トキヤ~異世界㉝勇者敗れる~
これにはかなりビビってしまった。昔からホラーは苦手な部類なのだ。恐怖で一歩引いてしまったことが悪手となってしまった。
「うわっ!」
すぐ真後ろのもう1人に気が付いた時、俺はすでに首を掴まれ、さらに後方に引き倒されていた。
「くっそ!」
ここから追撃がくることは分かっていた。むしろ、ここで追撃しなければ引き倒した意味がない。
相手としてもこの瞬間は、最大の攻撃チャンスなのだ。
そう思った俺は、咄嗟により強力な魔力強化を全身に漲らせた。
次の瞬間。俺の背中が冷たい屋根の感触を感じた。
『来るか!?』
追撃を受ける覚悟を決めて、両手を胸の前で交差させる。しかし、一向に攻撃が来る様子はない。
「ちっ!」
慌てて立ち上がると、上空からとんでもない魔力を感じた俺は、思わず顔を上げた。
「おいおい。飛べんのかよ……」
見上げた先で、2人の女の子がそれぞれ両手を広げ、前にかざしながら浮かんでいた。
それを見上げる形になった俺は、相手がスカートではないことを残念に思いながらも、じっと相手の顔を見る。
「双子か?」
そう呟いた瞬間、2人がかざしたそれぞれの手に、割と大きめの魔力弾が形成された。
籠められた魔力、それを具現化した魔力弾、そこから予想される威力。
どれをとっても一流と呼べるレベルだ。
まぁ。素人の見立てなので、過大評価になっているかもしれないが、そうだとしても、この程度の魔力弾が『2発』ならば、何の問題もない。
なんとか凌いでから、相手をぶちのめしてそれで終了だ。
「魔力障壁を張れば……まぁ、ぶっつけ本番だけど大丈夫だろ。」
魔力スキャンの応用で、2人の魔力弾を受ける部分にだけ魔力を集中させる。そして、魔力弾を受けた瞬間に、その場所に追加で魔力を流し込んで、明後日の方向へ『流す』ことができれば、俺の後ろにいる大勢がケガをせずに済むはずだ。
そう考えた俺は、より強固な障壁のイメージを構築する。
イメージとしては、某ロボットアニメのA〇フィールドだ。
「でも、確かあれってバリアじゃなくて『拒絶』なんだよな……まぁ、イメージだけだから大丈夫か。」
守るだけなら、人造人間〇号とかが使っているもので十分なのだが、今回に限っては、部分的に展開して魔力弾を『流す』ことが重要なのだ。
「よし。イメージはできた。いつでも展開可って……え?」
いざ障壁を展開しようとした矢先、空中に浮かぶ2人によって作られていた魔力弾が、なにやら妙な動きを始めた。
「な、なんだ?って、おいおい。まさか……一つにするとか言わねーだろーな。」
俺の予想は見事に的中。2人が空中で両手を繋いだと思ったら、その動きに合わせて魔力弾が合体してしまった。
出来上がった魔力弾は、先ほどまでとは比べものにならないほどに大きくなっており、威力も倍どころの騒ぎではないだろう。
『避ける……のは論外か。受けきれ……そうにないな。まったくもってとんでもない技だな。』
心の中で悪態をつきながら、受け攻めいくつかパターンを思い描いてみたが、あの魔力弾の前ではどれも成功しそうにない。
「くそ!犠牲者には悪いけど、ミューとリンドウだけ抱えて逃げるなら出来そうだ!」
俺は思考を切り替えて、敵に背を向け、ミューとリンドウのもとへと向かおうとしたその瞬間。
ビリッ!
俺の体を電流が駆け抜けたかのような衝撃が襲った。
「あがっ!」
だが不思議と痛みは残っていない。体も問題なく動く。
あれほどの衝撃が体を駆け抜けたのにだ。
さらに、その衝撃は、俺にその場から撤退することを許さなかった。
「なっ!」
正確に言うと、その場から離脱しようとすると、意思とは関係なく体が動かなくなり、さきほどの衝撃に襲われたのだ。
要するに、逃げることが出来なくなったのである。
これによって経過した時間は短いものだったが、魔力弾は確実に完成に近づいていた。
今さら逃げたところで、魔力弾に追いつかれてしまうだろう。
「ちきしょー!勇者は逃げられないってか!」
適当に言葉にしてみたが、案外的外れな答えでもないと思ってしまった。犠牲者を出すような逃亡は認められないということなのだろう。
「こうなったら、俺も空を飛んで……じゃないな。狙いは俺じゃないかもしれないんだ。ミューたちを狙われたら笑えねーな!くそ!」
そうこうしているうちに、魔力弾が完成してしまった。
2人の手から特大の魔力弾が放たれる。
超絶特大の威力を通り越して、極大の威力くらいありそうだ。
「にゃろう!!」
俺は迷わず魔力弾に突っ込んだ。
魔力強化を最大限に施して、自らの体を弾丸に見立てたイチかバチかの策だ。俺が勝てば、魔力弾は彼方へと飛んでいくだろう。しかし、俺が負けるようなことがあれば、魔力弾に飲み込まれ、ミューもリンドウも消え去ってしまうだろう。
ドガァン!
俺と魔力弾とがぶつかい合う。
『がっ!とんでもない威力だな!』
限界まで魔力で強化しているにも関わらず、俺が押されてしまっている。このままではジリ貧だ。
「こんちきしょー!」
気勢を発してみたものの、状況は何も変わらない。界〇拳なんかが使えれば、身体中の力を何倍にも出来るのにとも思ったが、そう都合よく必殺技が生まれるわけでもない。
「やべっ!」
魔力と体力を使い果たしたせいか、身体中の力が抜けていく。
「こんなところで……」
俺は目の前の強烈な力の塊に飲み込まれることを覚悟した。
ドガァン!
ドガァン!
「「!!」」
刺客の放った魔力弾が、斜め下から2つの衝撃を受けて、別の方向へと流されていったのを俺は見た。
「くっ……」
その瞬間、俺の魔力強化が解け、地面に真っ逆さまに落下していった。
「「ト、トキヤさん!」」
ミューとリンドウの心配そうな声が聞こえる。
踏ん張らなければならないのだが、体に力が入らない。
「よう。なかなか派手に暴れてんじゃねーかよ。」
「だ、誰だ……?」
落下中にも関わらず、俺は聞き覚えのある声を耳にしたと同時に、落下が強制的に止められたような衝撃を受けた。
「うっ……」
俺は犬や猫を掴むかのように、首根っこを掴まれたまま空中に垂れ下がっていた。
「レ、レイガー……さん?」
おそるおそる目を開けると、目の前にはギルド長であるレイガーの姿があった。
「ふん!」
近くの屋根に投げられた俺は、痛みを我慢してレイガーの姿を見上げる。
「だから言ったろ?出し惜しみすんなって。お前が最初から本気で戦っていれば、こんな面倒なことにはならなかったはずだ。違うか?」
その言葉を聞き、ぐうの音も出なかった。
確かに、2人を見た瞬間に全力で攻撃を加えていれば、間違いなく1人は戦闘不能にできたはずだ。
1人でも倒せていれば、ここまで劣勢になるなんてことはなかっただろう。なんてことはない。この状況を招いたのは自分の甘さであり、驕りが原因なのだ。そして、そのせいで、たくさんの人を犠牲にするところだった。
「す、すみません……。」
消え入りそうな声ではあったが、俺は心から反省し、謝罪の言葉を発した。
「あっはっは!エルア!面白いもんが見れるぞ!こいつ謝ってやがる!」
「え……?」
レイガーの言葉は、慰めをくれるのではないかと予想した俺の考えとはまるで違うものだった。
「あなたは冒険者失格……いえ、冒険者ですらありません。その程度で謝罪するような覚悟ならば、どこか遠くの地で、畑でも耕していなさい。」
いつの間にか、俺の横にはエルアさんが立っていた。エルアさんの厳しい言葉は、今の俺にはかなり堪える。
「さてと、こいつの説教は後回しにして、あいつらは何者だ?あんな威力の魔力弾は見たことねーぞ。」
「分かりませんね。あの2人の固有スキルなのかもしれません。ランク的にはA……いや、Bの上位といったところでしょう。隠しネタがあの魔力弾だけだとすれば、それほど怖くはないかと。」
冷静に分析していくエルアさん。
確かにその通りだ。俺も同じような見立てだったのだ。
「こらトキヤ。反省だけなら猿でも出来んだよ。お前、回復なんかも使えるんだろ?とっとと回復して手伝えや。でないと、下にいる嬢ちゃんたち、次は死ぬぞ?」
その言葉に、胸の奥がカッと熱くなった気がした。
『死ぬ?自分のせいで?ダメだ!2人は……俺が守るんだ!』




