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龍華の英雄〜亜人戦記と弓を握りし臆病な少年〜  作者: オルレアンの人
最終章『龍華の英雄』

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68.狙い

「報告ーーーッッ!!!!城壁中央にポリズン出現ッ!!!!城門が破壊されましたッッ!!!!」


 伝令兵が歩廊を駆け抜け、喉が裂けんばかりの大声を上げる。

 その報告は、瞬く間に北部城壁全域へ広がり、龍華軍は戦慄する。

 城壁を越えられた、亜人がみやこに侵入してくる....と。


「ポリズン.....動き出したか」

「や、やっぱりポリズンさんって敵なんですか....?」


 報告を聞いた紅蓮は城門の方へと顔を向けて呟く。

 そんな彼女の横、翠鳳の顔は青ざめていた。


「......奴にとってはどっちでもいいんだろう。私たちが亜人王を討つのが理想だが、討てなくとも自分たちは亜人王の元、生き残れる。その時のために少しは働く必要がある.....そんなところだろう」

「虫の亜人なのによく考えてますね....」


 そんな会話をしている最中だった。

 背後で兵士たちが慌ただしく動き始める。


「道を開けろ!」

「『蒼龍そうりゅう』殿!」

 

 歩廊の兵士たちが左右へ散っていく。

 その中央を歩く男、『蒼龍』だ。


「ポリズンは私が仕留める!それと司令部に穴埋めの部隊を急ぐよう伝達しろ!!」

「はっ!」

「帝国の総戦力が集う城壁が....全く情けないな」


 吐き捨てるような声。

 どうやら彼はポリズンを討ちに行くつもりのようだ。


「どけ『蒼龍』テメェ!!」


 怒鳴り声と共に、荒々しい足音が歩廊へ響く。


「うわっ、『俺龍おれりゅう』も来たぞ!」

「『風龍ふうりゅう』様もいるぞ!!」


 さらに、その後方からはチリン...チリン...と澄んだ鈴の音と共に、静かな足音が並走する。


「『俺龍』....貴方もう少し品性を高めなさい。醜い言動だとこと....」

「うるせぇ『風龍』!!六荒王と戦えるまたとない機会だ!!ぜってぇ俺が戦う!!」

「野蛮で下品....けど六荒王と戦い、美しく勝利するのはわたくしよ?」

「お前らじゃ無理だ。私の獲物だ」


 好戦的な凶戦士のような言動。

 三人とも六荒王を強敵であると認識しているようだが、誰1人自分が敗北する姿を想像していない様子だ。

 圧倒的な自信と強者としての矜持。

 それが三人から滲み出ている。


「ん?お、『赤龍』!お前は来ないのか?」


 そんな彼らを見ていた紅蓮へ、不意に『俺龍』が視線を向け声を掛けてくる。

 『赤龍』という名前に反応してか、残る2人の歩みもピタッと止まった。

 『風龍』は目を細め、じっと紅蓮を横目で見つめている。


「私は他にやる事があるから動けない。代わりに行ってくれるのなら助かる『俺龍』」

「んだ?張り合いのねぇ」


 露骨に肩を落とした『俺龍』。

 その横で、『風龍』がふふ...と薄く笑う。


「あらあら、いま最も次期『双刀』に近い兵士と噂されるあの『赤龍』さんでも六荒王は怖いのかしら?みすみす強敵と殺し合える楽しみを捨てるなんて」


 優雅な笑みで煽るような口調が続く。


「でも安心して。わたくしが美しく倒してきますので、貴方はここで雑兵狩りでもしながら隠れていてください」


 にっこりと笑みを浮かべながら出てくる、明らかな挑発の言動に場の空気が凍りつく。

 だが紅蓮は特に気にしてない様子だ。

 しかし、横にいる翠鳳がむっ....と声を出した。


「ちょっと!紅蓮さんには本当にこれからもっと大切なやる事があるんです!六荒王如き相手にするほど紅蓮さんは今暇じゃないんですよ〜だ!」

「あらあら、可愛い子ね」


 舌を出す翠鳳に、面白そうな物でも見ているかのような微笑みを見せる『風龍』。

 そんな翠鳳の肩に、紅蓮はポンと手を置いた。


「翠鳳、あれは『風龍』殿が私と本気の手合わせをしたくてわざと挑発しているだけだ。本心で言ってるわけじゃない」

「え、そうだったんですか?」

「あらバレました?」


 張り詰めていた空気が一気に緩んだ。


「『風龍』殿、手合わせでしたら戦いが終わった後にでも」

「あらあら、楽しみにしているわ『赤龍』。お互い無事、御体満足で戦い合いましょうね」


 そう言い終えると『風龍』、そして『蒼龍』は再び城門方面へと歩き出す。

 『俺龍』も遅れまいと。


 「じゃ!俺が六荒王ぶっ倒して来るから!お前も頑張れよ!」


 そう紅蓮へ言葉を残し、駆けて去って行った。


「翠鳳」


 その歩いていく『風龍』の背を、不満そうに睨む翠鳳。

 恐らく、冗談とは言え人を馬鹿にした発言をした事が引っ掛かっているのだろう。


「名を上げた龍華兵には、ああいった武人は結構多い。互いに本気でやり合いたいと相手を挑発する行為をする武人が」

「....例え冗談でも、紅蓮さんが馬鹿にされたのが気に食わないんです」

「そうか....ありがとな、私を思ってくれて」


 紅蓮は翠鳳の頭へ優しく手を置いた。

 

「はぁ...もういいです。手合わせ絶対勝ってくださいね!」

「ふっ....ああ!」


 この時、紅蓮は内心ホッとしていた。

 紅蓮が警戒していたのは、3人の中で最も実力の高いであろう『蒼龍』だ。

 一見興味なさそうにしていた彼だがあの瞬間、紅蓮に向けて隠す気のない殺気を放っていた。


 あれは、本気の手合わせでは物足りない。

 自身と同等の強者との“死合い”を求めている者の眼だった。

 そんな相手と何事もなく、『風龍』との手合わせを決めるだけで終えれたのは運が良かった....と、紅蓮は一息つく。


「さて.....私たちはどうするか....」


 そう呟くと、紅蓮は横目で祐基をチラリと見る。

 祐基はポリズン出現の報告を聞いていたにも関わらず、そちらへは一切意識を向けていなかった。

 彼の視線は、ただひたすら前方の戦場へ注がれている。


 それもそのはず。

 祐基にとって今は六荒王などどうでもよく、頭の中を占めているのは亜人王ただ1人だ。


 (ポリズンが門を破壊した......これで1箇所城壁に穴が空いたけど、なんで亜人王はまだ出てこない...... こっちが混乱している今の状況は攻めるのに絶好の機会。ポリズンの報告が先に来たということは北西部にも亜人王は出現していないはず....)


 チラリと戦場の亜人、その全体を見る。

 特に変わった様子はなく砲撃と矢の雨が降り注ぐ中、死に物狂いで亜人達が前進している。


 (あの亜人達.....指揮してる亜人がいないのか?動きを変えることなく突撃しかしてこない。もし亜人王がここにいれば、状況の変わった今、何か動きを見せてもいいはず.....)


 脳内に強烈な違和感が徐々に膨れ上がっていく。

 ただいたずらに兵を死なせても亜人王に利は一切ない。

 勝機を擦り削る行為であり、言い方を変えれば自身の首を絞める行為。

 なのに姿を見せないどころか、動きの一片すら見せない。

 

 (何を待ってる.....亜人王......)


「大丈夫ですか祐基くん?凄い難しい顔してますけど....」


 そんな祐基へ、翠鳳が心配そうな眼差しを向けながら声を掛ける。


「あ....大丈夫です翠鳳さん。ちょっと頭が混乱しちゃって.....」

 

 祐基は慌てて表情を緩め無理やり笑みを作り、心配はかけまいと平静を装う。


「亜人王...見つからないんですか?もしかして北西部にいるんじゃ?」

「そうかもしれませんけど、現状そんな報告がないですし、向こうでも動きが見えないんだと思います」

「案外もう中に入ってきてたりして....」


 翠鳳の何気ない一言。

 その瞬間、祐基の背筋にひやりとした寒気が走った。

 だがすぐにそれはあり得ない事だと、寒気をすぐに消える。


「怖い事言わないでくださいよ翠鳳さん....まだポリズンが門を破壊して数分...仮に城門の兵士たちが全滅していたとしても、そこからすぐ近くの兵士たちが守っているでしょうし、亜人の1体もまだ入ってきてないはずです」

 

 そう説明すると、翠鳳は不思議そうに首を傾げた。


「いえそうじゃなくて....」

「?」

「開戦前から入ってきてる...とか」


 (.......は?)


 一瞬たりとも考えなかったその考えに少し驚くが、それもまたあり得ない事だと祐基は結論づける。


「えっと....翠鳳さん、それはもっとあり得ないですよ。開戦前の城壁は全方位警備が厳重だったらしいですし、夜は精鋭の飛射隊の方々が警備していました」

「そうだ翠鳳。陛下もそれを危惧し鼠や虫、鳥も亜人王が化けている可能性を考え1匹たりともみやこに入れなかったらしい。はっきり言って開戦前の侵入は不可能だ」


 祐基と同じ考えなのか、紅蓮も翠鳳へそう説明する。

 だが翠鳳は納得していない様子で首を傾げた。


「確かにそんなこと言っていたような......でも昨日、城門付近で先輩方の回復魔法を見学してた時、普通に入ってきてる方いましたよ?」

「え.....?」

「翠鳳!!」

 

 紅蓮が慌てたように翠鳳の両肩を掴み、ガクッと揺らす。


「あふぁっ!?」

「入ってきていたとは何がだ!?」


 紅蓮が問いただし、突然の勢いに驚きながらも翠鳳は答える。

 

「あ、あれは多分...“偵察の方”です。ボロボロの姿で馬も連れてましたから....」


 その答えを聞いた瞬間、紅蓮は大きく息を吐く。

 

「翠鳳....きっとそれは権香けんこうを偵察していた兵士だ。亜人が動き出した報告をするため帰還したんだ。それに兵士ならば城門をくぐれるのは当然だろう....」


 若干呆れたような声色だ。

 その横から、緊迫した表情を浮かべた祐基が一歩近づく。

 

「翠鳳さん.....何が言いたいんですか......?」


 翠鳳の語った考え。

 その内容がどういう意味か、祐基は冷や汗を垂らしながら恐る恐る翠鳳に問い掛ける。

 まるで、自分の予想が外れていてほしいと願うように。



「え?いえですから....その偵察していた兵士さんに“亜人王が化けて”入ってきてたりしてって....」

 

 

 刹那。

 祐基は戦場から烙夭らくようの方へと駆け出した。

 城壁の高さなど気にも留めない、いや留めている暇もない。

 階段を使わずにそのまま城壁から飛び降りる。


「なっ!?祐基!!?」

「祐基くん!?」


 突然の祐基の行動に、翠鳳と紅蓮も急いで走り出す。


「うわっ!!?何だ!?」

「亜人か!?」


 祐基は城壁下に張られていた天幕の上へ着地し、布が大きく沈み込む。

 周囲の兵士達が驚く中、祐基は気にせずそのまま地面へ飛び降り、街へと全力で走り出す。

 紅蓮も即座に翠鳳を抱え上げると同じように城壁から飛び降りた。

 そして着地と同時に祐基の後を追う。


「祐基!!まさか亜人王の居場所がわかったのか!?」

「え!?本当ですか祐基くん!」

「はいッ!!」


 確信を得た力強い声で祐基は答える。


(何で気付かなかった.....!!知識に宿る生物に姿を変える力......人にも化けれたのか.....!!)


 完全に出し抜かれた。

 祐基は悔しさに歯を食いしばるがすぐに思考を切り替える。

 仮に、亜人王が兵士に化け既にみやこ内部に侵入しているとして、問題はどこにいるか。

 

 (亜人王は目を射抜いた僕をわざわざ六荒王を使って殺しに来させた.....最初はただの報復かと思ったけど、もしかして自分の脅威となるかもしれない兵士を排除したかったんじゃないか?)


 もしそうであるなら、亜人王のいる場所はここしかない。

 祐基は確信する。


「亜人王....!!もうお前の思い通りにさせるかッ!!!」


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