第10話
「フェレット様がかわいそうですぅ。解放してあげてください。彼と私は愛し合っているんですっ!!」
またか、と頭を抱えるのは私、フェレット・モンステラ伯爵令息。
隣には私の婚約者が座っている。
彼女もまたか、という表情を私に向けていた。
朝一番に、とんでもなく誤解を招く内容を叫ぶのは、最近、私の周りをうろつくようになったピンク髪の令嬢だった。
頭の中身までピンクなのかと、何度思ったことか。
言っていることが支離滅裂だということは、隣の婚約者も分かっている。
だが、こうもしつこいと、一緒にいるのが不愉快になるだろう。
このままでは、愛想を尽かされて捨てられてしまう。
愛する婚約者に捨てられたら、軽く十回は死ねる自信がある。
だから、いつも言っている。
「しつこい!!君は何度言わせるのだ!!私と婚約者は愛し合っている!!君とは二人で会ったことなんかないじゃないか!!これ以上、私の婚約者にでたらめを言うようなら――」
「教育卿に頼んで、君に処分を下してもらうぞ!!」
ここまで言っても、ピンク髪はうるうると目を潤ませる。
「可哀そうに、そう言えと脅されているのですね」
まるで話にならない。
こいつと会話をしていると、頭が痛くなってくる。
ここまでくると、他国のスパイかとも疑いたくなる。
ここはアカデミーの敷地内なので、はっきりと王族だと名乗らない限り、護衛も付けられない。
警備員はいるが、これだけでは呼べないのだ。
どう言って退けようかと考えているその時、
「警備員さ~ん。ここでもめ事がありますよ~。来てくださ~い」
という、警備員を呼ぶ声が聞こえた。
その途端、ピンク髪の女生徒は一目散に逃げていった。
「ほっ。助かった」
私は安堵した。
お礼を言おうと思って顔を上げると、そこには今、アカデミーで一番注目されている面々がいた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
朝、登校すると、フェレット・モンステラ伯爵令息がピンク髪の女生徒に絡まれているのが見えた。
「あ、あのピンク髪は、私にいきなり婚約破棄を叫んで評判を落としていった女です!」
アイベックス・エルマール男爵が叫ぶ。
そうか。
どうも、トラブルを呼ぶ女みたいだな。
困っているようだし、僕は警備員を呼ぶふりをして、ピンク髪を退散させた。
ふぅ。
思った通り、警備員を呼ぶと言ったら逃げていったぞ。
「大丈夫でしたか?」
「ああ、助かったよ。私だけならともかく、隣に愛する婚約者がいるからね」
フェレット様はそう言って、隣の女性に目を向ける。
「やあやあ、相変わらず仲が良いね」
そう言って、ラナンがやってきた。
「あ、これはラナンさ、ラナン。ご挨拶だね。見ていたんなら助けてくれてもいいんじゃないか?」
そう言うフェレット様をよそに、隣にいる婚約者がラナンに対してカーテシーをする。
やはり、ラナンは高位の貴族かもしれない。
「おいおい、やめてくれよ。ぼくの方こそ、礼を尽くさないといけない立場なのに」
「これは失礼いたしました。ただ、どのような方であれ礼儀を尽くすことが私の立場なので、ご理解いただけると幸いです。私の振る舞いが、婚約者のフェレット様の評価にもつながりますし」
そう言って、彼女はフェレット様の方を見て顔を赤らめる。
「本当に君たちは仲が良い。見てて安心するよ。そんな君たちのために、助っ人を呼んだんだ」
そう言って、ラナンは後ろで控えていた冒険者を紹介する。
「はじめまして。この国のアカデミーの依頼で来ました冒険者の『風神』といいます。本名はパロットといいますが、二つ名の『風神』と呼んでください」
おおおお。
Aランク冒険者のパロットさんじゃないか。
アカデミーの依頼って何だろう。
まさか、先ほどの女生徒のことで?
そんなことでAランクは呼べないか。
もっと大きなトラブルがあるはずだ。
今、このアカデミーに何か起きているのか?
そう考えていると、Aランク冒険者風神のパロットは、長い銀髪を触りながら僕の方を向いた。
「いやあ、久しぶり。コパー都市国家の件以来か。奇遇だね。私もアカデミーに探し人がいて、ちょうどよい依頼があったし、便乗して来させてもらったんだよ」
「なんせ、頭のおかしいピンク髪の女生徒をなんとかしてほしいなんて依頼、誰も引き受けたがらなかったからね」
アッハッハッハと、高らかに笑う。
え、本当にそんなことのためにAランク冒険者が依頼を引き受けたのか!!
探し人がいると言っていたから、パロットさん的には問題ないのかな。
「先ほどのピンク色のご令嬢を近づけないようにすればいいのかな?」
パロットさんが聞くと、ラナンはうなずく。
「まあ、そうだよ。お願いできますか」
「大丈夫ですよ」
「一応、彼女の周囲を調査して、精神魔法を受けているのか、家の命令でやっているのか、はたまた本人の意思でやっているのか、はっきり分かったら方針を決めますので」
そう言って、パロットさんはピンク髪の女生徒が走っていった方へ向けて歩いていった。
まあ、これで絡まれることはなくなるだろう。
フェレット様は、
「よかった。これでもう絡まれることはないんだな。さっきはひどいことを言ってすまなかった。ちゃんと手を打ってくれていたんだな」
とラナンに言う。
いいよいいよ、とラナンは笑っていた。
「さて、問題も解決したし、テストも近いので寮へ戻らないか。テスト勉強は必要だよ」
そうか。
もうそんな時期なのか。
テストなんて人生で初めて受けるけど、どんな雰囲気なんだろう。
勉強は嫌いじゃないからいいんだけどね。




