73.友達
「『赤龍』、亜人王と戦わず何処へ行く気ダ。早く奴と戦エ」
指揮機の声はやはり普通の生物とは何か違う、感情が一切聞こえない不気味な声だ。
だがそれよりも祐基が気になったのは、発した言葉の内容。
(亜人王と紅蓮隊長を戦わせるのが狙い.....でも何のために......?)
こいつもポリズンのように亜人王に仕方なく従っているのか。
祐基はそう考えるが、指揮機から感じる雰囲気が、何か亜人王とは別の目的があるという事を伝えてくる。
「どうやら私が狙いのようだな.....」
紅蓮が祐基を隠すように、前に出る。
「行け、祐基。こいつは私が倒す。お前は亜人王を」
「隊長!僕も一緒に!」
「早く行け!隊長命令だ!!」
そう言ってくると予想していた祐基はすぐに共に戦おうとするが、紅蓮が一喝。
相手は六荒王。
ラージャンやフォルネストと戦った経験から、いくら紅蓮が強いと言っても1人では勝ち目は薄い。
しかし共に戦えば勝算は十分にある。
祐基のその考えは間違っていないが、今は状況が状況。
紅蓮の目が厳しく祐基を睨む。
「で....でも.....!」
「仕方ないですねぇ〜祐基くんは」
翠鳳が祐基の横を通り、紅蓮の隣に立った。
そして手に握る錫杖の石突を地に叩き、シャンッ!と音を鳴らす。
「私が代わりに残ります。だから祐基くんは急いで行ってください!」
「翠鳳さん!?余計行けませんよ!」
戦う力のない翠鳳が残ったところで焼け石に水どころか足手纏い。
今更になって、そもそも何で翠鳳が付いてきているのかという疑問も湧いてくる。
だがそんな祐基の焦燥を気にする様子もなく、翠鳳は呑気に口を開いた。
「祐基くんって紅蓮さんの事好きですよね?」
「はっ!?」
紅蓮が瞬時に翠鳳を見た。
突然何を言ってるんだこいつは、と思っているような顔で。
「好きですよ!兄貴と同じくらい!」
そして祐基は堂々と答える。
嘘偽りのない本心を。
それを聞いた紅蓮は軽く咳払いをしながら、再び指揮機の方へ視線を戻す。
「ならもし...兄貴さんがここにいて、紅蓮さんと同じ事を言ったら....祐基くんここに残りますか?」
「.....!」
その言葉に、祐基はハッと目を見開いた。
紅蓮の後ろ姿が、一瞬だけ屈釖の姿に重なる。
そしてその屈釖が、チラリと祐基の方を振り向く。
俺の事が信じられねぇのか?...と。
「兄貴は......きっと殴ってでも僕を無理矢理行かせますね.....」
想像すると祐基に若干の笑みが溢れる。
瞬きをすると、屈釖の姿は紅蓮に戻っていた。
同時に、祐基は抱いていた心配の気持ちが軽くなっていたことに気づく。
「翠鳳さん....紅蓮隊長」
翠鳳に心中で深く感謝しながら、祐基は決心する。
「亜人王....倒してきます。だから絶対....死なないでください!!」
「はい!」
「お前もな、祐基」
祐基は扉へ向かって走り出す。
一切振り返らずに、共にここまで辿り着いた仲間を信じ、託し。
次会う時は、決着が付いたその時だと信じて。
扉の前に着き、祐基はドアノブを強く握り勢いよく開く。
ただ前へ。
亜人王を倒すため、祐基は暗い地下通路の中へと入っていった。
「『赤龍』が亜人王を倒すのではなイ.....?あの兵士ガ.......?」
その背を黙って見送っていた指揮機は、困惑しているかのような言葉を発し、動きが止まった。
「ところで翠鳳。何でお前はここまで付いてきたんだ?」
「え、それ聞きます?城壁で一緒に連れてってくれたのにですか?」
「あれは......」
何であの時、翠鳳を置いて行かずに宮殿に向かったのか。
翠鳳も祐基を追いかけようとしたから仕方なく?
翠鳳の力が必要になると思ったから?
紅蓮はその理由を探したが、“これだ”と言う理由はすぐには見つからなかった。
「まぁ私も上手く言えないんですけど、軍の仲間とは違う......その、なんて言えばいいんでしょうか。“本当の仲間”.....って言うと他の兵士さん方は仲間と思ってないのかって言われそうですし......う〜ん.....」
「.....友達か?」
「そう!!それです!!!」
翠鳳が荒ぶるように声を上げ、紅蓮の顔に迫る。
「足手纏いなのは自覚してますし、六荒王や亜人王との戦いで私に何ができるのかはさっぱりわかりません!!けどそんな理由で友達が死地へ行くのを黙って見てるなんて、私にできるわけないじゃないですか!」
自身の戦闘力の無さを半ば開き直るように、翠鳳は胸を張って言い切った。
その真っ直ぐすぎる瞳と言葉に紅蓮はふと、自分の過去を思い返す。
(友達か.....思えば私に、友達なんて1人もいなかったな)
そう思った瞬間、紅蓮の口元が自然とわずかに緩んだ。
「ふっ.....翠鳳。実は祐基と約束してることがあるんだ。この戦いが終わったら一緒に部隊を作り直す...とな」
「え!?何それ聞いてませんよ!いつの間にそんな話を!」
「良かったらお前も一緒に来ないか?.....いや、僧侶だから厳しいか」
紅蓮は自分で言っておいて帝国軍の規定を思い出す。
原則、数の少ない貴重な僧侶が軍の部隊に入ることは禁止されている。
まして荒野へ入る危険性の高い部隊など許可が下りるはずがない。
だが、それを当然理解しているはずの翠鳳は。
「行きます!!絶対毎日楽しそうじゃないですかそれ!!!」
目を輝かせ食いついた。
「私決めました!!この戦いを生きて終えれたら、皇帝陛下に部隊への入隊を認めさせます!!何かこう...凄い成果を盾に!!」
「そうか。楽しみにしてるぞ」
六荒王を目の前にしているとは思えないほど緊張感のない会話。
だが次の瞬間、指揮機の僅かな動きを察知しすぐに表情を引き締める。
指揮機の首がゆっくりと動き、その視線の先にあったのは...中庭中央の塔。
紅蓮の背筋に悪寒が走る。
(まさか.......)
指揮機は腕を持ち上げ、地面へ掌を突きつけた。
「理解はできないガ、念のためダ」
掌より閃光が走り、光球が放たれた。
ただの魔道機人が放つものとは桁違いの威力。
地を穿ち、宮殿を揺らす。
なぜかはわからないが、指揮機は地下通路の存在を知っていた。
踏み止まるように足へ力を込めながら、紅蓮の胸中は祐基の安否の不安で埋め尽くされる。
「指揮機.....!」
「亜人王と戦う気がないのなラ、せめてワタシと戦ってもらうゾ、『赤龍』。戦闘データを収集させてもらウ」
指揮機の両目がピカッと光る。
次に来る攻撃、それを本能で感じ取った紅蓮は瞬時に身を躱す。
すると、指揮機は双眸より直線の光線を放った。
光は紅蓮の髪を掠め、後方の建物を貫通。
貫かれた建物には、まるで溶けてできたかのような二つの小さな穴が空く。
(光線!?熱を感じるということは火魔法の類か.....!)
紅蓮は魔法をあまりよく知らないが、基礎知識だけはしっかりと学んでいる。
だが今のが何の魔法なのか、そもそも本当に魔法というやつだったのかもわからない。
今まで戦ってきた、単純な身体能力や剣などを武器にしてきた敵とは違う。
どんな攻撃をしてくるのか、一切読めない敵だ。
紅蓮は偃月刀を強く握り直す。
こいつに勝ち、祐基の元へ行く。
その想いを込めて。
「翠鳳、しっかり私の後ろに隠れていろよ」
「はい!怪我をしてもすぐ治せるよう待機してます!」




