トキヤ~異世界㉓街中での一幕~
「気付いたか?熊耳族にとって、ミューの父親なんてのは、数の暴力でいずれ倒せるんだよ。だからこそ、あいつらが欲しいのは大義名分なんだ。『猫耳族に全面戦争を仕掛けられた。だから自分たちは、身を守るために戦った。』これが言いたいんだよ。」
「なんでそんなまどろっこしいことを?」
リーシュが尋ねてくるのだが、俺は少しだけがっかりしてしまった。
頭の回転はかなり速いはずなんだけど、政治の分野は弱いのかな?
「これはあくまで俺の予想なんだけどさ、周りの部族へのポーズってとこじゃねぇか?猫耳族を侵略した部族ってよりも、防衛のために、仕方なく討ち滅ぼしたって方が、イメージもいいだろ?んで、最初の疑問なんだけど、ミューを離せば離すほど、熊耳族はミューをダシに使いやすくなる。死んだとでも言えば、すぐに戦争になるだろ?猫耳族は、ミューの生死を確認しようにも、当の本人が離れすぎてると、確認のしようがないんだよ。」
「なるほどのぅ。じゃからお主は、獣人の娘を戻すのか。」
今まで聞いていただけのギルサムが納得したように声を出した。
「しかし!姫様の無事を知らせるだけならば、魔法を使えば簡単です!わざわざ危険を冒してまで、戻る必要はありません!」
リンドウが強く反発する。護衛として、その考えは当然だ。
追い立てられるようにして、ようやくここまで辿り着いたのだ。
そんな危険な道を戻るなど、考えたくもないだろう。
「リンドウ。いいか?お前らが逃げれば逃げるほど、ミューの父親だけじゃなくて、部族そのものが滅亡に近づくんだ。それと、手紙の魔法を信頼しすぎるな。そういう魔法ってのは、だいたい妨害の魔法があるもんだ。」
「まさか……」
この発言には、リーシュもミューも驚いたようだ。まぁ、俺としては、あるんだか無いんだか分からない魔法ではあるが、ラノベのお約束からして、妨害する魔法もあると思って動くべきだろう。
発想としては、魔力を割り込ませて、ジャミングをかければいいだけだ。
そう難しいことではないだろう。
ん?魔力を飛ばすこと自体が難しいって?出来る人もいるかもしれないじゃないか。
「それに、どうせ聖山ガルダジュアに行くための武具が出来るまでに時間がかかるんだ。その間、一つ処で止まってたら、狙ってくださいって言ってるようなもんだ。正直言って、防衛戦は苦手なんだよ。」
なんだかんだと話しているうちに、次の目標もはっきりしてきたことに、俺は内心で驚いていた。
やっぱり、勇者補正ってのはすごいな。
「しかし……無事に父のもとに辿り着けるでしょうか?」
不安そうなミュー。
リーシュもリンドウも同じように不安そうだ。三人揃って俺を見つめている。
まぁ、正直言って、俺も不安だ。
なにせ、目的地までの距離も分からないのだ。しかも、相手の力も分からないときたものだ。
まぁ、俺の不安は、すぐにでも解消できるものばかりだから、悩むだけ時間の無駄なんだけどね。
「敵さんがどれくらいの強さかは分からないけど、ミューたちを見張ってる奴らくらいのレベルなら、多分負けないかな。」
俺の発言に、ギルサムを含めた全員が驚いていた。あれ?リーシュも気付いてなかったのか。そうなると、敵さんはなかなかの手練れだな。
「まぁ、なんだ。今日の夜にでも、捕まえに行ってくるよ。ミューの父親のところに行くかは、そいつらから話を聞いてからにしようか。俺とリーシュが余裕で捕まえられたら、2人の不安も和らぐだろ?」
「私も!?」
いやいや。
俺一人で捕まえるわけにはいかないだろう。
俺は、この世界ではあまり目立つわけにはいかないのだ。そのため、力は極力抑え気味。なので、カモフラージュとして、リーシュにも手伝ってもらうのだ。
「さて、こっちの話はある程度だが纏まった。ギルサムさん。武具の製作を頼みます。出来れば2か月で仕上げてくれると助かるな。」
俺がそう言うと、ギルサムは深く息を吐いた。
「全く、無茶苦茶な連中じゃ。じゃが気に入った。お主らのステータスの値より高いレベルの武具を揃えておいてやろう。特に小僧。お主は旅立つ前にもう一度ここへ来るのじゃ。いくつか聞いておきたいことがある。」
その後、ギルサムの店を出た俺たちは、大通りを歩いていた。
「さて、次はギルドに向かわなきゃなー。」
ギルサムの店を出てから、俺は終始ご機嫌だった。
実はギルサムのところで間に合わせの防具を頂戴したのだ。
上半身はアンダーシャツに革の胸当て。その上には黒のローブを羽織った。下半身はジーンズに似たズボンを選んだ。フルプレートなんてものも着てみたかったが、素早さが活きないから、革製品にしておけと言われたのだ。
それにしても、下半身が黒のレザーパンツであったなら、どこかのVRMMOの剣士様にそっくりだ。
まぁ、武器は貰えなかったから、今は無手だし、二刀流なんてのも、似合いそうにない。
しかし、俺の機嫌の良さとは裏腹に、後ろの三人が警戒しているのが伝わってきた。
どうしたの?と聞いてみたいところだが、明らかに俺のせいだろう。
自分たちが気付けなかったほどの刺客が、今もこちらを狙っていると分かれば、そりゃ警戒もするに決まっている。
「トキヤさん……あの……今日は、ずっとこうしていていいですか?」
思考を巡らしていると、ミューがするりと腕を絡ませてきた。
慎ましやかだが、確実な膨らみが腕に当たっている。って、そうじゃなくて、かなり怖いんんだろうな。俺の近くなら安全と考えたのか、しっかりと胸を押し付け…じゃなくて、体を預けてくれている。
現金な考え方だと思ったが、よく見ると、その体は僅かに震えていた。
「……。」
無言の圧力を感じて振り向いてみると、リーシュが何やら微妙な空気を出していた。自分にもっと力があれば守ってやれたのにという悔しさと、ミューにデレデレしている俺に対する怒りが混ざっているのだろう。
俺としてはデレデレしているつもりなど全くないので心外なのだが、リーシュにはそう見えるらしい。
ちなみに、真面目なリンドウは、常に周囲に目を光らせていた。そんなに緊張してたら疲れるだろうに。
「あ、あのさ。」
俺の言葉に、三者三様の反応を示した。
リーシュは臨戦態勢。ミューはより怯え、リンドウは緊張感を増した。
そんなに警戒しなくても、街中で襲ってくることはないはずだ。もし襲うのであれば、俺らと合流する前に襲っているはずだ。
「街中で襲ってくるなら、とっくに襲ってるはずだし、大丈夫だって言っても、何の根拠もないからあれだけど、そんなに気を張ってたら、身が持たないぞ。」
その言葉を聞いて、3人の緊張が僅かだが緩んだ。
「確かにそうね。ミュー。もう離れても大丈夫よ?」
ん?リーシュさんが妙なことを言っている気がするんですけど。
ミューが俺から離れる必要なんて全くないのだ。
「えっと、やっぱりトキヤさんの傍が安心できるので、もう少しこのままでいいですか?」
そう言って、ミューはさきほどより強く胸を…じゃなくて、体を押し付けてきた。その表情を見ると、さきほどまでの怯えの色はすっかり消え失せ、何やら楽しそうな顔になっていた。
「ミ、ミュー?そんなにくっついてたら、何かあった時、トキヤが対応できないんじゃないかしら?」
「そうですか?トキヤさんなら大丈夫だと思うんですけど……あの……トキヤさん。ご迷惑ですか?」
リーシュとやりとりしているミューの言葉を聞いて確信した。
この娘、絶対分かってやってるぞ!まぁ、リーシュはからかい甲斐があるところが可愛いから、仕方ないことなんだけどね。
「ちょっと!何ニヤついてんのよ!」
おっと。これ以上はマズイやつだ。そう思い、俺はミューを腕から引き剥がそうとした。
「トキヤさん……。」
猫耳上目遣いでこちらを見つめてくるという、アルティメットスキルを発動するミュー。
これに抗えるものなどあるだろうか。いや!ない!!
なんて馬鹿な事を考えていると、リーシュがとんでもない殺気を放った!俺は、瞬〇殺が来るのではないかと身構えた!
「あの……リーシュさんも反対の腕を組めばいいんじゃないですか?」
殺気が爆発する瞬間、リンドウからナイスアシストが入った。
ゴール前での絶妙なパスだ。ファンタジスタの称号を与えたい!
「リーシュ。ほら。おいで。」
俺は手招きしてリーシュを呼び寄せる。
リーシュは恥ずかしがりながらも、少しずつ近付いてきた。警戒している猫みたいだと思ったのはご愛敬だろう。




