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龍華の英雄〜亜人戦記と弓を握りし臆病な少年〜  作者: オルレアンの人
最終章『龍華の英雄』

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96.穿て

「あとは任せろ」


 紅蓮はそう告げて前を向く。

 治療を受けた直後なのか、包帯に血が滲むボロボロの姿でありながら偃月刀を握って。

 

「隊長......俺...も....!!」


 その姿を見て、満足に動けないからなどと言い訳できるはずがない。

 祐基は自身に残る力を振り絞り、立ちあがろうとしたが。


「祐基、お前はよくやった。隊長として本当に誇りに思う。だがあとは私たちを信じ、休んでいてくれ」

「そうですよ祐基くん!その傷じゃもう無理ですよ.....あとは紅蓮さん達に任せましょう!」


 その仲間からかけられた言葉が錘のように身体にのしかかる。

 祐基は紅蓮達を信じていないわけではない。

 むしろきっと倒してくれると確信している。

 だが屈釖の想い、亜人王を倒す役目を果たせなかった己の無力を嘆いているのだ。


「隊長.....」


 そんな祐基を背に、紅蓮と紅忠は歩み出す。

 暴れる亜人王に向かって。


「さて....あのデカブツ、どう討伐してくれようか.....」


 長く白い顎髭を撫でながら紅忠は呟く。


「祐基が幾度も奴の体に穴を空けているのが見えましたが、効いている様子はありませんでした。まず弱点を探らねば....」

「全く、ワシはああいう巨大生物に有効打が少ないから苦手なんじゃが」

「期待しています、『飛龍』将軍」


 そう2人が話していると。


「奴を討ち取る気ですね」

 

 瓦礫の山より1人の女が跳んできた。

 何者か、紅蓮と紅忠は反射的に警戒し足を止める。


「ん?鬼選組きせんぐみの隊服....お前さん、日の国の者じゃな?」

「日の国....侍という兵士か」

「私の名前は沖田。鬼選組一番隊副隊長を務めています。微力な身ではありますがお力添えを」


 そう言いながら沖田は軽く頭を下げた。

 

「少しですが奴と戦いました。どこを斬ろうとダメージがなく、しかし砲撃にだけは痛みを感じているかのような咆哮を」

「黒龍砲か。しかし祐基の雷衝動のがよっぽど威力あるはずなんじゃが.....」

「やはり奴を討ち取るには『鵺』というものが何なのか、知る必要がありますね......」

「.......『鵺』?」


 その時、沖田の表情が変わった。


「今、なんて?」

「奴の権能....ではなく『力』とかいうものの名称です。しかしそれに誰も聞き覚えがなく」


 沖田は亜人王の方を向く。

 しばらく見つめ、その目は大きく見開かれた。


「.......そういうこと.....何処かで見た怪物と思ったけど.....」


 何か思い当たる節があるのか、沖田は納得したように呟く。

 そして、亜人王の頭部へ刀の切先を向けた。


「弱点がわかりました。ニュースで見ましたが奴の頭部には、生物の弱点である心臓や脳などの重要な器官を一つに纏めた小さな核があります。倒すにはそこを破壊するしかないです。けど、あの頭部は戦車の砲弾も通用しないほど硬い」

「ニュース.....?戦闘用馬車の砲弾.....?」

「本当か!?」


 聞いたことのない単語に紅忠が首を傾げる中、気にせず紅蓮は飛びつくように沖田を見た。


「私が元いた国で奴は一度倒されました。恐らく核は変わらずあそこにあるでしょう」

「そうと分かれば話が早い。全力を出せるほどまだ回復してませんが、私があの顔を粉砕します!」

「......まぁええか。ひとまずそれを信じるとしよう。にしとも紅蓮、少し落ち着いたらどうじゃ?体に力を入れすぎじゃ」

「部下をあんな姿にしてくれたんです。落ち着けというのは難しい。早く奴を討ち取りましょう」


 紅蓮は亜人王を睨みつける。

 その瞳には明確な怒気が宿っていた。


「それはそうじゃが.....問題はどうやってそこまで近付くかじゃな」


 1番の問題はそれだ。

 100メートルを超える巨体の頭部。

 そこまでどうやって行くか。

 

「<フライ>を使える陰陽師を連れてくるべきだった.....」


 沖田が小さく呟く。

 すると紅蓮は。


「一つ策を思いつきました」

「本当か」


 その発言の2人の視線が集まる。

 

「『飛龍』将軍の射った武器を足場に飛び続ければ、いずれ辿り着きます」

「........」

「っぷ...!わっはっはっはっは!!」


 そのあまりに脳筋な内容に紅忠は盛大に吹き出し、沖田は...(マジで言ってるのこの人....)とでも思ってそうな少し引き気味な顔を出して固まった。


「ヒミノコ様からこの国の兵士達はみんな脳筋と聞いていましたが.......本当だったとは....」

「『飛龍』将軍、いかがですか?」

「おもろいから良いぞ!だが飛んどる最中に邪魔されては難しいじゃろ。沖田、お前さん1人で奴を抑えられそうか?」

「やれます。っと言いたいですが流石に1人では....」

「ふむ、なら紫蓮を呼ぶべき...「隙ナラ私ガ作ッテアゲル」


 突然、人間ではない独特の声....亜人の声が耳に入ってくる。

 紅蓮達三人は即座に武器を構え、振り返った。

 偃月刀の切先、その先にいたのは毒蠍人スコルピオン.....その女王。


「ポリズン!!?何でここに!!」


 みやこの城門に現れたはずの六荒王、ポリズンだ。


「亜人....蠍の擬人化....初めて見た」

「お前さん...『蒼龍』達はどした」


 思わぬ強敵の出現に全員が警戒をむき出しにする中、ポリズンは片手を前に出し手のひらを広げ見せた。

 

「落チ着キナサイ、目的ハ一緒ヨ。アノ馬鹿三人組ガ言イ争ッテイル隙ニ、アナタ達ノ仲間ノ師羽藺シバイトカイウ奴ノ手ヲ借リテココマデ来タノ」

師羽藺しばい副司令が.....」

「ん...?敵じゃないんですか?」


 沖田が首を傾げ、紅蓮と紅忠に尋ねる。


「....そのようじゃな。じゃ、ありがたく手を貸させてもらおうかのうポリズン。互いに恨みや仇は一旦忘れてな」

「ソノツモリヨ。隣ニ立ツダケデ吐キ気ガシテクルケド、愛シイ子供達ノタメ我慢スルワ」


 ポリズンは紅蓮を見つめながら吐く。

 恐らく、初めての偵察任務で毒蠍人スコルピオンの巣を壊滅させた事を今も根に持っているのだろう。

 紅蓮は自分へ向けられる殺気を、肌でひしひしと感じていた。

 今この場で、すぐにでもその手の武器がこちらへ向きかねないほどの殺気を。


『ヴオォォォオオオォォォッッ!!!!!』


 亜人王の咆哮が轟く。

 放たれた光線が宮殿の一部を破壊。

 砲撃部隊がいた箇所は火の海と化し、さらに別の一帯を攻撃しようとしている。


「時間はないな....『飛龍』将軍!!お願いします!!」

「任せい!」


 その掛け声と同時に紅蓮が走り出す。

 およそ距離50メートル、紅忠は剣を筒から抜き取るとすぐに放つ。

 間髪入れず二刀目を射ち、さらに三刀目と続く。

 紅蓮は走りながら跳び、背後から凄まじい速度で迫る一刀目の剣に足を置いた。

 そして、すかさずその剣を足場にもう一段上へ跳ぶ。


 本来であれば、自身の重量に剣は足場とならず下へ落ちるものだが、紅蓮の身軽な動きによる重量を無視した動き。

 さらに紅忠の弓技術が重なり、剣は見事に一瞬だけ足場となった。

 続く二刀目三刀目....次々と飛来する剣を踏み、紅蓮はさらに空へと上がって行く。


「来るッ!」


 気付いたか、亜人王が紅蓮に振り向く。

 そして咆哮を上げながら、腕を一振り。

 だがその動きをいち早く読んだか、沖田が紅蓮の前に突如現れた。

 比喩ではなく、その場にパッと。

 恐らく権能持ちなのだろう。

 紅蓮は一瞬こそ驚くがすぐに意識を切り替え、空へ昇り続ける事だけに集中する。


「ふぅぅぅ......」


 沖田は深く息を吐き、刀の切先を迫る腕へと向けた。

 同時に地上では、ポリズンが刺棘杖しとつじょうを地に叩き、その腕に向け。


「『伸棘・穿威深(シンキョク・ハイシン)』」

「『無速三段突き(むそくさんだんづき)ッ!!!』」


 杖より伸びた無数の棘が巨大化し、凄まじい速度で亜人王の腕に突き刺さる。

 同時に沖田は空を蹴り、腕に向け剣を一突き。

 亜人王の腕に棘が食い込み、刀が穿つ。

 その衝撃に耐え切れず、腕に無数の亀裂が走り、そして。

 巨大な腕は砕け、崩れ落ちた。


「フン」

「やった!」


 沖田とポリズンは紅蓮を見上げた。

 あとは紅蓮が核を壊せるかどうかに懸かっている。


 崩れ落ちる腕を見下ろし、紅蓮はついに亜人王の頭部、その目と鼻の先に到達する。

 すぐさま紅蓮は偃月刀を構え、亜人王の眼を睨みつけた。


 (『赤・龍』は使えない....この技に賭ける!!)


 全身の力を刃へ集中させ。


「『赤・突(せき・とつ)』ッ!!!!」


 鋭い偃月刀の一撃が亜人王の頭部、額部分を突き刺した。

 頭部を守る黒い鱗はひび割れ、亀裂が一気に広がっていく。



「やった.....!!紅蓮さんがやりましたよ祐基くん!!!」

「隊長.....」


 離れた位置でそれを見届けた翠鳳は勝利を確信し喜び、祐基も戦いの終わりを感じた。

 本当は自分が倒したかった敵。

 屈釖にあの世で会ったら何と言うべきか。

 そんな事を考える。

 

 (兄貴.....俺が倒せなくてごめん.......けどこれで、やっと終わった........)


 そうだ、倒せたのならそれでいいじゃないか。

 誰が倒したかなんて関係ない、国は救われたんだ。

 そう思い、祐基は張り詰めていた力を抜こうとした。



 だが。

 


「.......え?」


 翠鳳が小さく呟く。

 困惑の声を。

 空中で静止する紅蓮、その表情を見つめて。


「....ッ!!」


 紅蓮の顔から血の気が引いていた。

 その視線の先、ひび割れた亜人王の頭部。

 偃月刀の刃は確かに貫き、額を穿った。

 だが神のいたずらか、運命が亜人王を手助けしたのか。


 外から見える、核と思しき物体にあと数センチ。

 切先は届いていなかった。


『ヴォォォオオオオォォォズゥウウウゥウゥゥゥゥッッ!!!!!』


「っ....!!」


 空中で止まる紅蓮。

 亜人王はもう片方の腕を振り上げ、そのまま紅蓮を地面へ叩き落とした。

 宮殿内の建物を幾つも巻き込み、紅蓮の姿は祐基達の視界から消えた。


「うそ....紅蓮さん.........」


 翠鳳の顔から喜びの色は一瞬で消えた。

 ただ目を見開き、紅蓮が落ちた方向を見つめている。

 そして、亜人王は再び光を溜め始め、今度は地上にいる紅忠達へ光線を放った。


「負けたの......私たち.........祐基くん.....」


 悲嘆に染まる翠鳳が祐基の方を振り向く。

 絶望の混じった眼を向けて。

 作戦は失敗し、紅蓮の生死は不明。

 亜人王は未だ健在。

 紅忠達が戦闘中ではあるが、放つ光線を前に手も足も出ずにいた。

 翠鳳の目にはその光景がこう映ってしまったのだろう。


 この国は、あの怪物に負けたのだと。


「......まだだ」

 

 だが祐基は違った。

 拳を握り歯を食いしばり、全身に残る力をかき集め。

 そして、ゆっくりと立ち上がる。


「祐基くん.....?」


 ただ立ち上がるだけで、全身の体力を使い果たしたかのような疲労が襲う。

 しかも、立ち上がれたところでその手に雷衝動はない。

 いまの祐基には何もできなかった。


「祐基くん.....祐基くんの魔力はもうないですし.....雷衝動も見当たりません.....もう無理ですよ......」

「大丈夫....大丈夫ですよ......翠鳳さん」


 息を切らしながら祐基は答える。


「すいません.....何でもいいので...弓...ありませんか.....?近くに落ちてるので....いいんで.....」

「え、弓.....じゃあ...これ」


 翠鳳は地面に落ちていた弓を拾い上げると、それを祐基に渡した。

 

「ありがとうございます.....」

「祐基くん....何する気なんですか.....?」


 祐基は弓を受け取ると震える手でその弓を構え、腰から最後の一本である矢を抜く。

 その狙い、視線の先に映るのは。


「紅蓮隊長が作った道......あいつ....塞いでないんです.....雷衝動がなくても.....今なら届く.....!」


 亜人王の頭部、額部分に僅かに空いた穴の奥。

 祐基は亜人王の核を見据えていた。


「え、何言ってるんですか!?祐基くんもう体ボロボロですし....あそこまでかなり距離ありますよ!しかもあんな小さい穴を狙うなんて不可能です!!」


 翠鳳の言う通り、今の祐基の状態は最悪だ。

 見えている視界は半分しか開かない右眼のみの上ボヤけ、手も腕も感覚はほとんど無い。

 魔力はほぼ切れかけ呼吸が安定せず、手に持つのは雷衝動のように雷速の矢を放てる訳でもないただの弓。

 

 そうでなくとも普通の弓兵が、ここから核を射ち抜く事など不可能に近い。

 だが祐基は。

 

「絶対.....外しません」


 祐基は弓に最後の矢を番え、弦を引いた。

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