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龍華の英雄〜亜人戦記と弓を握りし臆病な少年〜  作者: オルレアンの人
最終章『龍華の英雄』

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94.不知火

 幼稚園児の頃から俺は、動物が好きだった。


 犬の嗅覚は人間の1億倍と言われているが、実際どんな匂いを感じているのだろう。

 ハエの眼は360°見える上に人間の動きがスローに映るらしいけど、実際どんな見え方なのだろう。

 蛇は手も足もないのにスラスラと動いているけど、実際どんな風に筋肉を動かして前に進んでいるのだろう。

 

 興味が尽きなかった。

 実際に自分で体験してみたくてしょうがなかった。

 動物も虫も魚も恐竜も、実際にその生物がどんな世界を見ているのか。

 どんな感覚を持ち、どんな生き方をするのか。

 そんな事ばかりを考えていた。


 そしてある日、その願いは叶う。

 俺は神様より、あらゆる生物に姿を変える事ができる『力』を授かる。

 俺はこの『力』を『鵺』と名付けた。

 

 だがそれも子供の頃の話。

 高校生になる頃には、動物への興味はとっくに薄れていた。


 世間では俺と同じく、神より『力』を授かった者...通称“覚醒者”による犯罪が騒がれており、覚醒者は危険だの覚醒者は社会の敵だのと、そんな空気が世の中に広がっていた。

 当然俺も覚醒者の1人。

 しかし親にも教えてないため、俺が覚醒者であることは誰も知らない。

 もし俺が覚醒者であると誰かに.....『力』を使う瞬間を誰かに見られれでもすれば、すぐさま国に捕まるだろう。

 そのため無闇に『力』は使えず、ただ平凡で普通で退屈な学生生活を送るしかなかった。

 

 なんで神から授かった『力』を自由に使えないのか。

 なんで神から何も貰えていない非覚醒者共に制限を課され生きていかなければならないのか。

 そんなモヤモヤを抱えながら。


 そんな俺の元に、ある日一通の手紙が届いた。

 誰も入った形跡のない俺の部屋、机の上にポツンと置かれていたその手紙。

 その内容は、俺が覚醒者であることを知っているかのような文章が並んでおり、1番最後の文に添えられたある名前から、この手紙が誰から....いや、どこから送られたのかを理解した。


『アウェイクニング・ドミニオンズ』


 覚醒者達が集結し、世界各地でテロを起こしている組織の名だ。

 この手紙は、要約すればその組織への勧誘の手紙。

 それを理解すると同時に、俺の心は非日常の訪れを感じ取り胸が高鳴った。

 退屈な日常が終わり、俺も世界を変えれる一員になれると。

 特別な存在になれると。


 俺は組織へ加入した。

 



「お前の『力』は新人類に相応しくないな」



 アウェイクニング・ドミニオンズ日本支部、会合の場。

 加入し約半年、通信機器越しに支部長であるボスがそんな言葉を放つ。

 

「ボス....?」

「本当それ。私も前々からずっと思ってたわ」


 それに同調し声を出す、灰色の長髪に黒いゴスロリ衣装に身を包んだ女。

 その周囲には小さな人形達が浮かび、背後に人間サイズの人形が2体立っている。


胡桃くるみ....!!」

「私達は神様に選ばれた新人類。旧来の生物達とは格が違う高位な生命体。なのに貴方の『力』ときたら.....」

「全くだぜ」


 さらに声が一つ上がる。

 歌舞伎の連獅子の格好をした薄黄色の厚く長い髪の男。

 胸に太鼓を付け、全身に電流が走っている。


雷渦らいか....テメェ...!!」

「“さん”を付けろよガキ」

「俺らにはボス以外上も下もない決まりだろ!」

「お前だけは下だ。皆そう思ってるぜ」


 そう言われ周囲を見渡すと、会合に集まったメンバー全員が俺を見ていた。

 旧人類に向ける眼と似たような眼で、俺を。


「お前の『力』は新人類でありながら旧人類や畜生に化ける“だけ”。旧来の動物共に頼る『力』など新人類に似つかわしくないぜ」

「なんだと....!!」

「こんなアウェイクニング・ドミニオンズの面汚しの役立たずをスカウトするなんざ、あの野郎も何考えてんだか」

「あんたきっと主への信仰が足りないのよ。だからそんな生半可な『力』になったのよ。自分を新人類だと思いながら片足を旧人類側に置くような『力』に」

「テメェら....さっきから黙って聞いてればッ!!」


 怒りで頭が熱くなり、その口を黙らせてやろうと体に力を入れた。

 だが刹那、突き刺す殺気をハッキリと感じ取り体が硬直する。

 雷渦らいかの体を電流が威嚇のように一瞬激しく走り、胡桃くるみの周囲の人形達が一斉にこっちに顔を向けた。

 少しでも動けば殺す。

 その冷酷な眼がそう伝えてくる。


 悔しいが俺は弱い。

 超人的強さのこいつらに手も足も出ないほどに。

 今、俺の命は確実にこいつらに握られている。

 その事実を嫌でも実感できてしまい冷や汗が止まらない。

 呼吸が乱れ体が震え始める。

 俺は今日、ここで死ぬのか......?


胡桃くるみの言う通りだ」


 一瞬の静寂の間にボスが再び声を出す。

 

不知火しらぬい、お前に足りないのは信仰心だ。主は常に我々を観測している。私のように、改めて信仰を捧げれば必ず認めてくださるだろう」

「ボス.....」


 ボスは俺の憧れだ。

 ボスの語った弱肉強食思想を初めて聞いた時、まるで自分の心を代弁された気がし大いに共感した。

 俺の感じたモヤモヤの正体はまさにその思想。

 なんで自分より劣る人間共に合わせて日々を送らねばならないのか。

 合わせるべきは旧人類の方であり、強者である俺たちには自由に生きる資格がある。

 ボスなら、いつかそんな世界を作ってくれるはずだ。

 そう思って今までボスの命令は全て聞いてきた。

 ボスなら、ボスならいつか....。


雷渦らいか

「あ?」


 雷渦らいかがボスの言葉に反応する。


不知火しらぬいを殺せ」

「......え?」


 その言葉の意味を理解する前に、俺の体にいかづちが走った。

 全身が焼け焦げ、膝から崩れ落ちる。


「焦臭っ」


 胡桃くるみが鼻を摘む。


「ボス、いいんですね本当に」

「ボ......ボ....ス.......?」


 呼吸が上手くできない。

 それでもなんとか声を喉の奥から絞り出す。


「言葉を間違えた。しばらく不知火しらぬいを死なない程度に殺し続けろ」

「あいよ。それじゃ、とりあえずここで半殺しにするぜ」

「今回の会合はこれでお終いね。じゃあ私は中国に用事があるのでこれで失礼」


 誰も止めず、誰も助けようとせず、誰も興味すら示さない。

 集まっていたドミニオンズのメンバーは会合の場から次々と去っていく。

 俺と雷渦らいかだけを残して。


「ボ.....ス......なん....で........」


 俺はボスのためならなんでもしてきた。

 どんな犯罪も、殺人だってもう数え切れないほど犯した。

 なのになんで、なんでこんな事を。


不知火しらぬい。太古から人の信仰心が最も高まるのは生命の危機を感じた時だ。もしお前が新人類たる人間であるのなら、覚醒はまた訪れる」


 その言葉を最後に通信機器の光は落ちた。

 それと同時に雷渦らいかの拳が顔面にめり込む。

 視界は暗転し、俺はそのまま気絶した。



 それから地獄は始まった。

 来る日も来る日も雷渦らいかによる拷問が続き雷撃を浴びせられ、殴られ蹴られ。

 気絶すれば起こされ、起きればまた殴られる。

 まるで壊れない玩具でも相手にしているかのように。


 元々、俺を下に見る態度が気に入らず雷渦らいかとはかなり不仲だった。

 だけど組織内での殺し合いは禁止されており、今まで暴力に発展することはなかった。

 だがその許しが下りたいま、今まで溜め込んでいた鬱憤を晴らすように、楽しそうに....本当に楽しそうに雷渦らいかは俺を殴り続けた。

 

 しかし、どれだけ体が悲鳴を上げようと。

 どれだけ神へ祈りを捧げようと、俺に変化は一切訪れない。

 

 そして、1ヶ月後。


「いや、俺も悲しいぜ?まさかこんだけ痛め付けてもなんの覚醒も起きねぇんだから」

 

 俺は十字架に鎖で縛られていた。

 もう眼もまともに開けられないほど顔は腫れ上がり、体の感覚は痛み以外何も感じない。

 いま鏡で自分の姿を見れば、本当にこれが自分の姿だと自覚できるかわからないほど、俺の体はボロボロだろう。

 

「あぁそうだ、ボスから伝言だぜ」


 ボスという言葉に、俺は強く反応する。

 やっとこの地獄から解放してくれるのか.....そんな期待を抱きながら耳を傾けた。


「貴様は新人類たる人間ではなかった。生まれ変わりやり直せ......だとよ」

「ぼ.....す......?」

「要するに死刑宣告だ」


 雷渦らいかが鼻で笑う。


「よかったな、ようやく旧人類を卒業できるチャンスが来たんだぜ?ありがたく死ねよ?旧人類?」

 

 そう言って雷渦らいかは拳に電気を溜め始めた。

 俺を本気で、一撃で殺そうと。


「なんで.......なんで......ぼす......!」

「じゃあな旧人類」


 一切の容赦も情けもない雷渦らいかの拳が振り抜かれる。


 次の瞬間、何もかもが消えた。

 音も痛みも思考も、意識がどこかへと落ちていく。


 どこまでも暗い底へ。


「.....ん?」


 ドクン....と音がした。

 心臓が異様な音を立てている。

 どうやら、俺はまだ死んでいないようだ。

 本来であればまだ命のある喜びを感じるはずだが、感じたことのない感情に喜びは掻き消される。


 体の奥底で何かが蠢いている。

 この感覚は、まるで新しい何かが俺の中で生まれる感覚。

 身体中にある傷を覆い被さるように新たな皮膚が生まれる。

 体が徐々に大きくなっていき、鎖が体を締め付ける。


 自分の体を制御できそうにない。

 思考がドロドロに溶けていく。

 自分が自分ではない何かに変わっていく感覚。

 だが、一つだけハッキリとした意識があった。


 殺す。

 目の前にいるこいつを.....。

 

雷渦らいか......テ...メェ.....だけ...は.....」


 憎悪が喉から溢れ出す。


「ぶっ殺すッ....!!!」

「んっ!?」


 俺を縛っていた鎖はその瞬間、砕け散った。



『緊急避難警報。緊急避難警報。近隣の住民の方々は速やかに近くの避難施設へ避難してください。巨大化の『力』を持つ“覚醒者”が出現しました。繰り返します、速やかに避難を....』


「ご覧くださいっ!!こちらは現在の埼玉市の様子です!!!怪獣の『力』でしょうか....“覚醒者”によって市が壊滅的被害を受けております!!!現在自衛軍が対応にあたっているようですが.....あぁ!!戦車が踏み潰されました!!」


 よく覚えてないが....雷渦らいかの奴には恐らく逃げられた.....けどもうどうでもいい.....。

 気持ちいい.....。

 これが、ボスの望んでいた俺の本当の『力』.....。

 万物の頂点に立ったかのような高揚感を感じる....。

 旧人類共が虫のように見える.....俺が軽く動くだけで奴らは簡単に吹き飛ぶ....。

 

 時間が1秒と経つにつれ、何も考えられなくなってくる....思考が俺ではない別の何かに乗っ取られるような感覚......。

 けどいいや.....すげぇ気持ちぃ気分だ.......。

 だってようやく俺は......本当に新人類へと至ったんだから.....。

 ボス....見てくれ......。

 俺は旧人類を....いや、新人類の中でも最強の存在になった.......。

 俺は....俺こそが....あなたの隣に......。



『速報です!!自衛軍第04対覚醒者部隊『ハバキリ』が怪獣の討伐に成功しました!!繰り返します!第04対覚醒者部隊『ハバキリ』によって怪獣の『力』を持つ“覚醒者”は無事討ち取られました!!』


 










「ようこそ人間よ、私の空間へ」

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