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龍華の英雄〜亜人戦記と弓を握りし臆病な少年〜  作者: オルレアンの人
最終章『龍華の英雄』

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62.会議

 龍鱗の長城東部方面軍副司令・師羽藺しばい

 てっきり今も長城で亜人との戦いの指揮を執っていると思っていた祐基は、彼の姿に心底驚いた。


「師羽藺副司令、どうしてここに?」

「いやぁ実はね、亜人が国内へ侵入した後も長城で指揮を執ろうとしたんだが....総司令の野郎が『私1人で事足りる』ってみやこに行くよう命令してきてね。せっかくの手柄を独り占めにしやがる、生意気な野郎だよ本当」

「では長城は今、総司令が指揮を執って...」

「くだらん戯れは後にしろ」


 皇帝が玉座から立ち上がり一段一段と段を下り、この場の全員と同じ床へ足をつけ、師羽藺の隣に立つ。


「さき呼ばれた者以外は速やかに退出しろ。これより戦況の再確認に移る」


 命令が下されると官僚たちと衛兵たちは一斉に頭を下げ、足早に帝の間から退出していった。


「え.....あの....私は?」


 翠鳳が恐る恐る手を挙げる。


「二度言わせ時間を取るな、失せよ。外で待機しているがよい」

「あ.....あはは...ですよね、じゃ...じゃあ私はこれで.....」

「待ってください陛下!」


 翠鳳が立ちあがろうとしたその時、祐基は勢いよく膝をつき深々と頭を下げた。

 皇帝へ進言するその重圧に、額から汗が流れ落ちながら、祐基は声を出す。


「彼女...翠鳳さんはラージャンとフォルネスト討伐に大きく貢献してくれました!特にフォルネストは、翠鳳さんの策が無ければ勝利を収める事は叶いませんでした!」


 ラージャンとの戦いでは、行き詰まった祐基に雷衝動を渡し。

 フォルネストとの戦いでは、翠鳳の発言がフォルネストを穴に落とす作戦を生み出した。

 彼女なくして祐基達はここまでこれなかった。

 それを誰よりも理解していたのが祐基だ。


 これから話し合う内容によっては、翠鳳の発言がまた助けになる可能性もある。

 祐基はそう信じていた。

 

「ですので陛下!どうか翠鳳さんにも参加の許可を!」

「ダメだ」

「陛下、私からもお願い申し上げます」


 同じように、紅蓮も膝をつく。


「彼女の何気ない発言が、我々の勝利に大きく貢献してくれるかもしれません。何卒....」


 二人が深く頭を下げる。

 皇帝は翠鳳を見つめしばし沈黙し、およそ5秒。


「よかろう。では皆集まれ」

「...感謝します!陛下!」


 祐基の胸を大きな安堵が満たした。

 再度深く頭を下げた後、祐基は立ち上がる。

 そしてテーブルへ向かう途中、背中を後ろから指で、ちょんちょんと突かれた。

 振り向くと笑顔を見せる翠鳳の姿。


「ありがと祐基くん!」

「....やっぱり、僕らと一緒にいたかったんですね?」

「流石祐基くん!1人で待つなんて寂しいでもん!」


 翠鳳は小声でそう笑う。

 祐基も思わず小さく笑みを浮かべながら、彼女と共に中央のテーブルへ向かった。

 そして、場にいる全員がテーブルの前に立つ。

 テーブルの上には乱雑に置かれる紙束の下、一枚の巨大な地図が敷かれていた。

 みやこ... 烙夭らくようの全体地図だ。

 よく見れば各地に小さな駒も配置されている。

 恐らく味方と敵の戦力を示しているのだろう。


「あぁ言い忘れていた」


 皇帝がふと思い出したかのように口を開く。


「先程は口が滑ったが、『強龍』の戦死はまだ一部の者しか知らない極秘事項だ。ゆめ気をつけよ」

「そういうの大抵陛下から漏れるんですから、陛下が一番気をつけるべきじゃろ」

「黙れ」


 『強龍』の戦死が極秘扱いなのは当然だ。

 龍華帝国最強の男が負けたと軍全体に伝われば、士気に大きく影響を及ぼすのは目に見えてわかる。

 兵士の中には、『強龍』が何とかしてくれると信じ戦っている者も少なくないはずだ。

 故に極秘扱いなのだろう。


「最初に敵の主な戦力だが、まず亜人王。力が未知数ゆえ対策の立てようがない。紅忠、最高位の僧侶を付ける。死ななければ何をしようと構わん、殺す気でそこの兵士を鍛えろ」

「はいよ、陛下」


 紅忠は軽く頷いた。

 だがその軽い返事とは裏腹に、祐基の喉がごくりと鳴る。

 1日で亜人王と渡り合うほどの力をつける。

 当然生半可な訓練ではなく、今まで経験したことがないほどのキツイ訓練だとは祐基も覚悟していた。

 しかし、殺す気で...という言葉に背筋に冷たいものが走る。


 (一体どんな訓練を......)


「次に六荒王。ラージャンは不明、フォルネストは討伐。それと...『強龍』によってリベレルと魔道機人マギカロイドの指揮機が討ち倒されたのを、奴の部下が確認した」


 『リベレル』とは蛇蜻蟲ドブソンの女王にして、全ての蛇蜻蟲ドブソンを生み出した母体たる六荒王の一体。

 『振翅共鳴しんしきょうめい』という権能を習得しており、かなりの強敵であると祐基は聞いていた。

 

 そして同じく六荒王の1体、魔道機人マギカロイドの指揮機。

 通常の魔道機人マギカロイドと違い、高性能魔力路と多数の武装を搭載しているのが特徴的な亜人だ。

 あくまで現時点で魔道機人マギカロイドの指揮権を持つ機体なだけであり、やっとの思いで倒そうと1週間もすれば別の指揮機が現れる。

 魔道機人マギカロイドが作られているとされる荒野の工場を潰さぬ限り復活し続ける、これまた厄介な存在である。


 (そんな2体をたった1人で......)


 祐基は改めて『強龍』を、そしてそんな彼でも敵わなかった敵の強さを理解する。


「まぁ、あいつがタダでやられるはずがないとは思っておったが」

「流石『強龍』様ですね。魔道機人マギカロイドの指揮機はしばらく復活しませんし、これで残る六荒王は2体」

「ポリズンとクライケン・テロ・マーヤン.....」


 毒蠍人スコルピオンの女王...ポリズン。

 そして、鱗魚人リンギョジン地上侵攻軍総指揮官...クライケン・テロ・マーヤン。


「あぁ...そのことなんじゃが陛下」


 紅忠が手を上げた。


「なんだ」

「ポリズンはどうやら戦闘の意思はないらしいぞ。交渉次第じゃが上手くいけばこちらの戦力として取り込める可能性も...」

「将軍!?正気か!!」


 言葉を遮り、宰相が叫ぶ。


「亜人の言葉を信じるなど愚の骨頂だ!」

「私も同意見です」

 

 紫蓮も即座に賛同した。


「現に毒蠍人スコルピオンは現在もみやこを攻撃してきており、少なくない兵の命を奪っています。その言葉を信じる根拠など何もありません」

「よもや『強龍』将軍が戦死し怖気付いたのではあるまいな!」

「......誰が何じゃって?」


 紅忠の目に静かな怒りが宿ったのを祐基は感じた。

 空気はピンと張り詰め始め、宰相の言葉が止まる。


「結構面白そうな案だと私は思うな」


 そんな中、場の空気を切り裂くように師羽藺が笑みを浮かべて口を開いた。

 空気が読めていないのか、それとも壊したくて割り込んだのか。

 どちらにせよ常人では到底真似できぬ胆力だ。


「亜人王の強さが未知なら戦力は多く持っておいて損はないしね!祐基くんもそう思わないかい?」

「え、僕ですか.....」


 突然話を振られ、祐基は少し戸惑う。

 師羽藺のいう通り、戦力が多くて困ることはない。

 しかも、ポリズンをこちらに引き込めれば残る六荒王は1体。

 防衛を遥かにしやすくなるのは間違いない。


「僕は紅忠さんの考えに賛同です。上手く言えませんが.....ポリズンの言葉に嘘は感じませんでした」

「私も賛成です!」


 祐基に続き翠鳳も手と声を上げ賛同した。

 他は、紅蓮はどちらにも賛同しないのか特に反応を見せず沈黙している。

 烙夭らくよう防衛総司令官の男は険しい顔を浮かべ、悩んでいる様子だ。


「陛下...」


 自然と全員の視線が皇帝へ集まる。

 最終的に決定を下すのはこの国の頂点、曹王そうおうただ一人。

 皇帝はしばし目を瞑ると、決定を下した。


「奴から休戦...共闘の提案が出れば亜人王を倒すまでの間、手を組む。出なければ討伐対象だ、見つけ次第殺せ」

「「はっ」」


 その決定に誰も反対や意見を出す者はいなかった。

 皇帝のめいは絶対、皆黙って従うのみだ。


「ポリズンとクライケンに関しては、みやこへの侵入さえ防げれば、例の新兵器で対処は可能であろう」

「新兵器?」


 祐基が思わず反応する。


「あぁ、長城への配備が遅れたことが幸いした。敵の知らぬ“今後の時代の主力”となろう兵器だ。破壊力こそ今は回回砲に劣るが、いずれは遥かに超えるであろう」

「科学省で見たがあれは良い.... 長城への配備が待ち遠しい!あれがあれば兵の被害も大きく減るだろうね!」


 師羽藺が少し興奮気味に語った。

 一体どんな兵器なのか、祐基の脳裏に常識を遥かに超える巨大バリスタ台の絵が浮かぶ。

 

「クライケンと亜人王らしき者の姿は権香けんこうで確認している。偵察隊を権香けんこう周辺に展開しているが、今のところ敵に大きな動きはない。明日の早朝までは敵の心配は無しと見てよいだろう。だが警戒は怠らぬよう注意しろ」

「はっ!」


 そう烙夭らくよう防衛総司令官へ告げると皇帝はテーブルに敷かれた地図、みやこを囲う城壁の北部へ指を滑らせた。


「今の烙夭らくようの戦力は約10万....いずれ来るであろう亜人の総攻撃、総数は5万は超えると見た」

「リベレルが死んだことで数の多い蛇蜻蟲ドブソンの大部分が荒野に撤退したから、総数はこちらが上だね」

「あくまで希望的予測だ。気掛かりは鱗魚人の王....この絶好の機会に大規模な援軍を本国から出す可能性もある。そうなれば数は向こうが....いや、プライドの高い奴が亜人王と手を組むとは考えられんか....せいぜい10万といったところか」

「我々も増援を?」

「いらん。宰相」

「はっ」


 防衛総司令の問いを即答で切り捨て、皇帝は宰相へ目を向けた。

 宰相は1枚の紙を手に取り、目を通しながら静かに報告を始めた。


「先日の避難民への食糧配布により烙夭らくようの食料貯蔵は半分を既に切ったと報告がありました。さらに兵士を増やし、敵が兵糧攻めを仕掛けてくればそれで終わりです」

「ということだ。我らは現状の戦力で敵を迎え撃つ」


 そう言い終えると、皇帝はゆっくりと、この場にいる全員の顔を見渡しながら。


「ひとまずそんなところか。他に何かある者はいるか」

「あの...陛下」


 祐基は恐る恐る手を上げる。


「ん?なんだ」

「この雷衝動は自分が持っていても....?」


 祐基は背負っていた弓を手に取り、皇帝へ見せるように差し出した。


「構わん。それにその弓に触れれば朕、下手すれば死ぬやもしれんしな。亜人王を討ち倒した暁には正式に貴様にくれてやろう」

「....はっ!ありがとうございます!」

「かつて勇者の絵物語においてその弓を扱った初代皇帝は、嘘か真か魔王軍が幹部の1体を一撃で屠ったと記されている。貴様もその弓に選ばれた者であるなら、初代の顔に泥を塗らぬよう邁進せよ」

「はい!」


 祐基は力強く返答すると、雷衝動を握る手に自然と力が入った。

 この弓を持つ責任、初代皇帝の武器を託された意味。

 その重さを、祐基は改めて胸に刻むのだった。

 

「他には.......無さそうだな。では紅忠、連れて行け」

「おし、そんじゃ早速特訓といこうか、祐基」

「はい!よろしくお願いします、紅忠さん!」

「頑張ってね祐基くん!」


 紅忠がその場を離れ始め、祐基も急ぎその背を追う。

 翠鳳が大きく手を振り、その隣で紅蓮も小さく手を振ってくれたため、祐基もまた手を振り返しながら。


「では宰相、総司令....兵5000までを与える。避難民を張按ちょうあんまで無事輸送できるよう尽力せよ」

「「はっ」」

「師羽藺、もうじき敵の攻撃は終わる。烙夭らくよう城壁へ出向き、防衛箇所見直しの手助けしてやれ」

「はい、陛下」

「紫蓮、皇龍宮こうりゅうきゅうの警備を強化せよ。もし安置所に近づく者がいれば、誰であろうと迷わず討ち取れ」

「....?....はっ!」

「紅蓮.....あ〜...それと貴様も来い。この戦い終結後の話がある....」


 皇帝が背後で次々と指示を出す中、紅忠と祐基は大扉を抜け、正殿を後にした。


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