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龍華の英雄〜亜人戦記と弓を握りし臆病な少年〜  作者: オルレアンの人
最終章『龍華の英雄』

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最終話.ありがとう


 満天の星々が美しく彩る夜空を見渡せる会場の庭。

 祐基と紅蓮、そして翠鳳は会場から抜け出し、3人だけでこの場に集まっていた。

 唯一、祐基のみ酒の入ったグラスを片手に。


「お二人ともカッコよかったですよぉ〜!!!私、思わず泣き出しそうになっちゃいました!!」

「そうか?いや....そうだな。私も鼻が高い気分だ」


 そう言って紅蓮は祐基へ視線を向けた。

 祐基もそれに気付き、二人の視線が交わる。


「紅蓮隊長の方こそ『双刀』への就任、おめでとうございます!にしても驚きました.....まさか紅蓮隊長が『双刀』に任命されるなんて」

「そういえば祐基は知らなかったか。戦いの前、陛下からすでにそう言われていてな。まぁ....しばらく国内が不安定になる中、『強龍』将軍の穴埋めを兼ねての任命。私自身、まだまだ『双刀』を名乗れるほどの実力はないが、しっかり務めは果たすさ」


 その謙虚さの混じる言葉に思うところがあるも、祐基はその言葉を出さずに胸の内に仕舞い込む。

 まだまだ自分は、世界から見ればほんの少し強い程度の人間。

 現状の強さで満足できないのは紅蓮隊長も同じなのだろう。

 ならわざわざ否定する必要はない。

 そう祐基は思い、小さく頷き。


「.....紅蓮隊長の部下として、僕も精一杯頑張ります!」

「そうか....ところで、だ」


 突然紅蓮の優しい声色が、僅かに力の籠ったものへと変わった。

 

「祐基お前....亜人王と対峙した際、わざわざ声を掛けたらしいな......?」


 (あ....)


 その瞬間、祐基の脳裏に忘れかけていた記憶が勢いよく蘇る。

 亜人王を狙撃しようと、塔の頂上から見下ろした時の記憶。

 言い換えれば、亜人王を楽に倒せる絶好の機会を自ら捨てた瞬間の記憶。

 すっかり忘れていた己の過ちを思い出し、祐基は必死に言い訳を考え始める。


「あ....いやあの、あれはちょっと....僕的に深い理由が......」

「結果的に倒せたから良かったが、お前は己の欲を優先して亜人王を仕留め損なった。龍華兵の悪い癖をしっかり発現しやがって、全く」

「う....すいませんでした」


 祐基は頭を下げる。

 とてもじゃないが罪悪感から紅蓮の顔を見ることができず、ただ地面を見つめることしかできなかった。


「まぁ、今後はそういった事がないよう気を付けてくれよ.....『煌龍こうりゅう』」

「はい.....」


 授かったばかりの異名で釘を刺され、祐基の頭はさらに深く下がる。

 そんな二人のやり取りを横で見ていた翠鳳が不思議そうに首を傾げた。


「ところで....紅蓮さんの『赤龍』という異名もそうですけど、兵士さん達ってなんでみんな龍の二つ名を付けられてるんですか?」


 その質問に、紅蓮の目が少し大きく見開かれた。


「翠鳳お前、知らないのか?」

「はい?」

「多分だが....魔法学監でも習う事だと思うが......まぁいいか」

「?」


 覚えがないのか、翠鳳はキョトンと無邪気な顔を向けている。

 

「.....かつて、まだ魔王が存在した時代の話だ」


 紅蓮は静かに語り出す。

 

「その時代、日の国と龍華には神と語られる存在がいた」

「確か四獣と呼ばれている青龍、玄武、白虎、朱雀ですよね」


 龍華帝国の歴史書において、どの文献にもその存在が必ずと言っていいほど記されている四体の神獣。

 四獣の存在は龍華に住む人々にとって常識と言えるほど広く知られており、当然祐基もその存在は知っていた。


「ああ。中でも龍華の殆どは青龍の縄張りだったらしい。だが実は当時....この地にはもう一体、神と呼ばれる存在がいた」

「え?本当ですか?」


 初めて聞く話に、祐基は思わず聞き返した。

 

「その神の名は紅龍。魔王と手を組み、龍華に生きる人々を滅ぼそうとした龍だ」

「紅龍......!」

「へぇ〜初めて聞きました!」


 翠鳳の言葉に、祐基も心の中で頷く。

 そんな龍の存在もそれにまつわる話も、祐基は今まで一度として聞いたことも、ましてや文献でも見たことがなかった。

 

「そんな龍もいたんですね!」

「あまり語られる事のない存在だから、知らないのも無理はない。龍を信仰するこの国で唯一、忌むべき存在として伝えられている龍だからな」

「それで、その紅龍と兵士さんの異名にどんな関係があるんですか?」

「.....紅龍は魔王に与し、魔族の側として人類に牙を剥いた。だが青龍は人類の側に立ち、ここに龍華の歴史上最大の戦い、神龍大戦が勃発した」

「神龍大戦......!!」


 その名称だけで、どれほどの凄まじい戦いであったのかは想像に難く無い。

 祐基は固唾を飲み、紅蓮の話を聞き入った。


「紅龍は相手の放った魔力等のエネルギーを吸い取り、自身のエネルギーとして放つ権能を持っていた。その権能を前に青龍は苦戦。だがそこに初代皇帝が加わり、2ヶ月間に渡る壮絶な戦いの末、紅龍の死によって神龍大戦は終結した」


 一言も喋らず、翠鳳は何度も首を縦に振りながら紅蓮の話を聞く。


「それ以来、青龍はいよいよ龍華の人々にとっては絶対なる神の存在となり、以降この国では本格的な龍の信仰が始まった。『そんな青龍のように国や人々を守る龍となれ』......そういった意味を込めての“龍の名”だ」


 紅蓮が語り終えると、翠鳳は感銘を受けたかのように拍手をし始めた。

 

「そんな歴史があったんですね.....!納得しました!」

「だから祐基....いや『煌龍こうりゅう』」

「!」


 自分の名前ではなく異名で呼ばれたことに、祐基は若干驚く。

 だが即座にその名で呼ばれた意味を感じ取り、返事をするように姿勢を正して紅蓮を見つめた。


「その名を授かった意味....決して忘れるんじゃないぞ?」

「はい!!」


 祐基はそれに対し、紅蓮の瞳を真っ直ぐに見つめながら力強く答えた。


「ふっ....それじゃあそろそろ中に戻るぞ。主役がいつまでも弔いをしているわけにもいかない」

「ですね!さ!祐基くん!」


 話し終えた2人は、再び会場へ戻ろうとする。


「はい!じゃあ最後に.....」

 

 祐基は手に持つグラスを見つめ、次に夜空を見上げる。

 そして、酒を空へと撒いた。

 無数の滴は星明かりを受けキラキラと輝き、やがて吸い込まれるように夜の闇へと消えていく。


 (兄貴.....それじゃあ、行くね)


 屈釖と過ごした日々を、その声を。

 いつも自分を励ましてくれた、あの笑顔を思い浮かべながら。


 (また改めて、お墓は僕らの故郷に作るから.....もうちょっとだけ待ってて)


 祐基は空になったグラスを握り締めたまま夜空を見上げ続ける。

 悲しさが混じりながらも、安穏な気持ちで。

 

 (ただ....しばらくの別れの前に、これだけは言っておくね)



 今まで、僕を支えてくれて.....。




 ありがとう。


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