93.騙したな
砲弾の雨で思うように動きづらい。
あとちょっと....あと少しあと一歩あと一手でその首を獲れる距離だというのに.....なぜ届かない....!!?
知識に宿る生物達を配合して新たに生やした腕を伸ばすも、また斬られる。
皇帝の前で跳び回る女の侍の仕業だ。
何らかの権能か....目で捉えられない速度で動き、俺が腕を生やしたそばから斬っていきやがる。
いや、もしや『力』の可能性もある。
この女の服装、明らかに日本の学生服だ。
俺と同じ転生者の可能性が高い。
もしそうであるなら同じ神に選ばれ、同じ女神に導かれここに来たはず.....。
なのになぜ旧人類共の味方をする....!!?
お前も“覚醒者”なら新人類....こっち側に立つべき人間だ!!
「斬っても斬っても生やしてくる.....しかもダメージは無しか.....不老不死の権能か?」
「なぜだ....なぜお前は....!!!」
「!」
口内にエネルギーを集束させ始める。
全生物が持つ能力とエネルギーを融合する事によって、如何なる生物であろうと滅ぼすことができるビームを放てる。
俺が持つ技の中で最も強力な技。
これで消し飛ばす.....!!
「『迅雷』ッ!!」
そう思った瞬間、頭部に衝撃が走った。
チビの弓兵が放った雷の矢が直撃したようだ。
今まで受けた矢とは威力が違う、強力な矢の一撃。
衝撃で照準は逸れ、俺のビームは女の上空、空へと消えていった。
「押した!!けど捻り射ちでも貫通しないか...!!」
「チビ弓兵....!!!」
奴の視線、チビ弓兵は俺の頭部に狙いを定め始めていた。
頭部には心臓と脳を入れており、俺の体において唯一傷付いてはならない場所だ。
『鵺』と名付けた俺の『力』。
幾らでも体の部位を生やすことができ、どれだけ傷付こうと別の生物の肉体で補える。
だが不死ではない。
脳や心臓が撃たれれば普通に死ぬ。
だからこそ最も硬く作った鱗で守っているが、チビ弓兵が放った最初の一撃。
あれであればこの鱗も恐らく破られてしまうだろう。
(満足に戦えないこの状況でそれはキツイ....!!この状況をどうにか覆さなければ.....!!!)
ありえないことだ。
神に選ばれた俺がこんな虫共に押されている。
無敵の体を得た筈なのに、万能の力へと至った筈なのに....!!
(負ける......?この.....俺が.......?また......?)
俺の脳裏に決して浮かぶはずのない、敗北の言葉が僅かに浮かんでくる。
その思考が正解と言うかのように、砲弾が頭部に直撃した。
砲撃の熱が皮膚に伝わる。
虫刺され程度の痛みだがウザいのに変わりはない。
(チビの弓兵に注意を払いつつ、まず大砲を破壊するべきか..........痛い.......?)
おかしい.....なぜ熱を、痛みを感じる?
直撃する砲弾の感触、爆発で生じた熱、斬られた腕の感覚。
まだ僅かだが、感じるはずのない痛覚が徐々に徐々に全身から伝わってくる。
痛覚遮断の権能を持つ自分にはありえない現象だ。
(どうなってる....?なんで痛い?なんで熱い?なんで......)
その時だった。
「(もしもーし?聞こえる〜?)」
脳内に女の声が響く。
聞き慣れた声だ。
俺に痛覚遮断の権能を与えてくれた冥友...プレラーティの声だ。
何の権能か、奴は人の脳内に直接声を届けるテレパシーのような力を持っている。
声に出さず脳内で通話できるあたり携帯電話よりも便利だが、俺から連絡はできず向こうからしか連絡ができない。
(プレラーティ.....!ちょうど良かった....お前からコピーした権能の様子がおかしい...!!どうなってる!!)
「(うんうん頑張ってるの見えてるよ〜)」
俺とは対照的な呑気な声。
「(けどそろそろ痛みを感じ始めた頃かな〜って思って連絡したの)」
痛みを感じ始めた頃.....?
その言葉の意味がわからず、一瞬思考が止まった。
(....は?どういうことだっ!!?)
「(あんたの女神権能、触れた対象の持つ権能を一つ24時間使える.....言わなかったけどあれ複数権能持ちの場合はコピーされる側が渡せる権能を選べるらしいの)」
(は?)
「(いやね、最初は協力しようかな〜って思ってたんだよ本当。でもね〜、やっぱあんたの魂カスすぎて利用価値無さそうだから.....痛覚遮断は遮断でも、私の持つ完全な物じゃなくて劣化版をあんたに渡したの)」
プレラーティから次々と出てくる言葉に衝撃が止まらない。
どれも聞かされていない、俺の知らない事実だった。
(劣化版だと....?)
「(うん、まぁそれでも強力な権能ではあるんだけね。その権能は“痛みを無くす”じゃなくて、“痛みを信じない”っていう思い込みを鍛えて習得した権能なの)」
(痛みを信じない?)
「(完全に痛覚を無くす完全版と違って強いストレスだとか自分が負ける姿が少しでも見えた時、徐々に徐々に思い込みが剥がれて痛覚が蘇ってくるんだそれ。実際もう痛み感じ始めてるでしょ?)」
(プレラーティ.....お前ッ!!?)
嫌な想像が脳裏によぎる。
プレラーティの目的はこの国に眠る、ある宝の確保。
それをどうしても確保したいが龍華兵にトラウマがあるらしく、そこで荒野に転生した直後の俺に取引を持ちかけてきた。
宝の確保に協力するなら俺を最強の存在にすると。
俺はそれに乗り、女神から授かった権能の詳細を知れ、プレラーティの権能をコピーした。
『貴方なら帝国の人間全てを従わせられる。貴方なら皇帝だろうと『双刀』だろうと簡単に倒せちゃう!何故なら貴方には神様から贈られた唯一無二の世界を変える力と私の権能がある!もはやこの世界で貴方に勝てる人は誰1人いないわ!』
そう言って俺の背を押し、俺が帝国を攻める一歩を進ませた。
だが現実はどうだ。
俺の力を持ってしても殺せない虫に、俺の動きを止める虫共。
そして....劣化版のコピー。
騙したのか.....?
俺に敵う者はいないと、俺が世界最強の存在になったと.....。
「(私が本当に用があるのは龍華帝国が持つ国宝の一つ...十五大魔王具、それとあんたの死体よ)」
(待て....待てプレラーティ!!!)
「(宝の方はもう回収に向かわせたから心配しないで!だからあとはあんたの死体だけ!)」
(プレラーティッ!!!)
必死に心中で叫ぶも、プレラーティは声色一つ変えず淡々と喋り続ける。
そこに一切の感情を感じない。
ただただ日常的な会話のように、言葉を吐き続けていた。
「(その....『鵺』だっけ?あんたの変わりに私がもっと上手く使ってあげるよその『力』!あ、けどあんま損傷激しいと使えないからなるべく綺麗な状態で死んでね〜)」
手でも振っていそうな声を最後に、プレラーティからの連絡は途絶えた。
奴は俺の理解者だと思っていた。
誰も俺を理解しない中、あいつは俺の全てを肯定してくれた。
冥友の名に相応しい奴だと....。
嘘だったのか.....全てッ!!!
俺をここまで来させたのは宝の回収のための囮。
そして、虫共に俺を殺させるためッ....!!!
「プレラーティィィィィィィッッッ!!!!騙したなァァァァァァッッッッ!!!!」
激しい怒号を天高く轟かせる。
その瞬間、久しく感じていなかった激痛が全身を駆け巡った。
熱い、痛い、苦しい......。
怖い。




