79.子のために
都を囲う城壁、その北部の城門。
「オラオラオラッ!!ララララララ!!!」
声を上げながら六荒王へ突っ込む『俺龍』。
一見ただ柳葉刀を滅茶苦茶に振り回しているだけのように見えるが、振りの全てが本来ポリズンの首を正確に刎ねている軌跡を描いていた。
一方のポリズンは刺棘杖で剣を僅かに受け流し、殆どは躱していた。
その無駄に続く乱撃は攻めに入る隙をポリズンに与えず、そして一向に止まない。
体力という概念が存在しないかのように、『俺龍』の猛攻は続いていた。
「オラオラッ!!!こんなもんじゃないだろ六荒王!!!もっと力見せてみろやッ!!」
「......」
面倒くさい相手だ。
ポリズンにとって脅威と呼べるほどの人間ではないが、しつこく絡みつく蔓のようなこの男の戦い方は、ウザく面倒な相手という評価をポリズンにさせた。
「おい邪魔だ」
「ッ!!」
1人の男の兵士が蒼い龍華剣を構え、ポリズンの背後を取る。
その剣から伝わってくる気迫は、明らかにポリズンごと『俺龍』を斬ろうとしていた。
男は一切躊躇する事なく龍華剣を鞘から抜き放ち、蒼い一線が宙を走る。
だがポリズンはこれを、素早く横に下がって躱わす。
『俺龍』もまた、即座にしゃがみ斬撃を避けた。
「ちっ」
「おい『蒼龍』テメェッ!!!いま俺ごと斬ろうとしただろッ!!!」
『俺龍』は飛び上がるように立ち上がり、『蒼龍』へ怒号と共に詰め寄った。
「六荒王を私が倒すための名誉ある囮として死ねるのだ。本来囮無しで勝てる私にとっては屈辱的だが、感謝して死ね」
「やっぱお前から先にぶっ倒すッ!!!」
「奇遇だな。私もさっきからウロチョロウロチョロと目障りな亜人擬きを黙らせたくて仕方なかったんだ」
「あなた達邪魔よ?」
言い争う男2人の間に女の声が混ざる。
互いに睨み合っていた2人が同時に振り向くと、そこには龍華剣を美しく構える女の兵士の姿。
女は2人と背後のポリズン目掛け、美しい鈴の音を鳴らし剣を振るう。
「『風剣』」
軽い、しかして素早い剣の振りは空気に斬撃を作り出して飛ばした。
2人は咄嗟に後方に跳び下がり、ポリズンは刺棘杖を斬撃に向ける。
「『伸棘・緑韞』」
刺棘杖の先端より棘が数本伸びる。
それらは斬撃を囲うように包み、受け止めた。
「あらあら。流石六荒王」
「『風龍』!!テメェも何しやがんだ!!!」
「お前らは私の邪魔をするなと何度言えばわかるんだ....!!」
3人はポリズンを放置し、そのまま互いに詰め寄る。
「私が美しく倒しますのでお二人は消えてもらえます?汚らしい暴言が耳に入ってくると吐き気がしますので」
「だからポリズンぶっ飛ばすのは俺だって言ってんだろッ!!!お前ら退がって亜人共でも狩ってろッ!!!」
「その言葉そのまま返してやる。お前達は足手纏い以下の存在。私1人で戦っていればとっくに倒している敵だ。身の程を知り消えろ」
「貴方、整った顔の割には美しくない醜い心をお持ちですね。私の風剣の本領は空間を支配すること....邪魔なのはあなたの方ですよ?まだご理解いただけない脳をお持ちで?お可哀想に」
「だーーかーーらーーーーーッッ!!!!」
「「「俺・私・私が倒すって言ってんですよ・だろッ!!!」」」
六荒王ポリズンを蚊帳の外に、言い争いは最高潮を迎える。
次の瞬間には勝手に殺し合いを始めそうな勢いの仲の悪さ。
それを呆れながら見つめるポリズンに、子の毒蠍人が近づく。
「ママ!ママの指示通り城壁の新兵器、順調に壊せてるよ!」
「ソウ....ヨクヤッタワネ」
ポリズンは自身の硬い手で、子の頭を優しく撫でる。
すると子は嬉しそうに微笑んだ。
「にしてもアイツら....情けないほど仲悪いね」
「ソウネ。貴方達ハアアイウ風ニナラナイヨウ、立派ニ成長ナサイ。引キ続キ子供達ハ兵器ノ破壊ニダケ集中。都ニハ私ノ指示ガアルマデ決シテ入ラナイヨウニネ」
「うん!ママ!」
子供は元気よく返事をすると走り去っていく。
その背を見送りながら。
「サテ.....」
ポリズンの視線は再度、まだ喧嘩を続けている3人へ向く。
勝手に喧嘩し勝手に殺し合ってくれるのなら楽で良い。
だが内心、ポリズンは自分の手であの3人を殺したい気持ちがあった。
その理由は単純、あの3人を抜けれないからだ。
門を破壊してより30分。
ポリズンは毒蠍人を除いた亜人達に都へ侵入するよう指示を出したが、都に侵入できた亜人はまだごく僅か。
その理由がこの3人だ。
連携は全く取れてない、動きはバラバラ、互いに足を引っ張り合っている、一人一人の力量は自分には及ばない。
だが、それぞれが中途半端に強く面倒。
足を引っ張り合っているが、自身を殺せる一撃を常に放ってくる。
それも完全にバラバラで来るため、常に警戒をし続ける必要があった。
中途半端に連携ができてる者達よりも予測がし辛く厄介だ。
こうした3人の仲の悪さが逆に、奇跡的にポリズンを抑え込むことに成功していたのだ。
本気で帝国を攻める気のないポリズンにとっては、抑え込まれる方が普通に考えれば好都合な展開ではある。
人間による亜人王討伐後、荒野へ帰還するための体力を温存する必要もあるため。
しかしポリズンにもプライドはある。
愛する子達の前で、ちょっと名のある人間程度に勝てず苦戦と見られる姿を晒された。
自然と怒りは湧き上がる。
もし3人を殺せば、ポリズンの後方で待機する亜人達が都に雪崩れ込む。
3人の後ろで守りを固める龍華軍も、自分の力であれば2秒とたたずに壊滅させられる。
だがそんな事をすれば完全に帝国を敵に回したと取られ、荒野への帰還がより困難を極める可能性は高まる。
愛する子達が荒野へ無事帰れるよう、このまま亜人王が死ぬまで膠着しとくべきか。
それとも、愛する子達に母は強いと安心させるために3人の首を取るべきか......ポリズンは頭を悩ます。
そんな時だった。
(....!!)
都の奥より、爆発音が轟いた。
「ッ...!!なんだ今の!!?」
「爆発....宮殿の方か!」
その轟音に、この場にいる人と亜人はすぐさま宮殿の方へと目を向けた。
直後、爆風が体を僅かに押す。
「うおっ...!!」
それぞれが踏ん張り、空を見上げる。
見たこともない巨大な黒煙が宮殿より立ち昇っていた。
「宮殿で何が.....」
龍華軍と亜人たち双方が謎の大爆発に動揺を隠せずにいた。
だがポリズンは冷静に、空を見上げながら呟く。
「不知火.....」
その一撃は、何を優先すべきかをポリズンに再確認させた。




