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龍華の英雄〜亜人戦記と弓を握りし臆病な少年〜  作者: オルレアンの人
最終章『龍華の英雄』

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99.覚悟がいる


「あ!みなさん!!亜人王討伐お疲れ様です!!」

「翠鳳か!それに祐基に紅蓮も!」


 気を失った祐基を背負い、紅蓮に肩を貸しながら歩いていた翠鳳は、紅忠の姿を見つけるや大きく手を振った。

 紅忠もまた、同じように腕を振って返す。


「すまないな翠鳳、もう大丈夫だ」

「本当ですか?まだ無理して動かない方が....」

「お前の回復魔法のおかげで足の骨は治った、頑張れば1人で歩けるさ」


 そう言って紅蓮は翠鳳から離れ、1人で歩き始める。

 <ヒール>は傷を癒す魔法ではあるが決して万能ではない。

 この魔法の正確な内容は、術者の魔力で対象者の治癒力を活性化させるというものだ。

 当然治癒力には限界があり、先の戦いで魔道機人マギカロイドの指揮機によって穿たれた胸の穴、粉砕した骨を治すのに、紅蓮は自身の治癒力の大半を使い切っていた。

 そのため現在の紅蓮は、亜人王との戦いで新たに折れた、ヒビの入った骨や生じた傷全てを治すことはできず、なんとか動けはするが.....といった状態となっている。

 

「普通あそこからあんな勢いよく叩き落とされたら全身の骨ぐちゃぐちゃになってますよ.....頑丈ですよね紅蓮さん」

「鍛えているからな」


 だが蓄積された疲労とダメージがまだ体に残っている事が、その一歩一歩と重い歩みから伝わってくる。


「紅蓮さん!?あ、いえ...ご無事で何よりです....!」


 紅蓮の姿を見た沖田は目を丸くした。

 その表情には、なんであの攻撃で生きてんの....という驚きが出ている。

 何とも思考が表情に出やすい女だ。


「沖田...だったな。あの並大抵の者では真似できぬ凄まじい技....助かった。機会があれば是非ともその技術、学ばせていただきたい」

「...!ありがとうございます。はい、機会があれば是非!」


 笑みを交わし、次に紅蓮の視線はその後ろへ移る。


「.....ポリズン」


 紅蓮がこの場に現れてから一切隠そうともせず殺気を放ち続ける亜人、ポリズン。

 ただジッと、紅蓮を黙って見つめている。


「紅蓮さん。ポリズンさんとは陛下の取り決めで一時休戦中です。民に手出ししない限りは、荒野へ撤退するまで互いに攻撃を禁じると....既に城壁の方でも戦闘は終結しています」


 沖田がポツリと告げる。

 だがその言葉がとても信じられないほど、ポリズンの殺気が紅蓮には伝わってきていた。

 一歩踏み出せば再び戦いが始まりかねない、そんな殺気をを。


「そうか....ポリズン、よく撤退を選んでくれた。それと....亜人王の攻撃から私を守ってくれた事...感謝する」

「勘違イスルナ。亜人王ヲ倒スタメ仕方ナクダ.....ソレニ、何故オ前ガ助カッタト思ッテイル?」


 瞬間、ポリズンは刺棘杖しとつじょうを紅蓮の首を刎ねるかの勢いで振った。

 だが刺棘杖しとつじょうは、首に当たるスレスレでピタリと止まる。


「紅蓮さん!?」


 ポリズンの予想外の行動に翠鳳が叫び、沖田は咄嗟に刀を抜こうと柄に手をかけた。


「コノ戦イノ決着ガドウアレ、オ前ダケハ殺スト決メテイタ。愛シキ子供達ヲ惨殺シタ罪、ココデ償エ....」


 現状、この場にポリズンに勝てる者はいない。

 紅忠と紅蓮は満足に戦える状態ではなく、沖田も紅蓮の見立てではポリズンには敵わない。

 対してポリズンは怪我一つなく、兵士が束になったところで勝てる可能性は0。

 完全に紅蓮の命運は今、ポリズンに握られている状況だ。


 だが黙って殺られる気は当然ない。

 紅蓮は背負っている偃月刀をそっと握り、戦う覚悟を決める。


「.....ケド」


 だが突如、ポリズンが視線を紅蓮から外すと彼女の纏う殺気は薄くなった。


「オ前ヲ殺セバ...アノ坊ヤガ黙ッテナイデショウネ」


 その視線の先にいたのは、瓦礫にもたれかかる姿勢で倒れる祐基。

 すると、刺棘杖しとつじょうはゆっくりと紅蓮から離れていく。

 

「ラージャン...フォルネスト...亜人王。アノ坊ヤヲ敵ニ回スノハ、女王トシテ覚悟ヲ決メル必要ガアル」


 ただならぬ気迫の籠る言葉。

 目付きが強敵を前にした者のそれだった。


「ダカラ今回ハ見逃シテアゲル。ケド、貴方ハイズレ必ズ殺ス。セイゼイ毒薬ヲ常備シテオクコトネ」

「.....あぁ、いつでも受けて立つ。過去のことを今さら謝る気もない。やりすぎた....というのは感じてはいるが」

「フン」


 ポリズンが背を向け歩き出す。

 するとそこへ、毒蠍人スコルピオン達が2台の台車を押しながら駆け寄ってくる。

 荷台には高価な皇族用の衣服が山のように積まれていた。


「ママ〜!!言われた通りいっぱい取って来たよ!!人間たち本当に何にもしてこないからこんなに沢山!!」

「マァ...アリガトネ子供達。帰ッタラ沢山ゴ褒美シテアゲル」

「「「やった〜〜〜!!!!」」」


 毒蠍人スコルピオン達は跳びはねながら歓声を上げる。


「ちゃっかりしてるな.....」


 その様子を眺めながら、紅蓮は思わず小さくため息を漏らした。


 

 その後、ポリズン等亜人達は皇帝の使者と共に荒野へ発ち、みやこから亜人の姿は完全に消えた。

 城壁を超えみやこに侵入してきた亜人達による被害は比較的軽微で済み、亜人王による宮殿外への破壊も奇跡的に住宅街を避けたため、民間人への被害はごく僅かで済んだ。

 

 しかし、占拠され荒らされた都市や破壊された長城。

 膨大な数の兵士の戦死者に、毒蠍人スコルピオンによって殆どが破壊、あるいは破損した黒龍砲こくりゅうほう

 龍華帝国が受けた歴史的被害はあまりに大きく、しばし国の復興に時間を要することとなる。


 特に、経済の中心地である張按ちょうあんが一時的に占拠されたことは国家経済に甚大な打撃を与え、戦火を免れた都市にもその影響はやがて広がっていくだろう。

 国内の治安を守り続けてきた兵士の数の激減も、治安の面でしばらく民の不安の種となることは確かだ。

 

 これらと荒野に撤退した亜人、鱗魚人リンギョジン本国の動きも警戒する必要があり、しばし龍華帝国に安息は訪れないであろう。

 皇龍宮こうりゅうきゅうから時より、皇帝の叫び声がみやこに轟く日々が続く。

 

 

「......あ、もしもし?うん、僕だよ」


「そっかそっか、回収した十五大魔王具じゅうごだいまおうぐ...しっかり本物だったんだ、それは良かった。冥友めいゆうの喜ぶ顔が見えるよ」


「え、亜人王はどうなったって?死んだよ....可哀想に、亜人にも裏切られてフルボッコだったよ」


「ん...死体の回収?ハハハ、無理でしょ。僕の権能で回収しようにも、あの大きさじゃ少し時間かかるし。それに亜人王の周りにヤバそうなの沢山いたから、もし僕が突っ込んでいったら死んじゃうよ」


「....ハハ、嫌だよ。僕の魂は純粋でいたいんだから。君とは違うんだよ」


「うん、冥友めいゆうには君から謝っといて。これから僕、またアメリア王国に遊びに行ってくるから」


「...ハイハイ。あ....それと『強龍きょうりゅう』の死体だけど、宮殿の安置所にもなかったよ。あの皇帝さん、多分冥友(めいゆう)の存在に気付いて隠したっぽいね。だから僕のミスじゃないよ〜」


「うん、よろしくね。..........え?偃月刀を持った若い女の兵士?あ〜いたね、それがどうしたの?」


「確かに紅蓮って呼ばれてたね。何?知り合い?」


「....へ〜、それは面白い。是非とも次は君が会うといいよ。彼女もとても喜ぶと思うから」


「うん、じゃ....次の回収任務でね」


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