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龍華の英雄〜亜人戦記と弓を握りし臆病な少年〜  作者: オルレアンの人
最終章『龍華の英雄』

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69.襲来

 皇龍宮こうりゅうきゅう、その正門にあたる3階建ての横長の大きな門...龍眼門りゅうがんもん

 宮殿を守る最初の壁であり、皇龍宮こうりゅうきゅうが難攻不落と称される所以の一つである。


 皇龍宮こうりゅうきゅうへ入城するには北の正門、南の裏門を越えるしかなくその他の入り口は存在しない。

 宮殿を囲う幅約50メートルの水堀、そこを渡った先には侵入を阻む城壁。

 門以外から侵入する手段はほぼ無いため、宮殿を守護する兵士達はこの二つの門の守りを固めるだけで良い。


 正門には備え付けられたバリスタ台、常に駐屯している精鋭兵、そして『飛射隊ひしゃたい』。

 さらに籠城戦に備えた武器や物資も保管されており、長期間の防衛も可能となっている。

 

 難攻不落。

 未だかつて誰1人として侵入を許した事のない龍眼門りゅうがんもん

 その3階、今まさに攻防が続くみやこの城壁北部を見据える1人の人物がいた。

 『双刀』の1人、紅忠だ。


 その背後、室内にて紫蓮しれん指揮の下、兵士達が慌ただしく動いている。

 現在の防衛体制に不備がないかの執拗な確認。

 前線から送られてくる報告による城壁の戦況確認。

 そしてそこから予想できる敵の動きにどう対応するか、逐一考え直していた。

 ここはまだ戦場ではないが、前線と同等の緊張が張り詰めている。


「報告っ!!」

 

 そんな紫蓮へ、息を切らしながら階段を駆け上がり入室してきた伝令兵が慌てた様子で叫ぶ。


「北門が六荒王ポリズンによって破壊!!!亜人の侵入を許しました!!!」


 その報告に、場にいた兵士達の動きがぴたりと止まった。

 まるで時間そのものが止まったかのように誰一人動かず、ただ驚愕の表情で伝令兵を見つめる。


「ポリズン.......やはり亜人か。門が破られた際、亜人を食い止めるため待機させていた部隊は向かわせたか?」

「はい!出し惜しみ無く全兵力を!それと現在『蒼龍』、『風龍』、『俺龍』の3名がポリズン討伐のため北門へ向かっております!!!」


 紫蓮は僅かに目を細め、考え込む。


 (思った通りポリズンは亜人側。ここまで敵意をむき出しにしたからにはもう共闘は無し。ここで確実に殺す必要がある....)


 確実に討伐しなければならない対象だが、あれに勝てる者は誰がいるか。

 紅忠と紅蓮の顔が浮かぶが、両者動けないためそれは不可能。


「.........『蒼龍』様がいればなんとかなるか」


 小声でそう呟く。

 希望的観測ではあるが、『赤龍』と互角の強さを持つとされる男。

 むしろそうであってもらわなければ困る。


「のう」


 外から声、紅忠の声だ。

 チラリとこちらへ視線を向けていた。


「『爆龍』はどした。北門の守備についておったはずじゃが」


 伝令兵に問う紅忠。

 問われた兵士は戸惑いながらも答える。


「『爆龍』ですか....北門は兵と黒龍砲ごと吹き飛ばされたらしく生存者の情報は無し。あの方の戦闘は嫌でも目立ちますので、少なくとも戦える状況にないか....最悪....戦死されたか」

「....そうか。すまんな」


 紅忠の視線が再び城壁北部へ戻る。

 吹く風に白い髭と髪が静かになびきながら、どこか遠くを見つめるように。


「....了解した、下がって良い」

「はっ!」


 紫蓮がそう告げると、伝令兵は深く頭を下げその場を後にする。

 

「聞いたか!ここも数十分後には戦場になるかもしれない。より一層気を引き締め、敵を迎え撃つ準備を整えろ!!」

「「「はっ!!」」」


 紫蓮が声を張り上げ、周囲の兵士達が再び動き出す。

 先ほどよりも緊張感の増した顔を浮かべ、脱兎の如き速さで。


「失礼します」


 そんな中、先程の伝令兵と入れ違う形で階段を上がり、1人の男の兵士が入室してきた。

 男は室内をキョロキョロと見渡し、紫蓮に声を掛ける。


「『飛龍』は何処に?」

「.....?報告があるのなら私に」

「皇帝陛下からの機密事項のため『飛龍』にしか言えない用件でして」

「陛下から?」


 紫蓮の中で何かが引っ掛かる。

 紅忠の面倒くさがりな性格は皇帝も既知。

 全ての連絡事項は今まで例外なく信用の高い紫蓮を通していた。

 それなのに、この状況下で皇帝からの紅忠への機密事項の用件。

 その内容が一切読めない。

 そうなると皇帝から紅忠へ本当に何か用件があるのか、紫蓮の中で疑念が生まれる。


「私に話しなさい。できないのなら下がって」

「陛下からの用件です。それを遮ることは誰であろうと許されません」


 その態度に、紫蓮の中で男への警戒心が一気に跳ね上がる。

 実力行使で追い出すべきか、そんな考えすら脳裏を過ぎった。


「構わんぞ」


 だが、いつの間にかすぐ近くまで来ていた紅忠が紫蓮を制す。


「陛下から何の用件じゃ?」

「『飛龍』将軍.....」


 少しは警戒をしてほしい。

 そう紫蓮は思わずため息を吐きそうになる。

 だが紅忠であれば何が起きても別に問題ないか....と、紫蓮はそれを止めず兵士を通した。


「ん?お前さん確か権香けんこうで偵察しとった兵士か。傷はもういいんか?」

「ええ、亜人共に急襲され一時はもうダメかと思いましたが、この通り」


 男は片目を塞ぐ眼帯を紅忠に見せる。


「それは良かったのう。で、陛下から何と?」


 紅忠の目と鼻の先、兵士の歩みが止まる。

 

「はい.....こちらをご覧くだ.....「紅忠さんッッ!!!!」


 突如、外より何かが荒々しく着地する音と共に、焦燥に満ちた叫び声が龍眼門りゅうがんもんへ響き渡った。


「そいつから離れてッッ!!!!」

 


「はぁ...はぁ.....見えた!!!」


 皇龍宮へ向かって走る3人の影、祐基達だ。

 その視線の先に映ったのは龍眼門りゅうがんもん

 

「紅蓮隊長!!」


 それが見えると祐基は、背後を走る紅蓮へ叫ぶ。


「僕をあそこまで!!三階の見張り台まで飛ばしてください!!!」

「えっ!?」


 さらに後方を走る翠鳳がその突拍子もない願いに困惑の声を漏らす。

 だが紅蓮は迷わず、背に背負う偃月刀を構えた。


「わかった!乗れ!」


 3人が門前の橋、そこを守る兵士たちの部隊に差し掛かった瞬間。

 祐基は偃月刀に跳び乗った。


「ん?おいそこ止まれ!!」

「いや待て、兵士だ」

「あれって『赤龍』さん....?」


 困惑する兵士たちの声。

 祐基が偃月刀に乗ると、紅蓮は腕へ一気に力を込める。


「んんッッ....!!!ダァァァァッッッ!!!!」


 そして、凄まじい勢いで祐基を門へ向かって振り飛ばした。


「うおっ!?」

「な、何してんだあんたら!?」


 兵士たちが騒然とする中、祐基は橋を飛び越え一直線に龍眼門りゅうがんもん三階へ向かって空を飛ぶ。

 そして壁に足から激突し、着地した。


「っ.....!!」


 足に衝撃が響くが、祐基は構わず着地と同時に周囲を見渡した。

 そして目的の紅忠を視界に捉える。

 同時にその紅忠へ近づく兵士の姿も。

 祐基は反射的に叫んだ。


「はい.....こちらをご覧くだ.....「紅忠さんッッ!!!!そいつから離れてッッ!!!!」


 瞬間、紅忠が目にも止まらぬ速度で後方に飛び退がりつつ、弓を構え放った。

 紅忠が放ったのは矢ではなく短剣。

 一直線に飛んだ短剣は、兵士の腹部に深々と突き刺さる。


「ぐッ......!!?」

 

 だが次の瞬間、紅忠がまるで背中から何かに貫かれたかのように血を吐き、宙へ浮かび上がる。

 だが見えない。

 側から見れば紅忠が1人でに浮かんでいるようにしか見えず、何に何をされたのかがわからない。


 刹那、祐基は即座に弓を引き絞る。

 薄い雷光を纏った矢を兵士の頭部に向かって射つ。

 同時に双錘そうすいを握った紫蓮が、兵士の頭を叩き割らんと踏み込む。


 (....っ!!フォルネスト!!)


 兵士の肉体が変貌を始める。

 腕が膨れ上がり極太の蔓、フォルネストの腕に変化した。

 横薙ぎに振るわれた蔓の腕は祐基の矢を弾き、紫蓮と祐基...そして周囲で動き出そうとしていた兵士達を一蹴。


「「ぐわァァァァッ!!」」


 紫蓮が床を滑りながら距離を取り、祐基も咄嗟に後方へ飛ぶ。

 そして二人は同時に、“それ”を睨みつけた。


「鬱陶しい旧人類共が.....」

「亜人王ッ!!!」


 兵士の顔がぐにゃりと歪み、いつか見た男の顔が現れた。

 亜人王の人間の顔だ。


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