72.弱点
消えた亜人王を追い、祐基達3人は宮殿の中を走る。
本来、皇龍宮の広さからして、たった3人では亜人王を探すのにかなりの時間を浪費するだろう。
だが亜人王の目的は皇帝の殺害。
ならば正殿に現れるのは確定している。
祐基達はそれに賭け、正殿へ一直線に向かっていた。
やがて龍眼門を超えた先にある二つ目の門、『龍口門』へ辿り着く。
龍眼門のような防衛重視の門ではなく見栄え重視で作られた、美を極めた造形の全長200メートルの門。
だがその門の下、そこに広がっていたのは美とは真逆の光景....血の池だった。
さらに、本来ここを警備していたはずの兵士達の惨殺された姿。
潰され、斬られ、串刺しにされている。
「うっ.....」
翠鳳が息を呑み、祐基の中で亜人王への怒りがさらに膨れ上がる。
その門をくぐる瞬間、一歩一歩進むたびに足元より響く液体の音。
1秒でも早く奴を殺す。
その思考が祐基の脳内を支配していく。
3人が門を抜けると見えたのは、宮殿中央の巨大な中庭。
鮮やかな緑の芝生が広がり、中央には二つの高い塔が立つ。
左右には中庭を囲うように門から奥へと続く廊下。
その最奥、皇帝のいる正殿が中庭を見下ろすように聳え立っている。
「あれは....!」
そして、その中庭中央付近で異様な存在と戦う兵士達の姿が見えた。
灰色の皮膚、四足歩行で長い鼻と2本の巨大な牙を生やし、異様に大きい耳を持つ猛獣。
それと戦っているのは龍華軍最強と称される部隊の一つ、皇帝直属の親衛隊....『逆鱗隊』だ。
所属する全ての兵士達が、かつて『赤龍』や『飛龍』のような“龍”の名を与えられた軍のエース達。
もし『飛龍』や『強龍』がいなければ名実共に龍華最強の部隊と呼ばれていたであろう。
しかし、そんな精鋭部隊だが猛獣の勢いを前に押されていた。
負けてはいない。
剣で刺し、弓で射抜き、打撃武器で顔面を叩く。
だがどの攻撃も意に返さず、猛獣は兵士達を純粋なパワーで薙ぎ倒して行く。
「何でしょうかあの動物.....見たことない.....」
「モンスターか?」
「亜人王.....!」
祐基はそれを亜人王と断定する。
理由は、ゴバ荒野に精通している紅蓮が知らないこと。
そして、単純に強いからだ。
普通に考え、最強と称される逆鱗隊がただの猛獣相手に押されるなどあり得ない。
祐基は即座に弓を握り締め、亜人王へ向かって駆け出そうとした。
だがその肩を紅蓮が掴む。
「落ち着け。なんで正面から戦おうとしてるんだ」
「落ち着けませんよ!早く僕があいつを倒さないと!」
「奴と正面からやり合うのは得策じゃない。まだどんな力を秘めているか...」
紅蓮の考えはその通りだが、祐基は分かってなお亜人王と今すぐ戦おうとする考えを変えない。
背負った責任、また手遅れになる前に亜人王を倒したい一心で。
「奴と一戦交え分かったが、奴の力は万能という訳ではない。弱点はあった」
「.....弱点?」
その言葉に、祐基は紅蓮の方を振り向く。
「奴の権能.....いや『力』か。奴は必ず相手の行動を見てから体を変化させていた。最適な体を自動で作るのではなく、奴自身が考え、思考したその場で最適な体を」
翠鳳が首を傾げる。
「....?それって普通の事じゃないんですか?相手が顔を殴ろうとしたら腕で反射的に顔を守るみたいな」
「そうだな。じゃあその殴る動作が見えなかったらどうなる?」
「見えなかったら.....普通に顔を殴られますね」
翠鳳がごく当然の事を答えると、紅蓮は頷く。
そして中庭中央に立つ2つの塔を指差した。
「祐基。あの塔に登り、奴に気付かれることなく狙撃しろ。奴が底の知れない手数を持つなら“何かする前に倒せばいい”」
それを聞くと翠鳳は「なるほど〜!」っと手をポンと叩いた。
「......わかりました」
祐基はしばし無言で塔を見つめ、頷く。
確かにその方法なら確実に亜人王は倒せると。
「でも気付かれずって.....どうやって塔まで行くんですか?」
翠鳳が塔を見ながら疑問を呟く。
確かに、亜人王は塔の入り口に近づいてきており、いま走って塔に向かえば確実に見つかる。
それでは狙撃の意味がない。
その問いに紅蓮は振り返り、龍口門へ視線を向けた。
「もし宮殿で戦うことになった際のため、皇龍宮の構造は頭に入れてある。この門から塔へ続く地下通路が伸びている。それを使う」
流石紅蓮隊長....と、祐基と翠鳳は心中で深く感服した。
「幸い亜人王は兵を殺すだけ殺して破壊はしてない。地下通路も無事なはずだ」
紅蓮は龍口門の隅にある扉へ向かって走り出し、祐基と翠鳳もすぐに続く。
「あの先に地下通路に繋がる階段がある。急ぐ...「何処へ行く気だ赤龍」
瞬間、真上より異質な気配が突き刺さる。
祐基と紅蓮は反射的に即座に武器を構え、戦闘態勢に入った。
「翠鳳さん後ろに下がって!!」
「えっ、あっはい!」
翠鳳は慌てて二人の背後へ下がる。
直後、先程まで翠鳳が立っていた場所へ、空から鋼鉄の塊が落下し石畳を砕く。
中庭全域に響いたであろう衝撃音に周囲を包む土煙。
その中に立つ人影が一つ。
「魔道機人の指揮機....!!」
その正体は先ほど見た六荒王の一角、魔道機人の指揮機。
人間など容易く踏み潰せるであろう重厚な鋼鉄の肉体がゆっくりと動き出す。
全身に埋め込まれたコアが淡い水色の光を放ち、同じ色に輝く双眸が紅蓮を捉える。
「『赤龍』、亜人王と戦わず何処へ行く気ダ。早く奴と戦エ」




