70.虫
「総員戦闘体制ッ!!!」
紫蓮が声を上げる。
「敵は1人だッ!!!亜人共の首魁、亜人王ッ!!!ここで仕留めるぞッ!!!」
飛射隊の兵、そして周囲の他の兵士達が慌てながらも即座に応戦態勢へ移る。
それぞれが槍を構え、剣を構えて亜人王を囲う陣形を取る。
そんな中、血反吐を吐きながら宙に浮く紅忠が苦しげに口を開いた。
「殺気を一切感じんかった......」
「お前は蚊を潰す際、わざわざ殺気を出して殺すのか?気付かずに蟻を踏んだ際、殺した感覚があるのか?俺にとってお前らは虫だ、旧人類共」
そう吐き捨てると同時に紅忠は見えない何かに捨てられるように、乱暴に床に放り投げられた。
「『飛龍』将軍ッ!!?」
紫蓮が叫び、部下と共に倒れる紅忠の元へ駆け寄る。
すると何も無いはずの空間に、徐々に尻尾が現れ始めた。
「透明な....尻尾....!?」
現れたのは人間の腕2本分程の太さの尾。
その先端には毒蠍人の毒針らしき針が生えている。
「カメレオンの特性だ」
亜人王が答える。
そして現れた尾は徐々に縮まり、最終的に亜人王の体の内へと消えていった。
「よく俺がここにいるとわかったな...チビの弓兵。俺の眼を潰した礼だ、お前だけは簡単には殺さんぞ」
亜人王は眼帯を外し、怒気を宿した眼で祐基を見下ろす。
その眼は片方は人間の、祐基が射抜いた筈のもう片方は人間では無い獣か何かの異形の眼となっていた。
「フォルネストに比べれば随分と圧がないな亜人王.....戦場にお前の姿がなかった、他にお前が現れそうなのはここしかないと思ったんだよ。『強龍』に六荒王が倒される痛い目を見たんだ、同じ『双刀』の紅忠さんを狙いに来たんだろ?」
「ふん。いちいち言葉にするな腹立たしい」
亜人王が周囲を一瞥する。
「その男にはこの世界には存在しない合成毒を注入した。解毒剤がない以上もはやまともに戦う術はないだろうよ」
「何だと!?」
飛射隊の兵士から動揺の声が漏れた。
「俺に逆らわなければ生かす価値はあったんだがな。強者を殺すのは俺も不本意だ.....と言っても弱者のゴミを助ける精神がある以上どちらにせよ...か」
亜人王はそう呟くとその場から離れる気か、宮殿の内側の方向へと歩き出す。
周囲を精鋭の兵士達に囲まれてる上、紫蓮や祐基の実力者が睨む中を平然と、まるで意に介さず。
「貴様....この場から逃げられると思っているのか?」
亜人王の進路を紫蓮が塞ぎ、囲う兵士達は武器を向け、ジリジリと距離を詰め始める。
一斉に飛び掛かるつもりなのだろう。
「小蠅程度の貴様等が寄ったところで何ができる。どうせもうじき死ぬ命、神への祈りに使え」
「じゃあ言い方変えてやるよ」
亜人王が振り向き、その顔を祐基は鋭く睨みつけながら言った。
「俺の隊長からタダで逃げられると思うなよ?」
「......隊長?」
瞬間。
「『赤・突』ッッ!!!!」
亜人王の足元、床に亀裂が走り砕け落ちる。
床下より飛び出てきたのは紅い刃の偃月刀と紅蓮。
偃月刀の刃は亜人王の胸を突き刺す。
「っ....」
だが亜人王はこれを、幾重にも重ねた蔓と魔道機人の鋼鉄の腕で受け止めていた。
「そこは『赤・破』でしょ隊長!」
「あんな危険な技、視認できない場所に撃てるか!!」
「ちっ」
舌打ちと同時に、亜人王の腕がまたもグニャリと変わり始めた。
それを察知してか、紅蓮は即座に偃月刀で亜人王の首を斬り掛かる。
しかし突如、亜人王の鼻から....いや、鼻を突き破るように顔の内側から紅蓮に向かって、鋭利で長く鋭い螺旋状の角が勢いよく生えた。
「くっ....!」
紅蓮はそれを咄嗟に身を捻って避けるも、攻撃に遅れが生じる。
その隙を見逃さず亜人王の腕はカマキリに似た腕へと変化し、紅蓮に襲いかかる。
が、キンッ!と鋭い金属音が響き、その腕は弾かれた。
飛来してきた剣が攻撃を防いだのだ。
飛んできた方向を見れば、血を吐きながらも紅忠が部下の剣を弓で放っていた。
だが亜人王は動きを止めず、同様に変化したもう片方の腕で紅蓮を斬り裂こうとした。
しかし、紅忠の作った隙を見逃さなかった紫蓮。
亜人王の脳天に双錘の一撃が叩き込まれた。
「っ....」
鈍い衝撃音が響き、効いたのか亜人王が一瞬動きを止めた。
祐基は亜人王に向かって走り出し、跳躍。
それを見た紫蓮と紅蓮はその場から一歩下がり、祐基は亜人王の背に着地した。
そして、跳んでいる最中に番えた雷を纏った矢を放とうとした....が、またも亜人王の肉体が変わり始める。
今度は白と黒の無数の針が背から生え始めた。
(毒針っ.....!?)
毒蠍人や毒針を持つ生物達とは違う針。
だが未知の生物に変わる亜人王の能力から触れる事を避け、すぐに祐基は亜人王の背に蹴りを入れ、再び空中へ跳んだ。
だが祐基は攻撃をやめない。
跳びつつ狙いを定め、矢を射った。
しかし刹那、轟音と共に突如として天井が崩落する。
瓦礫と土煙を撒き散らしながら“何か”が屋根の上から落下してきたのだ。
矢はその何かに当たり、弾かれる。
「なっ!?くそっ!!」
「何だッ!?」
動揺しながら祐基はしっかりと着地し、前を見続ける。
そして土煙の向こうにいる、落下してきた“何か”の正体を確かめようと目を凝らす。
「なっ.....魔道機人.....!!?」
やがて煙の中から現れたのは亜人、魔道機人。
だが普通の個体とは違い少し大きく、真っ白で圧倒的な重厚感のある個体。
本来胸のみにあるはずのコアが肩や腕、足など至る所に内蔵されており、それぞれが水色の光を発している。
一目で理解できる。
あれは上位存在であると。
「遅いぞ指揮機」
亜人王が少し苛立った声で言う。
「指揮機....!?『強龍』様が破壊したはずでは!?こんなに早く後続機が来るなんてありえない....!!」
「正確には新八式改良型指揮機ダ」
亜人王の言葉に強く反応した紫蓮へ、指揮機は生物が発する声とはかなり違う不気味な声の音を発して答える。
「予め体を作っておいタ。ここまで攻め込める機会は滅多になイ。データを収集するためにもナ」
「おい、煙幕使え」
「了解しタ」
亜人王の指示に指揮機は手の平を床に向けた。
させまいと祐基と紅蓮は動くも、一歩遅れる。
「『煙煙玉』」
炸裂音と共に煙が辺りを包んだ。
あまりにも濃い煙は祐基の眼から亜人王の姿を隠し、紅蓮の姿すらも見失う。
「くそっ!!逃すか亜人王ッッ!!!」
「待て祐基っ!」
逃さんとする祐基の腕を、紅蓮が掴んで止めた。
やがて煙が少しずつ晴れていき、目の前に見えたのは紫蓮と兵士達。
亜人王と指揮機の姿は消えていた。




