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龍華の英雄〜亜人戦記と弓を握りし臆病な少年〜  作者: オルレアンの人
最終章『龍華の英雄』

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86/103

85.Joker

「転送.....転送......データ...転.....送.......」


 指揮機の膝がガクンと崩れ落ちた。

 貫かれた胴体には偃月刀の刃よりも遥かに大きい風穴が空いており、バチバチと音を立てて煙を上げている。

 指揮機は完全に沈黙した。


 (勝った......)


 そして突き抜けた指揮機を背後に、激しい息遣いをする紅蓮もその場で倒れる。

 全身から力が抜けていく。

 今まで気力だけで繋ぎ止めていた体が、一気に限界を思い出したかのように。


 (孫華隊長......)


 紅蓮は僅かに笑った。


 (私....まだまだ強くなれます.......)


紅蓮ゴウレンザァァァンっ!!!」


 そんな倒れる紅蓮に泣きながら翠鳳が飛び込み、勢いよく抱きつく。

 鼻水まで垂らし、紅蓮の血に濡れた服をさらに汚す。


「翠鳳.....」

「ヴワァァァァンッ!!!紅蓮さん本当に死んじゃうかと思ったんですからァァァァァッ!!!」

 

 子供のように泣きじゃくる翠鳳。

 紅蓮はそっとその背に手を置いた。


「助かった......ありがとな.....」


 翠鳳はさらに大声で泣き始める。

 そんな彼女を見て、紅蓮は死にかけながらも幸せを感じていた。

 こんなに自分を想ってくれている人がいる。

 そんな人が祐基以外にもいてくれたことに。


 (祐基....私は隊長として.....お前も守れるくらい....もっと強くなるからな......けど....)


 重症の体。

 激しい戦いの中で流し続けた血。

 紅蓮の意識は限界を迎える。


 (今は.....頼んだぞ........)


 その時、背後で指揮機が爆発した。

 響く爆発音の中、紅蓮はその音を最後に聞き。

 ゆっくりと目を閉じた。


 

 皇龍宮こうりゅうきゅう正殿地下、宝物庫。


 ここには龍華帝国が誇る数々の宝が保管されている。

 国中より集められた黄金や宝石、歴史的価値を持つ芸術品、国宝に指定された伝説の武具。

 『強龍』の保有していた物を合わせ、至宝たる二つの四獣のペンダント。

 そして世界中に散らばる、強力な力を宿す『十五大魔王具じゅうごだいまおうぐ』と呼ばれる装備。

 その内の一つもここに保管していた。


 ここへ入るには皇帝直々の許可が必要である。

 常に兵士が20人と警備についており、扉は鋼鉄製で破壊は不可能。

 唯一のこの扉の鍵は皇帝が常時持ち歩いているため、侵入が不可能な宮殿の中でさらに侵入が不可能な場所だ。


 それは宮殿内に敵が入り込んだ今でも変わらず、兵士達はここを離れず守りについていた。

 だが、その兵士達は既に死体と化し宝物庫入り口の隅に積まれている。

 鋼鉄の扉にはドリルやツルハシで空けたとは違う、あまりにも綺麗にぽっかりと空いている穴が一つ。


 その穴の先、財宝が並ぶ宝物庫内に2人の男がいた。

 どちらも人間であり、明らかな異邦人。


 1人は全身を黒いローブで覆い、無地の仮面を付けている男だ。

 肌はおろか髪の毛1本すら見えない。

 周囲の財宝には目もくれず、黙々と何かを探す様子で宝物庫を漁り続けている。


 対してもう1人の男は黒いローブを開き、顔も隠していない。

 少しだけ長い紫髪に黒い瞳。

 ローブの下には異国で作られたであろう黒いコート。

 そして手にはトランプカード。

 雑に宝物庫を漁る片方に対し、男は宝物庫中央に置かれたテーブルに腰掛け、静かにカードで遊んでいた。


「......」


 男は無言でカードをシャッフルし、一枚捲る。

 見えたのは8のカード。

 かれこれ六回目、結果は全て一緒だった。

 だが男は嬉しいのか、薄く笑みを浮かべる。


「おいゼロ、何笑ってんだ」


 気付けば仮面の男は漁るのを止め、小さな袋を背負いながらゼロと呼ぶ男に声をかけた。


「目的の十五大魔王具じゅうごだいまおうぐは回収した。さっさとここからトンズラするぞ」


 男がそう言うと、宝物庫全体を僅かに揺らす地響きが起こった。

 財宝の一部が床に転がり落ち、仮面の男は天井を見上げる。


「さっきから亜人王の奴....何をそんなに暴れてやがんだ」

「リィウ、君だけ先に送る。僕はまだここで待機だ」

「は?何する気だ?」


 ゼロは答える前に再びカードを切った。

 そして一枚、裏向きのまま引き抜く。


冥友めいゆうから連絡が入ってね。また回収してほしい死体ができたって」


 ゼロはそう答えながら、引いたカードを仮面の男に見せた。

 そこに描かれていたのは、本来この世界に存在しないはずのカード。

 Jokerのカードだった。


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