トキヤ~異世界㊱話し合い~
「あぁ。刺客が人数をかけてきた場合、俺一人で対処できなくなるかもしれない。お互いにフォローし合って、誰一人死ぬことのないようにしてくれ。」
俺はそう締めくくった。
いざとなればルー○的な魔法で逃げられるのだが、それは本当に最後の手段だ。
逃げることを考えてしまうと、自分の中で覚悟が鈍ってしまう気がする。それに、どんな力を持ったやつが現れるか分からない。もしかしたら、魔法を封じる能力なんてのもあるかもしれないのだ。
魔法を封じられては、逃げる事さえ一苦労だろう。
『まぁ、そうならないようにはするけど、アニメみたいに上手くいくばかりじゃないからな。』
その後、小さい馬車を借りて街を出た俺たちは順調な旅を続けていた。
戦闘に関してだが、初めこそお互いの動きが分からず、ぎこちない場面も見られたが、戦闘回数を重ねていくうちに、そのぎこちなさも解消されていった。
そうこうしているうちに、1日目の終わりを告げる宿場町が見えてきた。
「今日はここで宿をとるわ。もう少し進んでもいいけど、襲われる危険なんかを考えると、あまり無理しない方がいいと思うのよね。」
リーシュの言う通りだ。野宿の場合、遠距離から爆撃されたらひとたまりもない。
人の迷惑を顧みない奴が出張ってきたのなら街中でも関係ないだろうが、野宿で受ける奇襲にくらべれば、その可能性はぐっと下がるはずだ。
あと、慣れない馬車の操縦で俺は精神的にクタクタだった。
俺以外の3人がいとも簡単に馬を操っていたので、俺にも出来そうだと高を括っていたのだが、やはり無理だった。
恥を忍んで3人に教えてもらい、なんとか形になってきたのだ。
『まぁ、どんな状況であれ、対魔法用の結界を張るつもりだったから関係ないんだけどな。』
俺が厩に馬を繋ぎながら考えていると、リンドウがおずおずと尋ねてきた。
「あ、あの……バラバラになると守りにくいので、出来れば全員同じ部屋にしていただけませんか?」
『なぬ!?』
嬉しいんだか悲しいんだか分からない提案がとんできた。
俺たちを見張る視線を感じない今こそ、リーシュとイチャつく絶好の機会なのだという考えをリンドウに見透かされたのだろうか。
リーシュが顔を赤くして俯いてしまい、ミューは笑顔で俺たちを見ていた。
どうやら、二人とも事前に知っていたようだ。
しかし、リーシュが良いなら俺が反対する理由などあるわけがない。
もしかすると、俺が期待する以上のラッキースケベに出逢えるかもしれないのだ。
「俺は男だから決められないよ。みんながそれでいいって言うなら、俺に異存はないよ。」
「鼻の下が伸びてるわよ。」
リーシュの鋭いツッコミが入る。あくまで紳士的に答えたつもりなのだが、どうやら俺の努力は無意味なものだったようだ。
「構わないんですか?トキヤさんとリーシュさんはその……ご夫婦の営みがあるのではないかと……。」
「二人が居てもする!」
右拳を力強く握りながら発言した瞬間、腹に鈍い痛みを感じた。
「バカァー!!」
リーシュの言葉とともに、俺は大きく吹き飛ばされた。間違いなく会心判定だ。油断していたせいもあり、障壁無しの生身にクリティカルをもらってしまった。
「ぶふぁ!」
「ト、トキヤさーん!!」
体をくの字に曲げながら吹き飛ぶ俺に続くように、ミューとリンドウが俺の名を呼んだ。
俺はそのまま数メートル先まで吹き飛ばされてしまった。
HPが半分くらい消し飛んだかと思わせるほどの威力だ。
「な、何言ってんのよ!み、みんなの前でなんかするわけないでしょ!つまんないこと言ってると、ぶっ飛ばすわよ!」
『もうぶっ飛ばしてる』
一連のやりとりを見ていた野次馬どもの心が一つになったことは言うまでもあるまい。
その後、こっそりと自分に回復魔法を施し、何事も無かったかのように立ち上がった俺は、心配そうに見つめるミューとリンドウに笑顔で無事をアピールして宿へと向かった。
「ミューは後衛というか、補助専門なのか?」
風呂も食事も終えた俺たちは、部屋で作戦会議を行なっていた。
全員で同じ部屋ということで、4ベッドルームを希望したのだが、そんな部屋が都合よくあるわけもなく、一番広い部屋に追加料金を支払ってベッドを運び入れてもらった。
「俺は別にリーシュと同じベッドで良いけど……」
追加料金うんぬんの時、俺がそう呟くと、リーシュの拳から黒いオーラが流れ出したので、リーシュと同じベッドで眠るという野望は潰えたのだった。
そんな事を思い出していると、ミューが質問の答えを話し出したので、意識をミューの話に集中する。
「攻撃魔法も少しなら使えますが、補助魔法の方が得意ですね。獣人の特性上、魔法を操るのはあまり得意ではなく、物理攻撃に特化した方が強いので、私はそのサポートが出来ればと思って修行してきました。」
「ミューは近接戦闘はしないの?」
リーシュの疑問はもっともだ。
元々、魔法特性がないのであれば、物理を極めていく方が強くなれそうだ。
「えっと……私は、一応獣人の姫ですので、訓練でも前線に出る機会が全く無くてですね、それでその、戦闘経験がほぼ無いのです。後方支援でも後方の後方と言いますか……。」
なるほど。確かにクイーンを何も考えずに前線に置く馬鹿はいない。
チェスゲームなら、万能の駒として前線で使うこともあるだろう。仮に失ったとしても、それはあくまでゲームの中であって、実際に命を取られるわけではない。
しかし猫耳族にとってミューは絶対に失ってはならない駒だ。
奪われるということは、ミューだけではなく種族の死をも意味する。それが分かっていて、おいそれと前線に出すわけがない。
「なるほどな。じゃあ、ミューには中衛を頼もうかな。」
「後衛ではないのですか?」
リーシュとリンドウも俺の意見に疑問を抱いているようだ。ミューと同じことを思っているのだろう。
「いいか?俺たちが明日警戒しなきゃならないのはギガントオークなんかじゃない。ミューを狙う刺客たちだ。確かに、話を聞く限りミューは後衛だ。敵がギガントオークだけなら後衛に配置した方がいいだろう。けど、ここにいる全員がそう思ったってことは、当然敵さんもそう思うだろ?」
「あっ……」
そこまで話をして、リンドウが気付いたようだ。
「リンドウは気付いたか?敵からすれば、『ミューは後衛につく。そこを狙う』って寸法だ。だがミューを中衛に配置すれば、後衛が壁になってくれるだろ?」
「し、しかし、誰が後衛に?リンドウは前衛ですし、リーシュさんを後衛に配置するのはもったいないです。」
ミューがリーシュを前衛に推すのは、俺への攻撃を見たからだろう。
確かに、あれだけの攻撃力を持っているなら、前衛以外に選択肢はあるまい。




