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龍華の英雄〜亜人戦記と弓を握りし臆病な少年〜  作者: オルレアンの人
最終章『龍華の英雄』

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77.生物の神

 祐基のいかづちが亜人王の左腕、左脚を消し飛ばす。

 フォルネストの蔓が邪魔をし、狙っていた頭部から逸れてはしまったが、結果的には及第点。

 祐基はすぐに第二射の準備に入る。


 一方、片腕片脚を失った亜人王はそのままバランスを崩し地に倒れそうになるも、失われた脚の断面より鱗魚人リンギョジンの脚を生やし踏ん張った。

 だがそれ以上は動かない。

 微かに肩を震わせながら、まるで地面を睨み続けているように俯き、その場で静止していた。

 動きが止まっている今がチャンスだが、もう一度全力のいかづちを放つかどうか....祐基は考える。


 (魔力総量が少ない俺がまたさっきの一撃を放てばきっと動けなくなる.....)


 祐基の魔力総量を100とするなら、城壁でスキルを使い10減り、先の一撃で50を使ったので残り40。

 魔力は生物を支えるエネルギーであるため、もし魔力が切れた場合、体を動かす事ができなくなってしまう。

 魔力切れにより動けなくなる事は、あらゆる事態を想定すると絶対に避けなければならない事だ。

 そのため、使えて残り30。


 それを今使うかどうかだが、祐基は感じていた。

 静かに伝わってくる亜人王の怒り、そして底知れぬ不気味さを。

 嫌な予感が胸を刺し、祐基は決断した。

 絶対に当てれるという確信がくるその時まで魔力は温存すべきと。


 祐基は魔力を込めずに雷衝動に矢を番える。

 魔力を込めずとも雷衝動の威力は十分強力だ。

 人間の胴体程度なら容易く突き破れる。


雷渦らいかいかづち........!」


 亜人王はポツリと小声でそう呟くと、体が再び変わり始めた。

 肉が膨れ上がり、全身の形が急速に変わっていく。

 そして現れた姿は、3本の角が生えている...盾のようなエリらしきものが後頭部から生えた四足歩行の巨大な生物。

 訓練施設の教科書に載っている荒野に生息する生物とも違う、全く見たことのない異形の生物だ。


 姿を変えた亜人王は四足歩行のまま走り出す。

 長い2本の角を前に出しながら、向かうは祐基の立つ塔。

 

「くっ!!」


 祐基は急ぎ矢を放つ。

 何度も何度も放ち、その全てが亜人王の体を貫き肉を抉った。

 だが、まるで効いた様子はない。


 (何で止まらない....!?矢が何度も貫いてるのに何で痛みを感じる素ぶりすら見せない....!)


 上から見る限り、既に亜人王の体には四つの穴が空いていた。

 全て雷衝動が貫いた穴であり、大量の血が吹き出している。

 だが亜人王は苦悶も怯みも悲鳴も一切無く、ただ真っ直ぐに迫ってきていた。

 まるで傷を認識していないかのように。

 

 どれだけの強者や怪物であろうと、あれだけの傷を負えば確実に怯む。

 生物として当然のことだ。

 だが亜人王は一切怯まない。

 あまりに不気味で、あまりに異様。


 結局祐基は突進を防ぐ事ができず、亜人王はそのまま塔に激突。

 塔を粉砕した。


「うわっ!?」


 塔が大きく傾き始める。

 祐基は塔にしがみつきながら、冷静に飛び降りるタイミングを見計らう。

 そして塔が完全に倒れる寸前に祐基は飛び降り、地面に着地した。

 直後、背後で塔が轟音を立てて崩壊し、土煙が辺りを覆う。

 

 (ぬえ.....あれも鵺の能力なのか....?)


 煙の中、祐基は姿の見えない亜人王を警戒しつつ、先ほどの現象について推測を始めようとした。

 だが突如、土煙が突風により吹き飛ばされ思考はすぐに中断される。

 煙を払ったのは亜人王。

 また姿を変えており、両腕が鳥の翼と化していた。


 (戦いながら考えるしかないか.....!)


 亜人王は激しく祐基を睨みつけ、祐基も負けじと睨み返す。

 両者の距離は約5メートル。

 あまりに近い、祐基の不得意な接近戦だ。

 

 お互いが睨み合う一瞬の静寂の間。

 亜人王は祐基の出方を伺っているのか、ピクリとも動かずにいた。

 対する祐基も、接近戦であることから慎重に動かざるを得ない。

 いま弓を構える一瞬の間に、亜人王は懐に入り自分を殺す事ができるかもしれない。

 脳内で簡単に描くことのできるその未来が、祐基の体を縛り付ける。


「.....不愉快だ」


 亜人王が呟く。

 怒りと若干の屈辱感の混ざる声色だ。


「非常に不愉快であるが聞いてやる......お前は一体何だ」

「....!」


 その問いに、祐基は即座に答えた。


「聞いて驚き知って驚き、そしてその目で見て驚きやがれ!!!俺は楊 祐基(よう ゆうき)!!兄貴に託され....お前を倒し、この国に平和を取り戻す男だッ!!!」


 空に轟く声。

 堂々たる名乗りと宣言。


 その答えを聞き終えた亜人王は、再び人間の姿に戻り始めた。

 だが射抜いた眼は獣の眼。

 消し飛ばした左腕と左脚は蔓絡人マングルマンの手足だ。


 (何で俺が射抜いた箇所だけ変えたままなんだ.....?)


「認めたくないが認めてやろう.....お前は旧人類を大きく超えた『覚醒者』に等しき存在。我々と同じ新人類となるべき側の人間だ」


 (覚醒者.....?新人類.....?)


 未知の言葉に祐基は眉をひそめる。

 

「俺は....いや俺たちは、世界の在り方を変えるため神に遣わされた選ばれし人類。この世の創生時より世界の根本は神が作り上げたシステム...“弱肉強食”でできている。だが旧人類共が作り上げた世界は弱者を上に立たせ、強者を虐げる世界。おかしいとは思わないか?」


 黙って聞く祐基に、亜人王は指を指す。


「お前のその力があれば、この国を支配することもできるはずだ。だが今のお前はどうだ?捨て駒同然の兵士として、決して敵わない俺の前に立っている。本来その命令をしてきた指揮官か皇帝...どちらであろうと容易く殺せるはずのお前が、弱者の命令に従っているんだぞ。神の作り上げた摂理に逆らうシステムだ」


 亜人王は指差すその手を、力を込めて握った。


「我々はそれを許せない。神に作られた生物でありながら神の摂理に従わない傲慢な猿共。そんな奴らは殺し、強者が世界を支配する正しい世界にしなければならない。それが我ら『アウェイクニング・ドミニオンズ』の使命だ」


 握られた拳が再び開き、祐基に手を向け。


「祐基。お前には我らの一員となる資格がある。俺の手足と眼の件は目を瞑ろう。共に世界を正そうじゃないか」


 その話に嘘や冗談が一切無いと、祐基を見るその瞳で伝わってくる。

 心の底から自分の考えが正しい事だと思っているのだ。

 祐基の握られた拳が、小さく震え始めた。


「お前は.......お前はそんな....くだらない事のために.......っ!!」


 胸の奥で膨れ上がる怒りの衝動。

 今まで感じたことがない程にそれは体を包んでいき、その形は明確な殺意へと至る。


「お前のそんな子供みたいな理想のために僕の兄貴は.....!!!孫覇さんは....皆んなは....!!!」


 絵物語の魔王のように、生物として決して相入れぬが故に人間を殺す存在であってくれた方が良かっただろう。

 そうであれば、怨みはするが認識は災害で死んでしまったようなもの。

 憎しみの抑えは効く。


 だがこいつは違う。

 こいつには自分が正義だと思う心があり、理解できない馬鹿な理想のために祐基の大切な人を、何の罪もない人々を殺してきた。

 猛獣に殺されるのと殺人鬼に殺されるのでは湧いてくる殺意の大きさはまるで違う。

 祐基は雷衝動に折れてしまいそうな程に力を込め、叫んだ。


「知らねぇよッッ!!!!お前のそんなクソみたいな理想のために....何で兄貴が死ななきゃならないんだよッ!!!」


 生まれて初めて放つ、轟く叫び。

 目から涙が滲み、感情のままに祐基は吐き出した。


「お前がいなければ兄貴が死ぬこともなかった!!!お前がいなければ今日もこの国は平和だった!!!全部....全部お前のせいで....!!!」

「どのゴミの事かわからないが逆らう虫は駆除するものだ。だが....決裂か、所詮古い脳を持つ原始人か」


 亜人王は小さくため息を吐きながら冷たく言い放った。

 祐基は雷衝動を構え、矢を番える。

 もし懐に入られたら殴り殺す、そんな考えが無意識に頭を支配しながら。


「ぶっ殺すッ.....!!!お前だけはッッ!!!」

「.....お前が俺に敵わない理由を教えてやろう」


 亜人王が2本、指を立てて見せる。


「俺には二つの力がある。一つは主より授かった『鵺』の『力』」


 亜人王の体が僅かに変化する。


「その目で見た動物や亜人、見たことなくとも絵と骨格、その生物の詳細な情報を脳に宿せば、それらの生物の体を自在に発現することができる」


 獣の爪に鳥の翼、魚の鱗に角。

 様々な生物の特徴が一瞬だけ浮かび、そして消えた。

 

「そして二つ。女神より授かった権能....平たく言えば『コピー』の権能。俺はそれを使い、ある権能を常にコピーしている。冥友めいゆうより教わった権能....『痛覚遮断』。この二つの力を合わせれば矢も雷も効かない無敵の体の出来上がりだ。損傷しようとまた別の生物の体を使えばいいのだからな」


 祐基は、あの時体にいくつもの穴を穿たれてなお亜人王が怯まず塔を破壊できた理由を知った。

 名称からして恐らく、その権能単体では痛覚を無くすだけで体の再生はしない。

 だが亜人王の鵺の『力』があればその問題は解決する。

 厄介な組み合わせだ。

 

 だが、今の殺意に駆られた祐基にとっては知った事ではない。

 ただ目の前にいる邪悪の権化を、この世から消し去るだけだ。


「前世で俺は...俺の『力』の真意を死の直前で知った。故に旧人類共に遅れをとったが今は違う.....」


 亜人王は自らの体を抱くように両腕で押さえた。

 すると脈打つように体が揺れ、亜人王の体は再び変わり始める。

 だが、今までのような一部分の再現や全身をただ変えるのとは明らかに違った。


「お前の『力』は新人類に似つかわしくない......信仰心の足りない出来損ないの『力』だ.......そう言って俺を見下す奴らを.....俺は遥かに超越した....!!」


 亜人王の体は徐々に大きくなっていく。

 そしてデカくなるにつれ、全身に変化が現れ始めた。

 全身の皮膚には鱗が浮き始め、背中からは巨大な翼。

 頭に4本の歪な形をした角、首元より獣の頭が二つ。

 手足には鳥の持つ鋭利な爪、さらにフォルネストを思わせる極太の尾が生える。


「俺の知識に宿る全ての生物を一つにまとめ、再現する.....!!!これこそ俺が求めた力.....神が俺に授けた、旧人類共を支配しろというお告げを遂行するための圧倒的な生物の結晶.....!!!」


 全身が異形の姿へと変わり果てた亜人王。

 その大きさは40メートルを超え、ようやく膨張は止まった。

 完成されたその姿はもはや実在する生物ではない、まるで神話に生きる大怪獣。


「俺こそが新人類....そしてこの世に降臨した......」


 怪しく光る小さな瞳が祐基を捉え、見下ろす。

 

「生物の神だ」

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