それは暴言だ!!すぐに彼、シアン・ルジッグ子爵子息に謝罪したまえ!!大体、君は何の権限でそこまで彼を愚弄するのか!!」
しかしその後、シアン・ルジッグは正気を失ったかと思えるほど、実習の場で暴れたらしい。
教員には、シザンサスも事情を説明し、シアン・ルジッグ一人が悪いわけではないと言ってくれた。
だが、高位貴族の事情が優先されてしまい、シアン・ルジッグ一人が罰を受けることになった。
ラナンが寄ってくる。
「聞いたよ。シアンくん、謹慎なんだって?あのさ、謹慎でもパーティのリーダーは面会できる権利を持っているんだよ。君、見ておいでよ」
そう教えてくれた。
僕はその言葉を聞いてすぐに、シアン・ルジッグが謹慎している個室へ向かった。
トントン。
戸を叩く。
「僕だ。入るよ」
そう言ってドアを開け、中へ入った。
中は薄暗く、明かりはついていないようだった。
謹慎中は、明かりをつけることを禁じられているんだっけか。
「先輩・・・・」
「そう情けない顔をしないで。事情は分かっているつもりだ。シアンが一方的に悪いとは思わないし、親の悪口まで言われたんだ。それでも黙っていたら、ずっと舐められっぱなしだ」
よくやった、と肩を叩いて励ます。
「・・・・先輩、僕、自分が情けないです。もっとうまく感情をコントロールできると思ってた。だけど、父上のことを言われてカッとなって、それで」
「いいんだ。親を馬鹿にされたんだ。それすら我慢してしまえば、人として大事なものまで無くしてしまう。シアンは子爵家の貴族だ。だろ?醜聞かもしれないけど、馬鹿にしたら仕返しをされるかもと思わせたんだ。よくやったよ」
「それに、相手が高位貴族出身だろうと関係ない。シアン、君の無念さは僕が晴らしてみせる!!」
え、どうやって?
そう言いたげな目を見て、僕はにやりと笑った。
そして「大将軍の兜」寮へ行き、シアンへ暴言を吐いた高位貴族の子息を呼び出してもらった。
「なんで呼び出したか分かりますよね?あなたは暴言を吐いたうえにシアン・ルジッグを追い詰め、すべてを彼一人の責任にした」
「だからなんですか?ああ、出来損ないをパーティに入れた苛立ちですか?でも、出来損ないを入れるパーティのリーダーも出来損ないですよね?」
「・・・・僕のことを悪く言っても構わない。出来損ない?そうかもしれない。だけど、親の負の遺産を背負って必死で頑張る者を馬鹿にするやつは許せない!!」
「ふん。面倒くさいやつ。謝罪をしろと言うのかな?」
そこへ、寮長のシザンサスがやってきた。
「話は聞いていた。私は今でも、君が悪いと思っている。あれは言い過ぎだ。剣を防具に当てられた私でさえ、気にしないでと言ったにもかかわらずだ」
「チッ」
「シザンサスさん。ありがとうございます。ですが、このまま引き下がれません。謝罪してください」
「謝罪しろ」
「・・・・なら、こうしましょう。私も貴族の端くれ。決闘で決めましょう。決闘で負ければ、シアン・ルジッグ子爵子息に謝罪をしましょう。ただし――」
「私が勝てば、んふふふ。そうですねえ、アカデミーにいる間、私の奴隷になってもらいましょうか?」
決闘。
昔から、貴族のあいだで意見の折り合いがつかないときに行われており、いつの間にか貴族にとって特別な儀式と見なされるようになったものらしい。
勝敗は神の采配で決まり、正しい者が勝つと言われている。
やり方は、お互いに剣一本で勝負をし、どちらかが「まいった」と言うまで続けるのだ。
シルバー王国内でも少し前に、貴族の間でずいぶん流行ったらしい。
決闘・・・・。
話に聞いたことがあるけど、剣のみ使えるというのが曲者だ。
剣ならどんなものを使ってもいい、という裏のルールがあると聞いた。
家が高位貴族だと、魔剣と呼ばれるものや、価値の高い付与魔法付きの剣を持っている。
それを使うことはマナー違反だが、ルール違反ではない。
結局、爵位やお金を持っている者が有利に運ぶのだと、以前ラナンから聞いた。
それでも、
「よし、分かった。決闘を受ける。シザンサスさん、決闘の立会人になってもらえますか?」
僕はすかさず受け、逃げられないようにシザンサスさんに立ち会いをお願いする。
「あ、ああ。それはいいんだが、決闘か・・・・」
「場所はこの広場。時間は、ん~、一週間後でいいでしょ。平民の君にとっては、怖くて仕方ないと思いますが?」
「僕はそれでいい!!」
あいかわらず嫌味ったらしい言い方をしてくる。
こうして、僕と「大将軍の兜」寮所属の高位貴族の子息との決闘が決まった。
そしてこの騒ぎは、翌日にはアカデミー全体に広がっていた。
「ぷっくくく。君ってやつは、いつもいつも僕の予想を超えるね」
とラナンに笑われる。
同じパーティのダオからも、
「決闘?古くさ。あほですか、リーダー先輩。きっと相手は、家に所蔵している高価な魔剣を用意しますよ。はなから勝負が見えているのに、相手のペースに巻き込まれるなんて」
と鼻で笑われた。
そうか。
剣を用意しないといけないんだ。
僕はどうしようか。
以前、シェラにもらった短剣ならあるけど、長剣なんて持っていない。
ナスからも聞かれる。
「あのよう、念のため聞くけど、おまえ、高価な魔剣や付与魔法のついた剣なんて持ってねえよな?」
「う・・・・いや、まあ、ない・・・・けど」
と言い淀む。
それはさておき、僕はシアン・ルジッグ子爵子息の個室へ行き、どうなっているか説明をしに行った。
「もういいですよ。先輩。決闘なんて馬鹿馬鹿しいです。先輩がこんな俺を本気で庇ってくれたことが分かっただけでも、うれしいです。だから、決闘なんてやめてください」
「俺、先輩が、俺は間違ってないと言ってくれたこと、嬉しかったです。先輩に酷いことを言ったのに、庇ってくれた。それだけで俺は」
シアンは涙声だった。
僕は、その様子をじっと見ていた。




