トキヤ~異世界㉙休憩~
『派遣料は売り上げの1割か。もったいない気もする。『収納』なら俺も使える。収納量がどれほどかは分からないが、リーシュと2人なら10匹くらい大丈夫だろう。』
そう結論付けた俺は、収納術師の派遣を断った。
リーシュたちが不思議そうにしていたので、俺も『収納』が使えることを教えてやった。
「分かった。しかし、お前も『収納』が使えるとは驚いたな。とてもじゃねーが、駆け出しの冒険者とは思えねーよ。」
レイガーは俺を見て、人の悪い笑みを浮かべる。
「旅の魔法使い様に教えてもらったんだよ。」
ポーカーフェイスを装って返事をしてみたが、バレたりしていないだろうか。しかし、旅の魔法使い様というのは便利だ。
確認しようがないところがまた素晴らしい。
「まぁ、そういうことにしてやるよ。さて、最後になったが、これがお前の冒険者カードだ。クエストの受注履歴やらが登録されてるのと、身分証にもなるから、失くしたりすんなよ。初回はただでやるが、再発行にはそれなりに金がかかるぞ。」
俺は手渡されたカードを見る。身分証や受注履歴なんかはお約束の機能だ。
あとは、最近読んだラノベの機能が、このカードに付いているかどうかの確認だ。しかし、ここでそれをやるとまずそうなので、とりあえず後回しにしよう。
「カードの素材と色でランク分けされてるのか。」
「そうだ。お前はBだから銀だな。ちなみに横のエルフは銅。獣人の2人はただの魔法板だ。」
呟くように言っただけなのが、レイガーがその呟きを拾って答えてくれた。
魔法板って何だろうと思ったが、合成素材みたいなものだろうと勝手に納得することにした。
変な質問をして、これ以上ボロを出すわけにはいかない。
「さてと、ここでの用事は終わったな。そろそろ宿に戻るか。3人とも、行こう。」
そう言って俺は立ち上がった。リーシュとミューが後を追うように慌てて立ち上がる。
「トキヤ。」
部屋を出ようとする俺は、レイガーに呼び止められた。
「お前のチカラだがな、出し惜しみすると大切なものを失うぞ。絶対に忘れるな。」
「分かってる。」
俺は背を向けたまま答えた。実は頼りになるギルド長なのかもしれないと思ったのは、言い過ぎではないだろう。
そして、俺たちはギルドを出て宿へと戻った。
余談ではあるが、1階に降りた時、すでに穴は塞がれており、冒険者たちは何事もなかったかのように過ごしていた。
吹っ飛ばした男は大丈夫だったのだろうか?
「あー!なんか久しぶりに戻ってきたって感じがするわー!」
宿に戻るなり、リーシュはベッドに体を投げ出した。
ミューとリンドウもぐったりとした様子でソファに腰掛けている。
すでに陽は傾きかけているのだが、昼過ぎにここを出てから、それほど時間が経ったというわけではない。
それにも関わらず、それだけ疲れた様子を見せるということは、精神的な疲れが大きかったのだろう。まぁ、ギルサムやレイガーの威圧を受けたのだから、仕方ないことだ。
「夕飯はどうするんだ?」
何となく尋ねただけなのだが、3人は呆れた顔をこちらに向けてきた。
「トキヤさん。まさかお腹が空いていらっしゃるんですか?」
「あ、いや、そういうわけじゃないけど、もうそんな時間だろ?」
ミューの問いに答える。腹が減っているわけではないのだが、ここでダラダラとしても手持ち無沙汰なのだ。
「私はまだいいわ。」
ベッドからリーシュの声がした。
「私たちもまだ食べれそうにありません。もしよろしければ、もう少し待っていただけますか?」
「あぁ、構わないよ。そういえば、ミューとリンドウの宿はどこなんだ?」
ミューとリンドウの宿を確認しておかないと、敵が攻撃してきた時に対処が遅れてしまう。と言っても、宿が別な時点で即時の対応など出来るわけがない。
2人には、俺が到着するまで粘ってもらうしかない。
「あ、それなのですが、私たちは宿を引き払って、こちらでお世話になることにしました。我々を監視する者がいるということですので、お2人から離れるのはかなり勇気がいります。」
ミューの言葉に、リンドウも頷いている。それを聞いた俺は、先に用事を済ませることにした。
「じゃあ、ミューリンドウは宿に荷物を取りに戻るんだよな?いつ行くんだ?」
「えっと……もう少し休んでからと思ったのですが、急いだ方が良いですか?」
急いでいるわけではないけれど、早い方がいいかもしれない。そう思いながら、今後の予定を立てていると、リーシュが起き上がって話し出した。
「なによトキヤ。そんなにお腹が空いてるの?」
何気にリーシュが失礼だが、お腹がどうこうなどではない。
「いや、腹が減ってるとかじゃないんだ。ちょっと買い忘れたものがあって、店が閉まるんじゃないかなって。あと、ついでにギルサムの用事を終わらせておこうと思ってな。」
「そうでしたか。では、今から行きましょう。リンドウ。行きますよ。」
リンドウが無言で頷いた。
リンドウもリーシュと同じだけの威圧を受けたはずなのだが、リーシュほど疲弊している様子はない。
「リンドウさ。リーシュたちと同じだけの威圧を受けたのに、そんな疲れてないよな?何でなんだ?」
尋ねられたリンドウは、少し迷った素振りを見せた。答えにくい質問だったのだろうか。
「えっと……確かに、ギルド長の威圧は凄かったですが、あの、トキヤさんの威圧の方が圧倒的というか、怖かったというか……。」
なるほど。比較の問題か。
リンドウに威圧の耐性が付きつつあるのかもしれない。もしかしたら、スキル欄にも耐性が付く日がくるかもしれないな。
「確かに、声を掛けただけの私で粗相をしてしまうレベルですから、まともに受けたリンドウの恐怖は私の比ではないでしょうね。下手をしたら、心が壊れていたかもしれません。」
ミューに悪気はまるでないんだろうけれど、言われているこちらとしては、なんだか責められている感じがする。
まぁ、あの時はリンドウのことを男だと思っていたわけだし、リンドウもリーシュを本気で殺そうとしていたのだから相殺だな。
「あれは本当に悪かった。女の子にあんなことをするなんて……今思い出してもぞっとするよ。」
「あ!いいえ!私なら大丈夫です!傷めた部分はきちんと治していただけましたし、その……えっと……」
俺からの突然の謝罪に慌てるリンドウ。
突然のことで、言いたいことがまとまらないのだろう。しどろもどろになってしまっている。
変身も解除しているので、慌てふためく姿が愛嬌のあるものになっている。
「なにはともあれ、出かけるなら、トキヤはすぐにキレたりしないようにしてよ。あんたはまだ変な力を隠してるんでしょ?バレてんだからね。街中でぶっ放したりしないでよ?」
リーシュから注意をうけるだけでなく、能力についてもバレていた。
まぁ、これだけ一緒にいて気が付かない方が逆におかしい。
「あぁ、分かってる。能力についても、落ち着いたら話すから。」
そう言って、リーシュを宿に残し、俺たちは宿を出た。




