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龍華の英雄〜亜人戦記と弓を握りし臆病な少年〜  作者: オルレアンの人
最終章『龍華の英雄』

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81.紅蓮だけの技

 3年前、龍鱗の長城訓練所広場。


 広場に幾つも設置されている亜人に見立てた木の的に向かって、偃月刀を何度も突く兵士.....紅蓮の姿があった。

 部隊の仲良しこよしの訓練では大して強くなれないと彼女は考え、独学の特訓をしているのだ。

 

 何度も何度も、力を溜めては突き溜めては突くを繰り返す。

 だが思い描いた結果は出ず、的に刺し傷が増えるだけだった。


 やがて体力の限界が訪れると、紅蓮は近くのベンチに腰を下ろした。

 上手くいかない自身の力不足に苛立ちを抱えながら。


「お疲れ様、紅蓮」


 背後より声がかかる。

 紅蓮が振り返ると、そこにいたのは部隊の隊長である孫華そんかだった。


 (ウザいのがまた来た...)

 

 そう紅蓮は舌打ちをしながら睨み付けるも、孫華は気にした様子もなく紅蓮の隣に座った。

 

「毎日毎日精が出てるね紅蓮!でもそろそろ仲間が恋しくなる頃なんじゃない!?」

「消えろ」

 

 吐き気がするほど鬱陶しい言葉に、紅蓮は冷たく返す。

 そしてベンチから立ち上がり、再び的の前へ向かった。


「ねぇ紅蓮、どうしたらみんなと一緒に訓練してくれるの?」

「話しかけるな」


 鬱陶しい。

 ただ一言、それに尽きる。


「1人で訓練するより仲間と訓練した方が力になるよきっと!さぁみんなのところへ行きましょう!」

「......」


 孫華は満面の笑みでそう言ってくるが、紅蓮は無視し特訓を再開する。

 冷たい言葉でいくら返しても孫華は折れない。

 だからもう相手にせず、無視し続けることに決めたのだ。

 

「う〜ん.....ところで、違ったらごめんなさい。紅蓮ってもしかして覇王に憧れてるの?」


 ピタッ....と、偃月刀を突く動きが止まる。

 別に紅蓮は覇王に憧れてはないが、今まさにやろうとしているのが覇王の真似事だった。

 それを見抜かれたことに、ほんの少しだけ驚いたのだ。

 だが次の瞬間には再び腕を動かし始める。

 

「武器が覇王と同じ偃月刀だし、毎日やってる力を溜めて突くその動きも文献に書かれてる覇王の動きと似てて、てっきりそうなんじゃないかなって思ったんだけど」


 紅蓮に無視されながらも、孫華はしつこく話しかけ続けた。

 

「確かに覇王の技はどれも一撃必殺と呼ばれるほどに破壊力が凄まじかったって書かれてるし、それを会得すれば国にとってもありがたい話よ。けど、その殆どは覇王の天性の肉体があったからこそって言われてるの。言い方は悪いけど.....真似したところで再現は難しいと思うよ?」


 聞こえるように紅蓮は舌打ちを鳴らした。

 紅蓮自身もそんな事はわかっている。

 だが荒野を含む東の大陸を、歴史上唯一制覇した男の力。

 もしその力の一片だけでも会得できれば、六荒王を倒すことも双刀になる事も容易い。

 手っ取り早く出世したい紅蓮はそう考え、訓練兵となったその日から特訓を続けていた。

 

 だがどうやっても会得にはつながらない。

 何かが足りない。

 その答えが分からないまま、紅蓮は偃月刀を握り続けていた。

 

「覇王は覇王、紅蓮は紅蓮よ!参考にするのは素晴らしいけど、無理に真似事なんかしてたらいずれ自分の強さの限界が来ちゃうよ!」

「はぁぁぁ......」


 大きく、そしてわざとらしい溜め息。


 (なんなんだよコイツ.....)


 これ以上声を聞いていると苛立ちに抑えが効かなくなってしまう。

 一応は自分の隊長なため暴力沙汰を起こすわけにもいかない。

 紅蓮は特訓を切り上げ、その場を離れようとした。

 

「だから覇王の技なんかじゃない。紅蓮の体だからこそできる最高の技を見つけましょう!私や皆んなも一緒に特訓するからさ!」


 だが、めげずに孫華は後ろを付いてくる。

 

 (死ね)



「......さ......紅....さん......!!!」


 微かに、紅蓮の脳内に響く声が聞こえた。

 

 (....夢か........なんで....あの時の記憶が.....今....)


 徐々に紅蓮の意識が戻り始める。

 背から伝わってくる地面の感触、手に握っていたはずの偃月刀の重み。

 そして、胸から流れていく熱。

 

 (私は....負けたのか.....)


 朦朧としながらも、紅蓮はすぐに状況を理解した。

 薄っすらと目を意識して開くと、自分を見下ろす指揮機の姿。


「紅蓮さんっ!!紅蓮さァァんっ!!!」


 泣き叫ぶ翠鳳。

 そして翠鳳を拘束する3体の鱗魚人リンギョジン

 

「すい.....ほう......」


 掠れた声が漏れる。

 腕を伸ばそうにも力が入らない。

 全身を駆け巡る寒気が、再び意識を奪おうとする。


「おい指揮機!本当に『赤龍』俺らが殺していいんだな!」


 鱗魚人リンギョジンの1体が興奮した声で指揮機に問いかけた。

 問われた指揮機は紅蓮を数秒見つめた後。


「.....あア。思いのほか有用なデータを得られなかっタ。殺して構わなイ」

「「「よっしゃぁぁ!!!」」」


 3体の鱗魚人リンギョジンが同時に歓声を上げた。


「『赤龍』殺したとなれば国からたんまり報奨金貰えるぜ!!久々にアメリア王国でカジノ三昧と行くか!!」

「馬鹿!どうせお前じゃ惨敗するんだから人間のガキ奴隷でも買って遊ぶほうが楽しいだろ!!」

「それより、その人間はどうするんだ?殺すか?」


 鱗魚人リンギョジン達の視線が一斉に翠鳳へと移る。


「いや、亜人王が皇帝殺すまで暇だしコイツで遊んでようぜ。どうせもうこの宮殿内の戦況は俺らが勝ってるんだ。少しくらい楽しんでてもクライケンさんは怒らねぇだろ」

「確かに.....!いい声で叫びそうだしな!」


 鱗魚人リンギョジン達は下卑た笑みを浮かべた。

 翠鳳はしていた抵抗を更に強め、必死に鱗魚人リンギョジンから離れようと踠くも、圧倒的な力の差を前に無意味に終わる。


「くそっ!離してっ!!!紅蓮さん逃げてっ!!!」


 だが諦めずに踠きながら翠鳳は必死に叫ぶ。

 自分の事を一切顧みず、紅蓮を死なせまいと。


「んじゃ....とりあえず」


 1体の鱗魚人リンギョジンが紅蓮に近づき始める。

 紅蓮は抵抗しようにも力が入らず、体が動かない。

 意識をギリギリの境界線で保つだけで精一杯だった。

 やがて鱗魚人リンギョジンは倒れる紅蓮の横に立ち、三叉槍を構える。


「あばよ『赤龍』」


 鱗魚人リンギョジンは嗤い、三叉槍の穂先が紅蓮の首へ向けられ。

 そして、容赦なく突き下ろされた。


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