トキヤ~異世界㉖新技とギルド長~
「今はそういうことにしておいてあげるわ。」
リーシュは未だに疑っているようだ。しかし、証拠がないので、嘘だと見破られることもないだろう。
「君たち。少しいいかな?」
声がした方を振り向くと、上等そうな黒の上下に身を包んだ子どもと、とんがりメガネに紺色のジャケット、さらにミニスカートといういで立ちの女性が階段の上から俺らを見下ろしていた。
女性の方は間違いなく秘書だろう。
手帳のようなものを大切に手にしていた。
子どもの方は何なんだろうか。この流れなら、ギルド長あたりが出てくるはずなんだが、俺のイメージするギルド長とはかなりかけ離れている。
「何ですか?」
一応敬語を使ってみた。
ギルド長の可能性を否定できない以上、いくら冒険者とはいえ、横柄な態度は慎むべきだろう。
「ほぅ。荒くれ者かと思っていたが、最低限の礼儀は弁えるか。なら話は早い。君たちは何者……いや、君は何だ?」
その質問に、俺の心臓が一瞬だけ跳ねた気がした。
『何だこいつ……どういう意味だ?』
思わず顔をしかめる。
「おっと、そんな警戒しないでくれ。少しだが、君の能力に興味が湧いたんだ。あとは、ギルド内で揉め事を起こしたお仕置きかな。まぁ、話はこちらで聞こう。上がってきたまえ。」
爽やかな笑みを浮かべ、二人は奥へと消えていった。そのどこか挑発めいた発言に苛立った俺は、3人を押しのけ、先頭で階段を上がった。
「ん?」
階段の途中、俺は妙な感覚を覚えて立ち止まった。
『殺す気のない殺気』
おかしな言い方だが、これが一番しっくりくる表現だ。
後ろの3人を見ると、急に立ち止まった俺を見て不思議そうな顔をしている。どうやら、3人はこの気配を感じていないようだ。
俺としてはこのまま無視して進むこともできるのだが、試されているような気がして面白くない。
「トキヤさん?どうしたんですか?」
ミューが問いかけてきた。どう説明したものかと考えていると、リーシュが最後尾から階段を上ってきた。
「何してるのよ?早く行くわよ。」
その足取りは軽く、何事も無いように上がっていった。
本当に気配を感じていないようだ。
ミューとリンドウもそれに続く。結局、俺が最後になってしまった。
『にゃろう……』
これは間違いなく俺だけに向けられている。
発しているのはあのクソガキだろう。
気合で払うことだって出来るが、俺はあることを思いついた。
『掴まえてやる。』
そう決意して、俺は身体を魔力で薄く覆った。
思いきり魔力を纏ってしまうと、何かしてるのが相手にバレる可能性がある。次に、自分の魔力以外の魔力を探知してみた。
『出来るか分からなかったけど、案外いけるもんだな。』
自分の身体を覆う魔力に、何者かの魔力が纏わりつくように伸びてきているのが分かった。
魔力の先を見上げると、やはり2階から向かってきているようだ。
『やっぱり犯人はあのクソガキだな。あとは……この魔力をぶった斬る……いや、魔力を流し込んだりとか出来ないのかな。』
急に大量の魔力を当てられたら驚くに決まっている。そう思った俺は、回復魔法と同じ要領で、相手に魔力を流すイメージを思い描いた。
『いけそうだな。よし、くらえ!』
俺に纏わりついていた魔力に、俺の魔力を重ねて相手に送り返してやった。
その質量は10倍ほどだ。
リーシュたちに見えていないのは残念だ。これから面白いことになるのにな。
「きゃあ!」
「ん?きゃあ?」
俺は嫌な予感がして残りの段差を駆け上がった。
「うぉ!?」
階段を上がった先で、さきほどの秘書の女性が尻もちをついていた。まさか、俺に魔力を送っていたのはこの人だったとは。
いや、違う!今はそこじゃない。
今は、この秘書さんのパンツが丸見えだということが重要だ!
「あっ!」
慌てて足を閉じてスカートを押さえる秘書さんがいた。青の水玉とはいささか子どもっぽいが、それはそれでありだろ。
仕草もなかなかに可愛らしい。俺は心の中で親指を立てた。
「ん?」
正面と左右から殺気が放たれていることに気づいた。正面からの殺気は理解できるんだけど、左右からってのは一体……。
まさか、刺客か!?
「ちょっと……」
「トキヤさん……サイテーです。」
リーシュとミューの殺気でしたね。
リンドウは無言で目を閉じていた。
今回は不可抗力な気もするんだけどな。
一連のやり取りを説明したところで、話がこじれるだけだろうし、ここは甘んじて受け取っておこう。
「あっはっは!エルアのあれを探知した上に、魔力を返してくるやつがいるとは驚いたな。」
秘書さんに夢中で気付かなかったが、横にいた子どもが笑い声をあげていた。
そうかそうか。あの秘書さんはエルアさんと言うのか。
「説明してもらえますか?」
俺はため息をつきながら二人に近づき、エルアさんに手を差し出した。
エルアさんは、差し出された手を掴んで立ち上がり、服の汚れを払った。そして、テーブルの下に落ちた手帳を拾い上げた。
「悪い悪い。説明してやりたいところだが、ここだと人がいるな。エルア。部屋に茶を持ってきてくれ。ほれ。小僧ども、こっちだ。」
偉そうな子どもはそのまま正面の扉を開けた。
「ギルド長室!ということは、あなたがギルド長ですか!?」
リーシュが驚きの声を出した。
子どもが扉を開けたくらいで大袈裟な……ん?ギルド長室だと?
「は?ギルド長?あんな子どもが?つか、リーシュってCランクの冒険者なんだよな?見たことなかったのかよ?」
かなり失礼だが、俺の疑問は当然だろう。
ギルド長と言えば、冒険者を引退した初老の人間が職務に就き、たいていはギルドで仕事をしているはずだ。まぁ、これはあくまで俺の持つイメージだから、間違っていたところで文句は言えないのだが。
「ばっ……!」
「子どもじゃないぞ。一応もうすぐ40になる。種族は小人族。こういう特性なんだよ。」
リーシュが何かを言おうとした瞬間。小人族のギルド長が言葉を被せてきた。
ラノベの世界でお馴染みの小人族ならば、知識としては知っている。
「嫁探しか何かですか?」
思わず尋ねてしまった。
それはラノベの小人族の話だ。
少し想定外だったせいか、疑問を抑えきれなかったのだ。
「何だそれは?まぁいい。とりあえず、いつまでも突っ立ってないで、さっさと部屋に入れ。」
いろんな事実を小出しにするから悪いんじゃねーかとも思ったが、立派な思考の大人はそんなこと言ったりはしない。
そんなことを思いながら、俺たちは言われるがままギルド長室に入った。




