100.勲章授与式
「紅蓮さん....私、本当にいつも通りの格好でいいんですか....?」
翠鳳は体をもじもじと動かし、どこか恥ずかしそうに紅蓮へ尋ねた。
「ん、翠鳳も初めてか?私たち兵士にとっては普段の兵装が正装。むしろ兵士でありながらそれを着ないほうが無礼として受け取られる。僧侶もまた然りだ」
龍華帝国には古くからそのような慣習があった。
もし式典の最中に戦が起これば、兵装でない兵士は即座に戦えない。
すなわちそれは、『兵士でありながら常日頃から戦う覚悟ができていない』と見なされてしまうのだ。
そして僧侶の僧衣に関しても、一握りの才能を持つ者だけが着ることを許された特別な衣服のため正装として認められている。
尚、この事は翠鳳が通っていた学校、その1年の時点で習っているはずの事だ。
「へ〜知りませんでした!完全に初耳です!」
「そうか。祐基、お前は...なんだ.....その...似合ってるぞ」
そう穏やかに微笑む視線を受け、祐基は照れくさそうに笑みを浮かべ。
「ありがとうございます!紅蓮隊長にそういってもらえると嬉しいです....!」
祐基が身に着けているのは軍服ではない、普段着ている自身の漢服だ。
赤と緑を基調とした、軽やかで身軽に動ける衣服である。
「祐基くんも軍服卒業ですか。高速出世ってやつですね!」
「ただ服装が自由になっただけですよ。やっぱ軍服より普段から着てる服の方が動きやすくて良いですね〜」
「だが、それはつまりお前の顔が国中に知れ渡ったという事だ。兵士である証明をせずとも伝わるほどにな。今後は一つ一つの言動に、これまで以上に気を配れ。常に自分は龍華兵を代表する1人なのだと意識して行動しろ」
「はい!」
そんな話をしていると、部屋の扉がコンコンと叩かれた。
「失礼します」と扉は開き、外から1人の男が入室してくる。
「紅蓮様、祐基様。準備の方整いましたので、どうぞ会場へ...」
「あ!もうそんな時間でしたか!じゃあ私は一足先に会場に向かってます!お二人とも!頑張って.....って言うのは違うかな...?まぁいいや!頑張ってくださいね!」
そう言い残し、翠鳳は男と共に部屋を後にした。
部屋には祐基と紅蓮だけが残る。
だがすぐに2人も鏡の前で身なりを軽く整えると、扉を開けて廊下に出た。
並んで歩き始めて1分も経たぬうちにその足は、衛兵の並ぶ豪華な装飾が施された少し大きい両開きの扉の前で止まった。
「緊張してるか?」
周りの兵士に聞こえない小さな声で、紅蓮は祐基に声をかける。
「そりゃしますよ....」
紅蓮の問いに、祐基は苦笑いを浮かべながら小さく震える声で答えた。
「逆に紅蓮隊長はよくしませんね」
「私は一度経験があるからな。こんな豪華な場ではなく長城での小さな式ではあったが」
そう紅蓮は言うと、軽く祐基の肩を叩く。
「そんなに身構えるほどのものじゃない。案外一瞬で終わる。むしろ緊張し過ぎて失礼を働いてしまうような、そんなことはないよう気を付けてくれよ」
「は...はい....!」
この扉の先に待つもの。
それを想像するだけで祐基の心臓は大きく鼓動する。
紅蓮の言葉で多少緊張は和らいだが、震えはまだ完全には収まらなかった。
「!」
その時、目の前の両扉がわずかに開き、隙間から1人の兵士が顔を覗かせる。
「紅蓮様、祐基様。間も無くお呼びしますので今一度身なりを整えお待ちを」
祐基は深く深呼吸をし、心中で頬を叩く。
(よし....!平常心平常心....!頑張れ僕....!)
その様子を見て、紅蓮は小さく笑みをこぼす。
そして2人が姿勢を正して待機していると、両扉はゆっくりと開き始めた。
同時に、中から聞こえてきたのは夥しい拍手の音。
扉が完全に開き切ると、祐基と紅蓮は互いに目を合わせることなく一歩を踏み出し、そのまま堂々と会場に足を踏み入れた。
◆
亜人王討伐より10日後。
都にて、亜人王を討ち取った祐基、そして紅蓮への勲章授与式が執り行われた。
会場には龍華軍上層部をはじめ、多くの官僚が列席し、さらに海外各国から招かれた客人達の姿もある。
(日の国が“六道”....『畜生道』前田左乃又.....)
会場中央の道を歩く紅蓮と祐基。
まず最初に紅蓮の目に留まったのは、眼鏡越しにこちらを見つめながら拍手を送る少女...沖田の姿。
そしてその隣に立つ若き男。
日の国の甲冑を身に纏い、額には赤い鉢巻き。
周りの誰よりも一際拍手の音が大きく、喋ってもいないのに暑苦しさをなんとなく感じる面構え。
あの男こそ、日の国の女王によって選ばれた6名の国家最強戦力....“六道”。
その1人、前田左乃又である。
(それに....西の大陸からは、ヴァルノワ帝国の誇る五天剣の1人、オウデン・タミツヨ.....。ローグ王国からは円卓の騎士・第四席ウィリアム・マルシャールか.......)
どれもこれもただならぬ強者。
もしここにいる者達が結束すれば国の一つ簡単に落とせてしまえる戦力が集結している。
これらを一筆で集めることができる皇帝の力に、改めて紅蓮は感服した。
(祐基は.....まぁ大丈夫か。翠鳳と違ってその辺りは信用できる。私は私自身、万が一でも粗相のないよう気を引き締めておかねば)
大勢の視線を浴びながら歩みを進めると、師羽藺、紫蓮、紅忠、そして彼らと共にいる翠鳳の姿も見えた。
4人とも笑みを浮かべ、惜しみない拍手を送っている。
その中でも翠鳳は誰よりも満面の笑みを浮かべ、今にも跳びはねそうな勢いで拍手をしていた。
やがて、道は終わる。
2人は膝をつき、敬礼の挙手を行う。
目の前に立つ皇帝に頭を垂れて。
「ではこれより、勲章授与式を執り行う」
皇帝の一声は祝福の音を止ませ、隣に控えていた御付きの僧侶である聖玉が一歩前に出た。
その両手には薄く小さい薄い箱が一つ。
箱の中には勲章の付いた二つのペンダントが収められている。
聖玉はそれを皇帝へ差し出す姿勢をとると、皇帝はその中から一つを手に取った。
「フォルネスト、魔道機人の指揮機を討ち沈めたその至高にして卓越なる武の腕。『赤龍』の名に恥じぬ無双の兵士よ」
皇帝は紅蓮の前に立ち、勲章をその首へかけ。
「ここに、新たな『双刀』として其方の名を刻む」
「はっ!」
その瞬間、会場は再び盛大な拍手に包まれた。
世界最強と称され、世界一の兵士数を誇る龍華帝国軍においてたったの2名。
龍華最強の座に新たな兵士が座ったのだ。
その反応も当然である。
だが、皇帝の腕が僅かに動くと、その音は再び静まり返った。
皇帝は箱から残る一つの勲章を取り出すと、今度は祐基の前へと歩く。
「亜人王を見事討ち果たしたその実力、国を守り抜いた至高なる英傑の兵士よ」
そして、同様に勲章が祐基の首へかけられる。
(見てるか、屈釖。お前の信じた祐基は.....)
「かつて存在した兵士...雷龍を超えた名....ここに、『煌龍』の名を与える」
(誰よりも立派な.....兵士になったぞ)
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ご愛読いただきありがとうございます!!
長らく続いた龍華の英雄も、残る1話とエピローグを持ってついに完結....!
まだまだ謎の多い今作ですが、それらは彼らだけではない....この世界で新たに始まる、ある男の物語にて......!
次回の投稿ですが、より完成度を上げたいため来週の土曜日と日曜日にて投稿予定です!
どうか最後まで彼らの物語にお付き合いお願いいたします!




