95.最悪の一手
「プレラーティィィィィィィッッッ!!!!騙したなァァァァァァッッッッ!!!!」
(プレラーティ.....!?)
誰の名前か、亜人王は突如叫び声を上げる。
そして両腕で体を包むような姿勢をとり、その身を少し丸め始めた
まるで砲撃から身を守るように。
明らかに様子がおかしい。
(砲撃が効いてる.....!?痛覚が無いはずなのになんで.....?何にせよ絶好の好機だ!!)
矢は残り2本。
(ここで勝負を決める....!)
頭を穿ち、今度こそ殺す。
その決意と共に地を蹴り、建物から建物へと飛び移りながら正殿の屋根へ向かう。
次の一撃で終わらせるため、全神経を集中させて。
「痛い痛い痛い痛いいいイイイイイイイッッ!!!」
悲鳴の絶叫を上げる亜人王。
気のせいか、その巨体はさらに膨れ上がっているように見える。
いや気のせいではない、祐基は気付く。
体を覆うように次々と全身の皮膚が膨れ上がっていることに。
(まだデカくなるのか....!!)
祐基は足を速める。
そして正殿の屋根へと着いた時、その大きさはついに100メートルを超えていた。
黒く禍々しい塊と化したその姿は、もはや生きている生物には見えない。
黒く塗りたくられた大地が意志を持ち動いているかのような、絵物語の魔獣や魔物が可愛く見えるほどの怪物...その姿だ。
『ヴオオオオォォォォォォォォッッ!!!!!』
もはや言葉は喋らず、都を震わせる咆哮を上げるのみ。
「見るに堪えんな」
「皇帝陛下、お早く退避を!」
「戯け。国の命運を賭けたこの戦い、その眼で見ずして王が務まるか」
沖田は必死に進言するが、皇帝は微動だにせず亜人王を見据え続ける。
「っ!!来るッ!!」
瞬間、沖田の目つきが変わった。
皇帝の腕を掴み、半ば強引に抱え上げ屋根を蹴る。
「むっ」
次の瞬間、亜人王は溜めなく光線を口から放つ。
光線は皇帝が立っていた場所を貫きそのまま後方へ流れ、砲撃を続ける兵士達を消し飛ばした。
(溜めずに撃った...!!)
予想外の攻撃に動揺するも、祐基は勝機を見る。
「ん!さっきの子供の弓兵!」
皇帝を抱え屋根から飛び降りようとする沖田とすれ違い、祐基は亜人王に向かって走る。
雷衝動に自分の残る魔力のほぼ全てを込めながら。
(この一撃で終わらせるッ!!)
亜人王が腕を振り上げ、正殿を叩き潰すと同時に祐基は屋根から亜人王に向かって跳ぶ。
正殿が崩れ落ちる轟音を背に、その腕へと着地した。
『ヴオオォォォオオオォォォォォフゥゥウゥゥゥゥゥゥゥッッ!!!』
亜人王は祐基の乗る腕を再び振り上げた。
そして、肩の部分に向かって走る祐基を落とそうとしているのか、腕を一気に振り下ろす。
祐基はその動きより早く跳び、亜人王の眼前に辿り着いた。
雷衝動から雷が迸り、バリバリと激しく弾ける電流が腕に流れ込む。
流石に手に伝わる雷の力は強く、少しでも手に込める力を緩めれば弓を思わず手放してしまいそうになるほどの痺れと熱。
だが祐基はそれを堪え、亜人王の頭部に狙い澄ます。
『ダアァイイぃガァァァァァアアアァァァァァァッッ!!!!』
亜人王の口内が煌めく。
刹那、祐基目掛けて光線が放たれた。
祐基は宙に浮かぶ正殿の瓦礫を足場に、それを紙一重で躱わすも、間近で浴びた光線の熱に体の半分が一瞬で焼け焦げる。
左眼が暗転し、左腕から感覚が消える。
しかし、それでも祐基は力を緩めずに雷衝動を引き絞る。
弦を限界まで、自身の全てを込める想いで。
「トドメだッ....!!!」
魔力を込めた一撃。
貫通力の『霹靂』ではなく、破壊力を強化した膨大なエネルギーの雷の矢。
「『雷て......ッッ!!!!」
それを射とうとしたその瞬間。
何かが視界を横切る。
ひらひらと舞う、8と書かれたカード。
(これ....あの時の占い師に貰った......)
焼け焦げて千切れた服から飛び出したのか。
だが気にする程のものじゃない。
祐基は一瞬持って行かれた意識を矢に戻す.....。
「仕方ないな亜人王。助けてあげるよ」
そこから声がした。
あの時の占い師の声が。
カチ....カチ....っと、時計の針のような音が響く。
瞬間。
カードは祐基の顔付近で爆発した。
至近距離で炸裂した爆発は祐基の右顔面を抉り飛ばす。
そして、雷衝動から雷は消えた。
身体が力を失い、雷衝動が手から離れる。
そのまま祐基は、地面へと落下していった。
◆
「......き.....ん.......ゆう......くん....!!!」
真っ暗な意識の底に微かに声が響き、祐基は僅かに目を覚ます。
左目は開かず、右目だけあまりに薄くだが少しだけ開く。
見えたのは曇天の空、そして。
「祐基くん!!よかった.....目...覚めたんですね....!」
翠鳳の姿。
目尻に涙を浮かべながら、心底安堵したような顔でこちらを見つめている。
「すい....ほう....さん......」
祐基は右目をさらに、半分まで開き翠鳳の姿をはっきりと確認する。
だが目はこれ以上開けなかった。
何が起きたのか、立ちあがり確認しようとするも、体もうまく動かせない。
腕と足は辛うじて動くには動くが、まるで他人の体を借りているかのように動きが鈍い。
「血は止めました.....左眼も何とか治しましたけど、私の腕では全ての傷は治せず.....まだとても戦える体じゃ....」
ぼんやりと見える視界。
祐基は両腕を天に上げる。
そして視界に入ったその腕を見て、もはや戦える体ではない事を自分でも理解した。
両腕は酷く焼け爛れ、黒く染まり切っている。
弓を持つことすらままならないであろう事は、一目見れば誰にでも明らかな程の重傷を負っていた。
「....雷衝動」
同時に気付く。
肌身離さず持ち続けていた雷衝動が、手元にないことに。
「ごめんなさい....雷衝動は何処にも見当たらなくて.....」
祐基の脳裏に途切れ途切れに蘇る記憶。
爆発が直撃したあの時、雷衝動から手を離してしまい何処かへと落ちていってしまった。
まだ正式に自分の物になったわけではないが、長年連れ添ってきた相棒を失ったような喪失感。
何より亜人王を殺せる武器が無くなってしまった絶望、責任感が祐基の胸を締め付ける。
(亜人王......くそ......俺は....結局何もできないまま.......)
一雫の涙が溢れる。
悔しさと無念、ここまで積み重ねてきた努力と犠牲。
その全てが無駄に終わった。
その絶望に、祐基の心は沈み始めた。
「何1人で、何もかもが終わった...みたいな顔してる、祐基」
その時だった。
倒れ込む祐基に近づく足音、そして聞き慣れた女性の声。
「全く、ワシの弟子のくせに情けない顔しやがって。絶望なんて笑って越えろと教えたろ。....あ、いやまだ教えとらんかったか?」
さらにもう1人、軽い足音に聞き覚えのある老人の声。
「隊長.....師匠......」
体中に包帯を巻く紅蓮と、同じく傷を手当てし終えたばかりであろう紅忠だ。
2人は祐基の前に立ち、目の前で暴れる亜人王を見据える。
「祐基」
紅蓮が振り向き、祐基の眼を見つめた。
「お前には私が、私にはお前がいる。あとは任せろ」




