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龍華の英雄〜亜人戦記と弓を握りし臆病な少年〜  作者: オルレアンの人
最終章『龍華の英雄』

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76.雷は穿つ

 駆ける、上る。

 同じ構造の塔、螺旋階段を。

 息は切れ、立ち止まって整えたいたい気持ちを打ち消しながら。


 駆け上がる祐基の脳裏に無意識に流れてくる記憶。

 全ての始まりは屈釖くつとうに託されたあの時。

 焰秋えんしゅうの最期の声。

 孫覇そんはの叫び。


 紅蓮と翠鳳、紅忠と紫蓮....飛射隊の兵士達。

 託され続け、助けられ続け、今ここに自分はいる。

 誰か一人でも欠けていたら、ここまでは決して辿り着けなかった。

 死んでいった者達がいなければ....今、自分が亜人王を見下ろすことすらできなかっただろう。


 (....着いた)


 階段を上り切り、屋根へと飛び出した祐基は眼下に歩く者の姿を見た。

 亜人王だ。


 祐基は一度大きく深呼吸をし、意識を集中させる。

 亜人王は既に逆鱗隊を蹴散らし、腕はフォルネストの蔓となっているが人の姿に戻っていた。

 ゆっくりと歩き、皇帝のいる正殿へと向かっている。

 もはや邪魔する者はいないだろうとでも思っているのか、あまりに遅い歩みで。


 祐基は静かに筒から矢を取り、番える。

 狙うは亜人王の頭部。

 一撃で即死させ、終わらせる。


 距離はかなり離れているが敵はあまりに遅く、多少腕のある弓兵であれば誰でも容易に射抜ける状況。

 祐基は修行で得た力を使い、矢を放とうとした.......。


 だが、目の前の亜人王の姿を見つめていると、突如として祐基の中に流れ出す.......。



 龍華兵の悪い癖。



 祐基は今まさに放とうとしたその矢から力を抜いた。


「.....兄貴、俺も龍華の兵士なんだね」


 祐基は思ってしまった。

 幾度も自身の矢を弾いたあのフォルネストの蔓を、今なら貫けるんじゃないか.....と。


 あの蔓を今度こそ壊したい気持ちと、今の自分が立つ現在地を知りたい。

 名を上げた龍華兵に共通する戦闘狂の欲求が、今ここで湧き出てしまう。


「亜人王ッ!!!」


 祐基は亜人王の名を叫ぶ。

 その声に亜人王は足を止るとゆっくりと振り返り、祐基を見上げた。


「チビの弓兵......」


 祐基はそれを確認すると弦を引き、番えた矢に力を込め始めた。

 バチバチッ!!と音を立てながら矢にいかづちが纏い、光を発する。


「二度やり合ってわからないほど脳が劣化してるのか?それとも不意打ちのまぐれで俺の眼を射抜いた結果に増長してるのか?」


 左腕に生えるフォルネストの蔓が、亜人王の体を守るように幾重にも重なり始める。


「どうした、射ってみろ。最期に攻撃する機会をくれてやる。そして、生物としての圧倒的な壁を知れ」


 祐基は矢にさらに力を込め、雷光が徐々に激しさを増していく。


 (血を流す感覚で.....)



「はぁ....はぁ.....」

「ふーむ」


 宮殿内部に作られた訓練広場。

 青空の下、祐基は的に向かってかれこれ5時間、一瞬たりとも集中を切らさず、ただひたすらに矢を射ち続けていた。


「よし一旦休憩じゃ。聖玉せいぎょく、治してやっとくれ」

「はい」


 紅忠の指示に、皇帝御付きの僧侶である聖玉が錫杖を片手に祐基の元へ歩み寄る。

 聖玉は祐基の手を握り、皮が捲れ血が垂れる指に「<ヒール>」と唱える。

 すると指は暖かな光に包まれ、傷はみるみるうちに塞がっていった。


「ありがとうございます!」

「ほれ、水じゃ水」


 紅忠が水の入ったヒョウタンを祐基に向かって投げ渡す。

 祐基は慌てて受け取ると礼を言う前にヒョウタンに口を付け、喉を一気に潤し始めた。

 休む間も無く射ち続け疲労しきった身体にに、水の癒しが底まで広がる。

 そのままヒョウタンに入っていた水の半分以上を飲み干し、祐基は大きく息を吐く。


「はぁ....生き返りました。ありがとうございます紅忠さん....」

「ん?」

「あ...師匠!」


 祐基は慌てて言い直す。

 紅忠からの要望で師匠と呼ぶよう決められていたからだ。


「さて...っと」


 紅忠がその場で胡座をかいて座った。

 祐基も腰を下ろし、聖玉も静かに座る。


「一通りお前さんの腕は見たが.....一言で言うとすれば弓の天才じゃな。わしほどじゃないけど」

「あ、ありがとうございます!!」


 祐基は思わず背筋を伸ばした。


「さらにそこに雷衝動が加われば、お主は間違いなく世界屈指の実力者にもなり得る。それだけの才能がお主にはある」

 

 憧れの人物からの絶賛の言葉に祐基は、自分にそれだけの力があるという実感が沸かないものの、素直に照れ頬が緩む。

 

「じゃが.....お主はまだ雷衝動を使いこなせておらん」

「え.....」


 次に出た紅忠の言葉に、祐基は軽く衝撃を受ける。

 ラージャンにフォルネスト、あの二体と戦い抜いた祐基は雷衝動を完全に使いこなしている自信があったのだ。


「過去にラージャンの水の硬度....その最大の硬さと言い張った水に触れたことがあるが、触った感じフォルネストの蔓と同程度の硬さじゃった。ラージャンの奥義の詳細は見たことないからわからんが、恐らく同じ硬度じゃったろうな」


 紅忠は断言するかのように言った。


「あの水とフォルネストの蔓が同じ......?でもあの蔓は雷衝動で貫けませんでしたよ?」

「それじゃ。わしが言いたいのはつまり、雷衝動にはフォルネストの蔓を打ち破れる力があった....というわけじゃ」


 確信をハッキリと感じる声。

 だがやはり祐基にはピンとこない。

 それは実際に戦い、雷衝動の矢が通用しなかったのが現実だったからだ。


「で、じゃ。こっからは推測じゃが、それができんかった理由は....恐らく魔力を込めたかどうかの違いじゃろうな」

「魔力を?」


 紅忠が頷く。


「雷衝動は、弓自身に宿る無尽蔵のいかづちを矢に纏わす事ができる。じゃが一度に矢に送れるエネルギー量には限度....いや、いかづちの生成限界が存在するんじゃろう。一定量送るとそれ以上はいかづちを纏わんはずじゃ」


 その言葉に祐基は、これまで雷衝動を使ってきた記憶を思い返す。

 確かに、紅忠の言う通り矢に送るいかづちはある程度纏うとそれ以上は上がらなかった。

 それが雷衝動の限界だと受け入れており、祐基は気にも留めずにいた。

 

「そこで魔力じゃ。魔力はあらゆるエネルギーに変換できる力」


 紅忠は弓を引く動作をし始める。


「その雷衝動...いや番えた矢に手から魔力を送れば、中継地点の雷衝動でお主の送った魔力はいかづちに変換され矢に送られる。更にいかづちを纏った矢であれば、その破壊力はフォルネストの蔓など容易く貫けるじゃろう」

「あの蔓を.....!?」

「ラージャンとの戦いではそれを無意識にやってのけたんじゃろ。実際奴との戦い、雷衝動を使い放った矢の威力はどうじゃった?」


 祐基は記憶を辿り始めた。

 そして、ゆっくりと口を開く。

 

「....確かに、思い返してみればあの時の矢の威力は今の比じゃなかった......」


 祐基の脳裏に浮かぶ、ラージャンを打ち破った矢の輝き。

 何度も雷衝動を使っているが、あれ程のいかづちの輝きは他では見た事がない。

 強いて言えば、フォルネストの技を相殺した時くらいにしか目にしていない。

 

 紅忠の推測、そして自身の記憶を思い返していくたびに、段々と祐基の中である気持ちが込み上げてくる。

 ドクンドクンと心を鳴らすこの気持ち。

 まだまだ自分は強くなれるかもしれない....という向上心だ。


「っちゅうわけで、残された時間でやるのは“武器に魔力を送る”特訓じゃ」

「はい!それでどうやって送ればいいんですか!」


 祐基は雷衝動を持ち上げ、紅忠に期待の眼差しを送る。

 魔力の存在は常識のため知っているが使った事がない。

 そのため祐基はそのやり方を全く知らず、送り方の見当もつかなかった。

 だが返ってきた答えは。


「......知らん」


 なんとも言えない空気が数秒間漂った。

 そんな推測立てておいて自分はできないのかよと、声を出したくなる気持ちを祐基は必死に抑える。


「あ、あの....師匠はできないんですか.....?」

「いやできるよ」


 どっち?

 祐基の脳内は困惑を極めた。


「いやできるんじゃけどな、魔力を送るコツっちゅうのが上手く説明できんのよ。この国の奴らときたら魔力なんて必要ないと言わんばかりにスキルも習得せんから、わしは完全独学でやっとるからな.....」


 そういえばと、祐基は再び記憶の海に潜る。

 訓練施設で学んだのは主に基礎体術と剣術、弓術。

 魔力の扱い方やスキルに関する知識は、一度たりとも教えてもらうことはなかった。


 (そういえば紅蓮隊長もスキルっぽいの全く使ってなかったな....)


「僭越ながら私が教えても....?」


 控えめに聖玉の手が上がる。


「聖玉さん?」

「私共は国子魔法学監こくしまほうがっかんで魔力に関する事を学んでいる身。私が魔法を使用する際に行う魔力操作の感覚を祐基様が掴めれば、武器に魔力を送ることも可能になるかと」

「本当ですか!!ぜひお願いします!!」


 祐基は勢いよく頭を下げる。

 聖玉はふふっと微笑むと立ち上がり、錫杖を前に構えた。

 

「魔法を使う際、種類にもよりますが基本はその使いたい魔法を頭に思い浮かべながら、手や錫杖...武器から魔力を外に出す想像をするんです」

「想像....」


 祐基も立ち上がり、早速雷衝動に矢を番え、的を狙いながら目を瞑る。

 だができない。

 矢にいかづちを更に纏わせる想像はできるが、魔力を送る想像が難しい。

 そもそも魔力というのが具体的にどんなものなのか、祐基はよくわかっていないのだ。


「う〜ん.....!!」

「最初は難しいですよね。私も初めてできるようになるまでは結構苦戦しましたので」


 そう言うと聖玉は錫杖を下げ、自身の掌を祐基に見せた。


「でしたら自分の血液で想像してみましょうか。掌から血を出す想像です。魔力は体内に流れるエネルギーですので、その想像でできるようになる方結構多いんですよ」

「血液で.....」


 祐基は再び雷衝動を握り直す。


「やってみます!」


 

 (血を流す感覚で.....)


 矢に纏ういかづちの激しさ、光度が一気に増す。

 ラージャンを倒した際とフォルネストの技を相殺した際に見せた強大ないかづちのエネルギーを、矢は纏った。


「.....なんだ?」


 亜人王はその輝きを前に、つまらないものを見るかのような表情が警戒一色へと変わった。

 直感で感じたのだろう。

 次の瞬間に来る一撃は、自分を殺せる一撃だと。


「穿て....!!!『霹靂へきれき』ッッ!!!!」


 いかづちが放たれた刹那、世界が白く光る。

 眼で捉える事など不可能な速度、落雷の轟音。

 雷速の矢は瞬きよりも速く、一瞬にして亜人王に到達し....。


「っ.......!!!」


 幾重にも重なるフォルネストの蔓を射ち破り。

 亜人王の左腕と左脚を消滅させた。


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