第11話
テストが近づくにつれ、講座が終わるとすぐに寮へ戻る生徒が多くなっていった。
昼休みも、普段はおしゃべりをしている姿が多く見られたのに、テキストを読んでいる生徒が増えている。
なるほど。
これがテスト期間というものなのか。
僕はいつもと違う生徒たちの様子を、きょろきょろしながら見渡していた。
そんな僕に声をかけてきた人がいた。
Aランク冒険者、風神のパロットさんだ。
「いよう。少年。奇遇だね。また会った」
「あ、パロットさん。こんにちは」
僕はぺこりと頭を下げる。
「そういえば、ピンク髪の女生徒の件はどうなりましたか?」
「ああ、その件は、あの日のうちに片付いたよ」
パロットさんは、こともなげに言う。
「詳しく知りたいかい?」
僕はこくりとうなずいた。
「まあ、言っちゃいけないとは言われてないから言うけど・・・・」
「簡単に言うと、半分は自分の意思で、半分は権力争いの犠牲だ。高位貴族に命令されていた。あの令嬢は男爵家出身だ。その中でも、特に貧乏な家だった」
「なので、金持ちの家の子息にアプローチをしていたらしい。そこを、この国の大臣を務める貴族に目を付けられた。そして今度は、命令された家の子息に接触しろと命令されたそうだ」
「その大臣の貴族は、彼女が裏切らないように契約の魔道具で縛っていたんだが、令嬢の方もまんざらではなかったようでね。魔道具半分、令嬢の意思半分といったところだ」
ハハハ、とパロットさんは笑う。
「それで、どうなったんですか?」
「うん。即、魔道具を破壊し、精神魔法で記憶操作をしたんだよ。私の持つ聖属性魔法で記憶の浄化、リセットだね。それをかけたんだ」
「すると、夢から覚めたように意識が戻ってね」
「そうしたら、恥ずかしがるのと同時に、罪悪感も覚えていたよ。もうアカデミーはやめて男爵家に戻り、どこか貴族の家に侍女として雇ってもらうと言っていた」
「だから、この件は依頼完了済みだ」
そうか。
それなら、もう安心だな。
被害にあって悪い噂を立てられてしまったアイベックス男爵も、彼女に恨みの気持ちは残っていない。
彼もまた、ここから貴族としてやり直すだろう。
「さて、それでだな。私の用件なんだが、この近くにシルバー王国、いや、この中央平原で最も高貴とされるお方っていないかな?」
また、変なことを質問するな。
あれ、いや待てよ。
この質問、以前にも聞かれたことがあるような。
近くにいる従者のクレオメは、
「そんな方、エクレア様かシェラ様に決まってますぅ」
と言って、エクレアたちの方を見た。
だが、その瞬間、しまったという顔をする。
「クレオメ。・・・・忘れたのですか。この世で一番大切な方は誰かということを」
「あ、あ、ご、ごめんなさい。ご主人様でした」
涙目になるクレオメに、
「以後、気を付けるように」
とエクレアは指導していた。
そんなやり取りをそばで聞いている僕は、いたたまれないほど恥ずかしかった。
パロットさんは、ため息をつく。
「はあ、いや、すまない。変な質問をしてしまった。忘れてくれて構わない」
「はあ、また探すとするか。占いでは、このアカデミー内にいると出ているのだけど」
そうぶつぶつ言いながら、パロットさんは去っていった。
夜。
談話室にて。
ラナンと僕はテスト勉強をしており、お互いに分からないところを教え合っている。
僕はふと思い出して、口を開いた。
「そういえば今日、パロットさんにまた会ったよ」
ラナンはむすっとした顔になる。
「君も、ああいう美人さんに目がないのかい?鼻の下をでれっと伸ばしちゃって」
別にそんなつもりはないけど、変なことを言うなぁ。
まるで彼女みたいな反応だ。
だけど、ラナンは男だし。
その後、ラナンは機嫌が悪くなったようで、勉強を教えてくれなくなった。
翌日。
またパロットさんに声をかけられた。
「やあ、少年。ちょうどいいところに。君に話があるんだ」
あ、パロットさんだ。
会えて僕も嬉しいけど、このことを言ったら、またラナンが機嫌を悪くするかなあ。
「実は昨日のことでね。少し事実と違うことを言ってしまったので、訂正をしようと思って待っていたんだよ。会えて良かった」
昨日のこと?
う~ん。
なんだったっけ。
ああ、ピンク髪の女生徒のことかな?
話を聞くと、やはりピンク髪の女生徒のことだった。
記憶はリセットしたが、まだ十分に戻っておらず、これから医療室にいるその令嬢のところへ行き、もう一度魔法をかけ直すのだという。
解決済みとは言ったが、そういう意味ではまだ終わっていなかった。
だから、僕にそのことを伝えたかったのだという。
パロットさんって、律儀な性格なんだな。
良い人だし、パロットさんが探している人の手伝いをしてもいい。
僕はパロットさんの律儀な性格に、好感を持った。
「ねえねえ、今からそこへ行くんですか?僕もついていっていいですか?」
それが終わったら、パロットさんが探しているという人の手伝いも申し出てみよう。
僕が見つけられなくても、従者のエクレアとシェラがいるから見つけてくれるだろうし。
そう考えながら僕が聞いてみると、パロットさんはうなずいた。
「いいぞ、少年。と言っても、その場に立ち会うことは難しいがな。建物の外でなら待っていてもいいと思うぞ。少年は優しいな。そのピンク髪の令嬢を心配しているのだろう?」
パロットさんに勘違いされて、そう言われてしまった。
まあいいや。
僕の気持ちなんだから。
そう思いながら、僕はパロットさんについて建物の方へ向かっていく。
すると、向こうから、
「わあああ。私は、私はああああ。なんてことをおお」
と髪を振り乱しながら走ってくる人物がいた。
ピンク色の髪をしている。
「まずいな。拘束が解けている上に、だいぶ混乱している」
パロットさんはそうつぶやき、混乱している女生徒を手早くつかまえた。
「ふむふむ。かなり記憶が戻っているが、危ない状態だ。もう一度かけ直さないと精神が持たない。くっ、時間がない」
そう言って、パロットさんは聖属性魔法の詠唱を始めた。
「聖処女神エリューシオンのみ名のもとに・・・・」
ピカア。
強烈な光に、僕は目を閉じる。
気づくと、ピンク髪の女生徒はパロットさんの腕に抱かれて眠っていた。
「ふぅ。これで大丈夫。それよりも心配なのは、少年、君だ。とっさに呪文を唱えてしまったせいで、もしかすると周囲にいた少年にも、その影響が出てくるかもしれない」
「非常事態だったとはいえ、すまない。もし何か変なことが起きたら、私を呼んでくれ」
そう言ってパロットさんは、ピンク髪の女生徒を元の建物へ戻すために、僕と別れた。




