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トキヤ~異世界㉚実力の一端~

「では、私たちの宿はもうすぐそこですので、この辺りまでで大丈夫です。用事が終わったら、またここに来てくださいね。」


「さすがに街中では襲ってこなかったけど、ここからはどうなるか分からない。宿では特に注意するんだぞ。あと、街でも、出来るだけ人通りの多いところを歩くようにな。」


そんな注意をして2人と別れた後、俺はいよいよ用事を済ませるために歩き出した。

できるだけ人通りが少なく、薄暗い路地を選んで歩いていく。


「やっぱり釣られねーか。明らかに罠だからなぁ。」


買い物だとかギルサムだとか言ったのはもちろんハッタリだ。こちらを見張る視線がだんだんと鬱陶しくなってきたので、このあたりでぶっ飛ばしておくことにしたのだ。


「相手が分散してんのは分かってんだけどなー。」


2人と別れた直後から、こちらを見張る視線が分散したことには気づいていた。


現在、俺を見張っているのは3人。

全部で4人なので、俺を仕留めにきたのかと思ったが、攻撃してこないということは、いまだに様子を見ているのだろう。


「どこからか見てるってのは分かるんだけど、どこから見てるかまでは分からないんだよな。まったくもって鬱陶しいな。」


俺を確認できる位置にいることは間違いないはずだ。

広域スキャンみたいな能力でもあればいいんだけど、スキャンしたところで、相手を知らなければ意味がない気がする。


「いや、違うか。知っていなくても、どこにいるかが分かるから……やっぱりだめだな。建物の中の人までスキャンしちまうから、特定するには至らないな。もっと人が少なければ分かりやすいんだけどな。」


相手が魔力をこちらに向けてくれていれば、エルアさんの時みたいに魔力を辿れるのだが、いつもいつもそんな都合の良い状況になるわけではない。


「仕方ない……。あれ、やってみるか。」


そう呟くと同時に、俺は全力でダッシュした。



敵は俺の姿を確認しながら動いているという前提のもとで、突然姿を消してみせるのだ。



これには敵さんもびっくり仰天だろう。慌てて追ってきてくれるならば、絶対に捕まえられる。


「よしよし。ついて来てるな。それじゃあこの辺りで……」


視線が確実について来ていることを確認しながら10秒ほど走っただろうか。俺は姿を消すために細い路地に入り込んだ。


「おりゃ!」


直後、俺は魔力強化を施して跳躍した。俺が消えて慌てて追いかけているところに、俺が飛び上がってくるのだから、刺客からすれば驚きだろう。


「見つけた!」


予想通り、屋根の上に刺客がいた。

1人だけしかいなかったが、驚きで目を見開いていた。

忍び装束あたりを期待したのだが、冒険者風の服装だ。まぁ、明るいうちから忍び装束なんて目立つ格好をするバカはいないか。


「残りは見えないな。あいつがいる場所なら戦えるか。よし!」


俺は刺客がいる屋根に着地した。状況把握については似たようなものだと思うが、急に飛び出してきたことへの驚きから、相手が一瞬硬直していたことを俺は見逃さなかった。


「突然現れたってのに、止まったのは一瞬だけか。なかなか鍛えられてるな。」


敵の実力は相当なものだ。だからこそ、一瞬でも早く動き出すことが出来たことはかなり有利に働くだろう。


「残り2人もいるんだ。悪く思うなよ!」


俺は手加減せずに速攻で終わらせることに決めた。モタモタして逃げられても厄介だ。

跳躍の時の要領で魔力強化を行い、俺は刺客に向かって駆け出した。


「グッ……ガハァッ!」


とんでもない速度を上乗せした俺の右拳が刺客の腹にめり込み、体がくの字に折れ曲がる刺客。

肺から空気を吐き出すほどの衝撃を受けて、刺客が吹き飛んでいこうとする。


「まだまだ!」


俺は吹き飛んでいこうとする刺客の襟首を掴んだ。吹き飛んでいこうとする勢いを消しきれず、掴んだ首を支点にして体が浮きあがった。


「とどめだ!」


俺は右足で地面を蹴り、ひねり前方宙返りの体勢から、背中にかかと落としをくらわせてやった。浮き上がってくる反動も利用しているので、かなりの威力になっているはずだ。


「ガハァッ!」


勢いよく叩きつけられた刺客はピクリとも動かなくなった。

打撃だけなので死ぬことはないはずだが、腹と背中に相当の衝撃を受けたはずだから、あばらか背中の骨くらいはイっていてもおかしくないだろう。


「さて……残り2人は……いた!」


あたりを見回すと、こちらに視線を向けている男を発見した。同じような服装をしているので、間違いなく仲間だろう。ただ、相手までの距離が少しあるのがネックだ。


「ちっ!」


相手は俺に見つかったと思うと同時に現場からの離脱を図った。

本当に厄介な刺客だ。

俺は舌打ちをして、両脚に魔力を込める。


「待ちやがれ!」


魔力を込めた脚に力を入れて跳躍する。刺客との距離がぐんぐんと縮まり、あと少しで捕まえられそうな距離になった。


「あとちょっと!」


俺は中継地点に着地し、もう一度跳躍した。


「がっ!?」


跳躍した瞬間、真横から思いきり殴られたような衝撃に吹き飛ばされた。

魔力強化のおかげでダメージはそれほどなのだが、吹き飛ばされたおかげで緊急着地を余儀なくされてしまった。


「何だ!?」


衝撃を受けた方向に目をやると、50メートルほど離れた位置に、魔力弾を放ったであろう人影が見えた。

あの距離から当ててくるとは、本当に鍛えられた刺客だ。

注意をそちらに向けている間に、追いかけていた刺客に逃げられてしまった。魔力弾を放った奴も、あっという間に気配が消えてしまった。


『あれだけの使い手だ。今から探しても見つからないだろうな……。』


そう結論付けた俺は、倒した刺客のところに戻った。仲間が回収に来ているかとも思ったが、時間もなかったのだろう。

倒した場所にまだ転がっていた。


「さて、どうしたものかな。」


縛るものをもっていないので、運んでいる途中で目覚められると厄介だ。魔法で作っても良かったのだが、変に魔法を使って、能力がバレたりしても面倒だ。手足を折って運ぶかとも考えたが、平和な日本で育ったせいか、人間相手にそこまで非情にはなりきれなかった。


少し悩んだが、やはり担いでいくことにした。


ここに放置しても何も変わらないし、宿に戻ればリーシュがいる。縛るものくらいあるだろう。


「よっこいしょ。」


ステータス補正のおかげで重さは感じないのだが、何故だかこの掛け声は出てしまう。

そんな何気ないことに笑いながら、男を肩に担ぎ屋根から屋根へと飛び移って宿へ戻った。


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