トキヤ~異世界㉘複数のクエスト~
「あと、お前……えっと……」
「トキヤ。」
「トキヤか。お前、冒険者登録するんだろ?本来ならステータスの登録なんかも必要なんだが、全部パスでいい。あとエルア。こいつはBランクからのスタートだ。」
「……分かりました。」
レイガーにそう指示されたエルアさんは一瞬動揺を見せたが、すぐに秘書としての動きを取り戻したようだった。
一礼して部屋から出ていこうとするエルアさんに、俺は声をかける。
「あの、エルアさん。申し訳ないが、50万の仕事か、10万クラスの仕事をいくつか見繕ってもらえませんか?なんせ借金まみれなんで、早く返さなきゃ。」
俺の話し方に対して、リーシュとミューは、あんた誰的な視線をよこしてくるが、それは今は無視だ。
「それならちょうどいいのがあるな。エルア。あのクエスト持ってこい。あと、ギガントオーク討伐もあったろ。あれでお釣りがくるはずだ。」
「分かりました。」
再び一礼して部屋を後にするエルアさん。
ギガントオークという言葉に僅かに反応したリーシュは置いておいて、俺は嫌な予感を抱きながら、レイガーに尋ねた。
「あのクエストって?」
「あぁ、S級クエストだ。本来ならAランクからしか受けさせないんだが、お前ならなんとかしそうだ。ランクもなぁ、Aでいいんじゃねぇのって思うんだが、それしちまうと本部のジジイどもがうるせーんだよ。Bで実績出したらすぐにAにしてやるから、我慢してくれ。」
レイガーの言葉を聞いた俺以外の3人が心底驚いた顔で俺を見つめてきた。
まぁ、そんな反応になるわな。
俺はその視線を無視して、続きを話すように促した。
「知ってると思うが、S級クエストってのはなかなか消化されることがねーんだ。現に、俺だって年間に1つ消せればいいほうだ。今回は、お前らの目的地である聖山ガルダジュアのどこかに咲くと言われている『虹の花』の採取だ。報酬は50万くらいだった気がするんだがな。結構前のクエストだから、報酬は多少変わってるかもしれないな。」
「虹の花……」
レイガーの言葉に反応を示すミュー。
「知ってるのか?」
「いえ……場所までは分かりませんが、話だけなら聞いたことがあります。虹の花は万病に効く特効薬『エリクサー』の原料であると。しかし、入手は極めて困難で、相当強力な守護獣がいるという話です。」
『F○アイテムキター!』
ミューのシリアスな話し方とは対照的に、俺は心の中で喜びを爆発させていた。
あの国民的ゲームのレアアイテムが手に入るかもしれないのだ。
どんな味がするのかなど、今から楽しみだ。
「そうだ。そこまでは俺たちの情報と一致する。問題なのが、守護獣と持ち帰り方法だ。守護獣は、倒してしまったら一定時間後に復活するらしい。今まで、いくつかの冒険者がこのクエストを達成しているが、2度達成した冒険者はいない。2度とやろうとは思わなかったんだろうな。その原因は、さっき言った守護獣だ。かなり強力らしいぞ。」
確かに、ボス復活は面倒イベントだ。
もしかしたら、『〇〇ターン以内にクリアせよ』なんて条件をつきつけてくるかもしれない。
そうなると、ただのやり込みイベントになってしまうし、労力と報酬が見合っていない気もする。
「あと、虹の花は採取してから枯れるまでが異様に早いんだよ。」
よくあるイベントだ。時間内に一定ポイントまで運ばなければならないとか、特定アイテムがなければ回収できないとか。
「それで、持ち帰るにはどうすればいいんだ?」
「分からん。」
レイガーがにやにやと答える。
「分かった。」
どうせ自分で考えろとかそういうことなのだろう。
美食漫画のト〇コなんかでも、特殊な採取や調理方法を必要とする素材がたくさんあった。俺の記憶を探って見つけられた世界なのであれば、そういうイベントだってあって当然だ。
「いいのか?」
「いいも何も、持ち帰り方は分からないんだろ。こっからは俺の想像だけど、このクエストの達成者は、危険な情報は開示したが、肝心の部分は秘匿したんだろ。特殊な技術が必要だが、割と簡単に真似できる。開示しちまったら、飯の種がなくなっちまうからな。」
俺の話を聞く前は、どこか試すような表情だったレイガーが驚いた顔で俺を見る。
「まぁ、こっちにはミューとリンドウがいるんだ。それに、エルフであるリーシュも植物には詳しいはずだ。何も問題ないよ。」
そう言って、俺は仲間を見た。3人とも、どこか誇らしげな顔をしていた。
「で、ギガントオークってのは?」
「はぁ?ギガントオークを知らねーのか?」
レイガーの反応に、俺は心の中で頭を抱えた。
周りを見ると、さっきまでの尊敬の眼差しはどこへやらという顔をしていた。
やってしまった感しかないのだが、ここからがリカバリーのしどころだ。
「違う。どこにいて、何匹くらいいるんだって話だよ。」
「あ、あぁ。そういうことか。」
聞き方が曖昧だったおかげでなんとかなったが、内心では冷や汗ものだ。
ギガントオークってのは、そんなに常識の中のモンスターなのだろうか。
しかし、今回も何とか誤魔化せたが、最近のミスの回数は見逃せないな。
いつか大きなミスをしでかしそうで怖い。どこかで常識をまとめて仕入れなければ、バレるのも時間の問題だろう。
「発生場所はここから3日ほど行った洞窟だ。数は10匹程度。1匹あたり5万で取引されている。B級クエストなんだが、あいつらは群れると連携をとってくるんだ。かなり厄介だぞ。しかも、オーク種ってことで、あっという間に増えるんだよ。増える前に倒すってのが常識なんだが、どうやら見落としがあったようだ。俺とエルアで行くつもりだったんだが、お前らにやるよ。連携強化にゃもってこいだろ?」
悪戯が成功したようなレイガーの顔を見て、このクエストを振られた理由が分かった。こいつには、俺たちがこれから何をしなければならないかということが分かっているのだろう。
まぁ、特に反発する理由もないので、好意はありがたく受け取っておこう。
そこへ、タイミングよく書類を抱えたエルアさんが戻ってきた。
どうやら、クエスト受注に関する書類のようだ。その後、俺たちはそれぞれ書類にサインして、クエストの受注が完了した。
「なぁ、みんな。この書類には、素材は好きにしてもいいみたいなことが書かれてたけど、どうする?」
書類の中盤あたりに、討伐後の魔物の素材の扱いに関する項目があった。質問の仕方を『どうする?』としたのは、俺なりの工夫だ。
この聞き方であれば、誰かが何かしらの答えをくれるはずだ。俺はそれを聞いてから返答すればいい。
「あぁ、素材に関してはお前らの自由にしていいぞ。ギルトとしては、討伐証明部位だけ持ってきてくれれば十分だ。もちろん素材を買い取ることも出来るんだが、今回の討伐はなぁ。剥ぎ取るだけで結構な仕事だぞ。おい。エルフ。お前『収納』の魔法使えるだろ?どれくらい入る?」
誰かが反応してくれれば十分だと思っていたら、レイガーが次から次に新情報を放り込んでくれた。これには俺も内心で拍手喝采だ。
「えっと、それなりには入ると思いますけど、ギガントオーク10匹は難しいです。」
「なるほど。それなら、ギルドから収納術師を派遣してやろうか?ん?安心しろトキヤ。ギガントオークの素材は報酬とは別だ。そんな目をしなくても、素材の報酬はちゃんと払ってやるよ。」
レイガーが俺を見て言葉を足した。そんなにがめつくはないし、収納術師って何だろうと思っただけなのだが、どうやら良い風に勘違いしてくれたようだ。
「派遣料はいくらになる?」
「まぁ、そこそこだな。売買価格の1割はもらう。ただ、10匹もいるんだ。素材の状態が悪くても、全部で50万にはなるはずだ。状態がいいのがあれば、100万はいくだろうし、そんなケチることのもんでもないぞ。」
それを聞いて俺は少し考える。




