92.至高帝
「王たる者であるならば必ず持つ、貴様の王としての至高な信念を朕に聞かせてみよ」
「....信念?」
「人類史の歴史上、暴君と呼ばれ悪政を敷いた王は数多くいた。だがそれらもまた己の至高なる信念を持つまごうことなき王の器が者達。民を導き、国家を未来へ送る王たる者、その全てを学ぶ必要がある。故に聞かせよ、貴様は如何なる信念の元...朕の首を狙うか!」
威風堂々が如く皇帝は力強く問い、祐基は息を呑む。
それに亜人王が答えるか、それとも答えずに攻撃をしてくるか。
少しでも動けば即座に矢を放てるよう、雷衝動を握る手に力を込めた。
「信念か...」
些か戸惑いを感じるも、亜人王はすぐに答えた。
「力のない弱者は跪け、強者のみが生きるに値する。神に作られた生命体として世界を正しく作り直す。それが俺の信念だ」
祐基に語った弱肉強食思想。
それを再び口に出すと、場にしばしの静寂が流れた。
「はぁ.....」
しばらくして皇帝の口から出たのは言葉ではなく、深いため息。
その眼からは既に興味の色が完全に消え、浮かんでいるのは呆れ。
「つまらん」
一言。
自身と同じ、同格の王を持て成すかのような声色が一変する。
「亜人の王と期待したが.......小さき器の小物、貴様は王では非ず。王の器には程遠い」
「.....あ?」
亜人王に見下ろされているのに、逆に見下ろしているかのような眼。
「貴様の語った言葉からはなんの重みも感じん。貴様は誰ぞの言葉を真似、誰ぞの信念を借りただけの何者にもなれん...ただ力に憧れただけの模造者に過ぎん」
「なんだと.....」
その煽る言葉は、徐々に亜人王の瞳に怒気を宿らせた。
だが皇帝は一切動じずに続ける。
「聞くが貴様はその世界を成したとして何がしたい。貴様が思い描くのは、貴様の言う強者とやらが好き勝手生きるだけの世界か。そんなもののは信念ではなく力を持つ小物の妄想だ」
「....黙れ」
「大方、その信念を語ったであろう者の真意を見抜けていないのだろう。ことごとく王の器とは程遠い贋作よ」
「黙れッ!!!」
轟音のような怒号が響いた。
今までの静かな怒りとは違う、あれが素のような激しい怒り。
しかし皇帝は表情一つ変えず、両腕を横に大きく広げる。
「見よ!!王とは、決して曲げることのないただ一つの信念の旗を掲げ、その背に自ずと民が付く者のことよ!」
声は宮殿全域に響き渡る。
直後、皇帝の背後の正殿後方より幾つもの光が一瞬灯った。
同時に、夥しい砲撃音が宮殿に鳴り響く。
「自らを王と語りし贋作よ!見よ!!朕こそ王の中の王!至高を極めし至高の皇帝!!」
皇帝は亜人王を見上げ見下ろし、叫ぶ。
「『至高帝』である!!!」
叫びと同時に、亜人王の顔面が爆発した。
「っ.....!!」
砲弾は一発だけではない。
数十発の砲弾が、雨のように次々と亜人王に降り注ぐ。
鳴り止まぬ砲撃音と爆発音。
亜人王の体には爆炎が絶えず生まれる。
中には爆発せず、亜人王の体を貫く砲弾も混じっていた。
「無敵の怪物など絵物語にも存在せん。その身を持って知るが良い!何人であろうと....例え神であろうと我らが国は喰らい尽くそう!!」
正殿後方、そこには態勢を立て直した龍華軍。
そして最前列に並ぶは黒龍砲。
こうなる事態も想定したのだろう皇帝が、宮殿内にも黒龍砲を忍ばせておいたようだ。
砲音は鳴り止まず、休むことなく亜人王に着弾し続ける。
効いてるわけではないのだろうが、その勢いに亜人王が若干押されているように祐基は感じた。
(凄い.....これが『至高帝』と呼ばれる皇帝陛下の力......)
その何人であろうと恐れぬ精神と、あらゆる事態を想定し手を打つ先読みと判断力。
祐基は心の底から敬意を感じた。
あれこそが王と呼ばれる選ばれし人であると。
「祐基!!」
尊敬の眼差しで見つめていると、皇帝が声を上げた。
「いつまでボサっとしている!貴様の至高なる力、朕に見せてみよ!!」
「...!はい!!」
その声はすぐに祐基の体を走らせ、矢を番えさせた。
「っ....!!虫共がっ.....!!!」
亜人王の口、そして首元より生える2頭の獣の口内に再び光が集まり始めた。
また光線を放つ気なのだろう。
その狙いは、視線からして皇帝だ。
それを見るや皇帝は自身の腰に下げる剣を抜き取り、前に構える。
(何だ...あの剣....!)
祐基は思わず目を奪われる。
その剣は普通の剣とは見るからに違う異質な剣だった。
剣であるというのにまるで生きているかのように脈打ち、刀身が常に紅い輝きを放っており、周囲の空間がその剣を中心に歪んでいる。
自然とその剣に視線が動いてしまうほどの圧倒的な存在感。
雷衝動と同様に次元の違う武器である事を一目で理解できる。
「.....っ!」
だがすぐにハッと我に帰り、祐基は3本の矢を射った。
3本の内2本は2頭の獣の頭部を正確に穿ち、光は霧散。
獣達は顔が半分抉れ、新たに獣が生える事なく機能を停止した。
だがもう1本の矢は亜人王の頭部に命中するも、やはり弾かれてしまった。
(くそっ!やっぱりあそこだけ異様に硬い....!!魔力を込めた矢じゃないと通用しないか!?)
攻撃を阻止することができず、亜人王は皇帝に向かって光線を放った。
貯めた時間が短いせいか規模は小さい。
が、人1人殺すには十分すぎる威力。
一か八か雷衝動の雷で相殺できるか、祐基は矢を番える。
だがその時、こちらを見る皇帝の視線に気付く。
「無用だ」....そう伝えてくる目。
それを感じ取ると、祐基は自然と番えた矢から力を抜いてしまった。
皇帝が何をする気なのか、その攻撃を自分で防ぐ気なのか、何一つわからない。
万が一の場合を考え、それでも守れなければならないというのに不思議と不安を感じさせない。
あの異様な剣のせいか、それとも皇帝の放つ覇気からか。
どちらにせよ、今射とうともはや間に合わない。
光線は皇帝に直撃する。
「ッ......!!?」
だが皇帝は無傷だった。
なぜなら放たれた光線は皇帝に届く前に、その手に握られた紅き剣へ吸い込まれたからだ。
その予想外であろう現実に、亜人王の目には驚愕がはっきりと映る。
「世界に数えられる10本の伝説の剣。その一つ『紅龍・煉極刀』。代々皇帝の座と共に受け継がれし忌ましき紅龍の剣よ」
剣を見せびらかすかのように掲げながら、不敵な笑みを浮かべ皇帝は語る。
「王の席にふんぞり返っておるだけの者が至高の王とは名乗れまい。『双刀』程ではないが、朕も鍛錬は怠らん。そこらの兵に守られるほど容易い首と思ったか?」
そして、剣の切先を亜人王へ向ける。
「この剣はあらゆるエネルギーを吸収、そして放出できる...まさに至高の剣!」
剣の紅き輝きが一気に増す。
「返すぞ!」
瞬間、亜人王の放っものよりも少し紅を帯びた光線が亜人王の胸を貫いた。
「っ......!!」
胸に巨大な風穴が空くも当然効かず、亜人王は怯まずに右拳を皇帝に振り下ろす。
それを斬る気か、迎え撃つように皇帝は剣を構える。
だが拳が届く寸前、その動きは突然失速した。
「なっ....!?」
「ん?」
亜人王の目が見開く。
右腕は斬られたのだ。
見事に綺麗な断面の上腕より切り離された腕は、地に落下する。
皇帝陛下がやったのかと祐基は驚くも、すぐにその存在に気付いた。
皇帝の目の前、刀を振り終えた1人の女の存在に。
「誰だ貴様」
皇帝の問いに、女は声高く答える。
「日の国が鬼選組!!1番隊副隊長、沖田 美司!!我らが王の命により、これより微力ながら助け立ちします!!」
(日の国の侍....!!)
腰まで届く長い黒髪。
赤いリボンの付いた黒い学生服らしき服装。
その上に被る茜色の羽織。
眼鏡をかけ、頭には鬼の角を模した飾り。
そしてその手には日の国において主流の武器である刀を持っている。
「鬼女の手駒か。あの小娘め....オレに恩を売る.....いや、ただの善意か」
「日の国の軍は現在、都を攻撃する亜人軍を挟撃しています。しかし宮殿がただならぬ事態だと見え、先んじて私1人救援に参りました。皇帝陛下、急ぎ脱出を!」
「ならん」
「......は?」
沖田が振り返り、見開いた目で皇帝を見た。
「噂には聞いている。一年前彗星の如く現れた天賦の才を持つ侍....興味がある」
そう言って皇帝は剣を鞘へと納め、腕を組んだ。
「よし。朕の前でその至高と言われる実力見せてみよ!!我が国のため命を張る事を許す!」
「.....」
(あれは困り果てた顔だな....俺は段々と慣れてきたけど、紅忠さんの気持ちがよくわかる)
皇帝はテコでも動かない。
その言葉の意味を改めて祐基は思い知る。
「祐基!!沖田!!ここが最終局面よ!見事朕に至高なる勝利を見せてみよ!!!」
矢は残り3本。
けど狙うべき箇所は見えた。
あとは隙を見つけるだけだ。
「行こうか....雷衝動!!」
祐基は雷衝動を強く握り、亜人王に向かって走り出した。




