トキヤ~異世界㉛感じる視線~
「ちょっ!それ、どうしたのよ!」
宿に戻った時のリーシュのリアクションは、まさに俺の予想通りのものだった。
知り合いが突然人を担いで戻ってきたらそうなるわな。
「ミューとリンドウを狙ってた刺客だよ。2人逃しちまった。こいつ任せていいか?まだ暫くは起きないと思うけど、念のために拘束しておいてくれ。俺はミューとリンドウの様子を見に戻る。」
「ちょっと!こいつを助けに乗り込んでこられたらどうするのよ!」
その可能性があることに気づかなかったな。しかし、困ったことになった。
開き直ってミューとリンドウのところに行く可能性もあるし、仲間を取り戻しに来る可能性もゼロではないときた。
しかもあれこれと考えている時間もないときた。
「なるほど。それは考えなかったな。じゃあ連れて行くわ。悪いけど、縛るものとかないか?」
邪魔で仕方ないが、一緒に連れていくことにした。
両手両足を縛られ、さらに目隠しと猿轡までされた資格を担ぎ、俺はミューとリンドウと別れた場所へと向かった。
「しっかし、こいついつまで寝てんだ……。」
そんなに強烈な攻撃だったかなと思いながら屋根を伝っていると、どこからかこちらを監視しているような視線に気が付いた。
この視線には少なからず覚えがある。
例の刺客だ。
ミューとリンドウの方には行かず、仲間を取り戻すことを優先したのだろう。プロとしては失格だが、人としては合格だ。
俺はその場で立ち止まり相手が仕掛けてくるのを待ってみたが、やはり仕掛けてくる様子はない。
「まぁ、明らかに臨戦態勢だからな。しかしなんだな。膠着状態ってのは勘弁してほしいんだけど。あ、そうだ。あれやってみるか。」
俺はいまだ意識の戻っていない資格を屋根の上に置いて、体を覆っている魔力を円型に拡げてみた。
「ん?」
魔力で満たされた空間を拡げていくつもりだったのだが、拡げて出来た空間に魔力はなく、魔力を帯びた外周部分だけが円型に拡がってしまっていた。
「あれ?」
某週刊少年誌で連載中断中の漫画の技を意識したのだが、やり方が違ったのだろうか。
これだと円の内側を探知できない。イメージすれば魔法は使えるはずなのだが、なぜ失敗したのだろうか。
「これだと本当に探知だけだな。まぁ、後で練習すればいっか。」
とりあえずこの状態でも探知はできている。その証拠に、後ろに拡がった魔力が触れた部分の人や物の魔力や形なんかは手に取るように分かった。
「意外に魔力使うな。集中力もいるし。」
某漫画ではこれを維持しながら戦闘していた。一定の魔力を放出し、円型に止めた上にそれを維持し続けるというのは慣れない俺からするとかなりの負担だ。
「57センチが限界だな。」
セリフまで真似てみたが、これ以上は版権に引っかかりそうなので自重しよう。まぁ、俺ならもう少しくらいいけそうだ。
「しっかし、どれくらいまで伸ばせるんだ?猫のキャラクターは2キロくらいいけてたみたいだけど、そんなに伸ばせるのか。」
そんなことを考えながらも、俺は魔力探知に意識を集中する。
屋根の上にいるからなのか、自身を中心とした全方位を探知できている。この探知の優れている点は、地面に到達するとそれ以上探知しなくなるところだろう。
地面の中まで探知されたら大変だった。なんせ地中には無数の生き物が存在するのだからな。
それに、途中で止まってくれれば無駄な魔力を消費しなくていい。この探知方法だが、拡げ続ければ続けるだけ魔力を消費しているのだ。
「スキャンみたいなイメージで魔力の膜を薄くすれば、魔力消費は少なくて済むだろうけど、そうしたところで、俺の今の魔力容量でどこまでいけるか……。」
そうこうしているうちに、かなりの広範囲のスキャンが完了したと思う。
これ以上拡げると戦闘に必要な魔力を確保できなくなりそうなので、俺は一旦スキャンを中止した。
「この辺りにはいない……が、視線を感じるのは間違いない。何かの魔法か?それとも望遠鏡みたいなものでこちらを見ているのか。というか、望遠鏡なんてもんがあるのか?」
姿を消さすような魔法があるのではないかとも思ったが、それならばスキャンに引っかかるはずだ。まぁ、何にせよ、敵が奇襲を加えられるような位置にいないことは確認できた。俺は男を抱え直し、
ミューとリンドウのもとへと急いだ。
「おっ、見つけた。」
2人と別れた場所でもう一度スキャンを使ってみると、ミューとリンドウの魔力を探知することができた。
どうやら、知っている魔力であるならば、感覚で判断できるようだ。なんとも都合のいい話だが、俺からすればとても助かる。
「こいつ邪魔だな。」
未だに目覚めない刺客をとりあえず屋根の上に置いて、俺は途中で思いついたトラップを仕掛けてみた。
「ほんとにこのスキルはチートだな。運営がナーフする時はガチャ100連分以上の詫び石くらいもらわねーとやってられねーぞ。」
設置しながら、スキルの有用性を再確認する俺。さきほどの台詞の後半部分は、地球にいた頃やっていたゲームで手に入れた冠に修正が入った時に言ったものだ。
魔王さえ倒せる代物だったものが、いきなり使い物にならなくなった時には笑ってしまったものだ。
「よし。1人しか捕まえられないだろうけど、罠としては十分だろ。」
罠の設置を終えて、俺は屋根から飛び降りた。もちろん、いきなり2人の前に現れたりしない。
きちんと人のいない路地に降りてから合流するつもりだ。
「あ、トキヤさん。」
路地から出ると、俺を見つけた瓶底眼鏡のミューがトテトテと走ってきてくれた。まるで子犬のようだ。しかも、メガネを外した姿を知っているので、余計に愛らしく感じる。
「えっと……あの……」
あまりの愛らしさに無意識に頭を撫でていた。恐るべき子犬効果だ。つか、猫耳だから子猫だな。
「あれ?荷物はそれだけか?」
気を取り直して2人を見ると、リュックサックのようなカバンと、手提げをそれぞれ一つずつ持っているだけだ。旅をするのにこれだけの荷物とは、よほど旅慣れた人間なのだろうか。
「追っ手から逃げるのに荷物が邪魔になるんです。最低限のもの以外はありません。」
変身しているリンドウが答える。その答えに、ミューが寂しそうに笑っていた。
「村に戻れば、もっと可愛らしい服があるのですが……ぜひ、トキヤさんに見ていただきたいです。」
あまりの可愛さに、ミューを抱きしめてしまいそうになる自分を必死に抑えながらも、俺は心の中で小躍りした。
第二の嫁はミューで決定だ。
「トキヤさん?」
「あぁ、何でもないよ。楽しみだ。」
可能な限り早く解決してやりたいものだと心から思った。そのためにも、まずは残りの刺客を捕まえたいのだが、なかなか罠にかかる気配はない。
「もう少し離れないとダメか。慎重だな。」
発動すればすぐに分かるような仕様になっている罠なので、未だにその気配がないということは、置いてきた刺客に変化がないということだろう。しかし、これ以上離れてしまうと、対応が遅れてしまう可能性がでてくる。
「近くまでは来てるはずなんだけどな。」
こちらに向けられている視線は、さきほどまでとは比べものにならないくらいに濃いものになっている。これだけの濃さなら、もしかするとミューとリンドウも感じ取っているかもしれない。現に、リンドウは油断なく周囲をキョロキョロと見回していて、落ち着きがなくなっている。
『しかし妙だな。ここまではっきりと分かるくらいの視線を送ってくるなんて……なりふりかまってられなくなったのか?』
相手に気配を気取られるなど、刺客としては失格もいいところだ。この刺客たちはかなりレベルが高いからこそ、余計に意味が分からない。
「あの……間違いであればいいんですが、もしかして、視られてますか?」
ミューが尋ねてきた。やっぱり気付いていたか。リンドウも真剣な表情でこちらを見つめている。
「視られてるよ。」
俺はあえて軽い口調で答えた。
相手の強さはミューとリンドウでは苦戦するレベルだろう。しかし、ここには俺がいる。
本気で戦えば、今のステータスでもあっという間に相手を倒せるだろう。だからこそ、2人を怖がらせないよう、冷静に、落ち着いて、それでいて軽い調子で答えたのだ。




