トキヤ~異世界㉔ギルド~
「し、仕方ないわね。トキヤがどうしてもって言うからよ!」
このエルフにそんな属性付いてたかなと思いながら、俺はリーシュを抱き寄せた。
「ちょっ!恥ずかしいから!」
そういいながらも、リーシュは全く離れようとしなかったので、さらに抱き寄せて唇を奪ってみた。
「むぐっ!?ふっ……ふぁっ……!」
唇を当てるだけの優しいものではなく、ディープなほうだ。
最初は驚いて抵抗していたリーシュだったが、ほんの数秒で腰から力が抜け、鼻息が荒くなってきた。
さすが勇者補正。
こんなところにまで能力が影響してくるとは思わなかった。
リーシュの初々しすぎる反応からして、ファーストキスを奪ってしまった可能性もあった。こんな場所でファーストキスというのも、少しだけ可哀想な気もしたが、嫌がらないということは、問題なしと判断して大丈夫だろう。
「ぷっ……ぷぁ……」
少しして、俺はリーシュを解放した。
全身の力が抜け、立っているのがやっとという感じな上に、蕩けそうな表情をしているリーシュは、これまでにない色気を放っていた。
「ば、ばかぁ……は、初めてだったのに……」
『うん。最高!』
もう一度突撃しかける自分をなんとか制御して、俺は思考を切り替える。
このままだと、エロラノベみたいになってしまうからな。
「えっと、リーシュはこんなだし、ミューも外にいるのは怖いだろ?一旦宿に戻ろうか。」
努めて冷静に話しかけてみたが、ミューとリンドウの視線はなかなかに冷たいものだった。さすがに公共の場でアレはないようだ。
周りを見回しても、呆れ顔の人が多い。
「わ、私は構いませんよ。宿に置いて行かれるよりも、トキヤさんの傍にいた方が絶対に安全です。」
ミューは、公共の場であんな激しい行為をしでかす変態(俺)と一緒にいるか、自分の命を危険に晒すかという選択を迫られた結果、変態(俺)と一緒にいた方が安全だと結論づけたのだろう。
実際、その選択は何も間違ってはいない。
この街で、俺の傍より安全な場所なんてのは、存在しないのだ。
「じゃあ、気を取り直してこのままギルドに向かいますか。」
俺は、隣で力尽きかけているエロ顔エルフを抱きかかえ、ミューとリンドウの案内のもと、ギルドへと向かった。
「ここがギルドか……。」
もっと目立つように建っていると思われたギルドだったが、俺の予想に反して、外観は街並みに合わせたものとなっており、周囲との調和が図られていた。
入り口に掲げられた看板がなければ、ただの民家として通り過ぎていたかもしれない。
「ここがギルド、フィガー支部です。私たちも先日ここで冒険者登録をおこないました。って、リーシュさん、大丈夫ですか?」
ミューは、ようやく俺の腕から這い出したリーシュを見て、心配そうに声を掛けた。
「だ、大丈夫……。ちょっとびっくりしただけだから。それよりも、冒険者登録をするのよね?手続きとか面倒だから、私の紹介で登録してちょうだい。それなら、登録に時間がかからないわ。」
そんなシステムがあるのかと感心したが、もしかすると、ネズミ講みたいなシステムになっているのかもしれない。
そんなシステムならば、紹介一人あたりおいくらになるのかが気になるところだ。そう思って、リーシュの顔をじっと見る。
ん?リーシュが俺の顔をみてくれないぞ。やりすぎたかな?
「ちょ、ちょっと。人の顔をじっと見るのやめて!」
照れてるだけだな。
「ニヤニヤするの禁止!」
リーシュはそう言って、俺の顔を手で押しのけた。
「ごめんごめん。リーシュがあんまりにも可愛かったから。」
この言葉に、またしても顔を真っ赤にするリーシュ。読者的にはもう飽き飽きするくだりだが、リーシュにはまだまだ有効なようだ。
「あの……先に行きますね?」
ミューとリンドウが呆れた顔でギルドに入っていったので、俺たちも後に続いた。
「ん?」
ギルドに入ってすぐ、俺は妙な視線に晒されていることに気が付いた。
『なるほど。お約束ってやつだな。この世界って、こういうのだけは絶対に外さないんだよな……。』
だいたい、どのラノベでも、初めてギルドを訪れた時、必ずと言っていいほど、他の冒険者から『洗礼』を受ける。
その内容は様々で、ケンカをふっかけられたり、妬みの視線を送られたりするなどだ。
そんなお約束が今、俺にも降りかかっている。
『さてと……こいつらの視線は…あれ?俺?』
リーシュやミューと一緒なので、向けられた視線は嫉妬の色を多く含んでいると予想していたのだが、そんな視線を感じることはできなかった。
『そうか。ミューは瓶底メガネだし、リンドウは変身中。リーシュとの関係は、すでにハゲーンから聞いているんだろうな。ということは、この視線は、単純に俺の力を見極めようとするものか。』
ハゲーンを倒したことで、俺の力はある程度分かっているはずなのだが、そう簡単には信じないのだろう。まぁ、冒険者なら、自分の目で見て、肌で感じたものを信じるのが当たり前だ。というか、そうであってほしい。
「なぁなぁ!ケンカとか売ってこねーかな!」
前を歩くミューに小声で尋ねた。
「えっと……酒場とは違うので、ケンカを売られることはないと思いますよ。それに、ここは冒険者の待機場ですから、そんなことをしたら資格を停止されるかもしれません。あ、あっちです。冒険者登録は、あそこから二階に上がっておこないます。」
テンションの上がった俺に対して、ミューが丁寧に説明してくれた。
『なるほど。ケンカはダメなのか。』
ミューは、他の冒険者の視線が俺に向いていることで、少なからず緊張しているようだが、恐怖を抱いている様子はない。
リンドウにしてもそうだ。
周囲への警戒もいつも通りおこなっている。
リーシュに至っては、こんな視線などどこ吹く風といった感じだ。浮かれてしまっているのは俺だけのようだ。ちょっと恥ずかしくなってきた。
「ギルドが珍しいですか?」
リンドウが不思議そうに尋ねてきた。
「だってギルドだぜ?冒険者だぜ?ラノベやアニメでしか見たことないような連中が、俺の目の前にいるんだぜ?くぅー!テンション上がるわー!」
聞きなれない単語が混じっていたせいか、首を傾げるリンドウ。
しかし、当の本人は、テンションの上がりすぎで、そんな単語を口走った自覚さえなかった。
それほどまでに、テンションがあがっていたのだが、そんな俺の心を見透かしたように、リーシュから声がかかる。
「ちょっと。テンション上がったのは分かったから、さっさと二階に上がって登録しちゃいなさい。あんまり浮かれてると、ケンカ売られるわよ。」
『あ……』
注意されるのは別に構わないのだが、妙なフラグを立てるのはやめてもらいたい。この世界では、こういったフラグは即座に回収されるのだ。
まぁ、今回は良しとしよう。俺としても、是非ともケンカを売ってきてもらいたかったのだ。
「おい。ここは冒険者ギルドだぞ。ガキがはしゃぐところじゃねーんだよ。」




