トキヤ~異世界㉒方針決定~
「さて、話を戻そう。ギルサムさん。俺は、ステータスすを何倍にも強化する特殊なスキルを身につけてるんだ。」
俺は微妙に真実を曲げながら、ギルサムに向き合った。
「並の武器じゃ、俺の力には耐えられないんだ。それに、俺はこの力を使って目立ちたいわけじゃない。リーシュと、面白おかしく旅がしたいだけなんだよ。」
これについて、嘘は言っていない。
魔力強化も、突き詰めればステータス強化みたいなものなので、嘘にはならないだろう。
馬鹿正直に全てを教えてやる必要などまるで無いのだ。
ふとギルサムを見ると、俺の言葉を聞いて、何やら考え込んでいるようだ。
「分かった…。お主らに武具を作ってやろう。ただし、条件がある!」
「ジジイ。俺のステータス半分バラしといて条件とは、なかなかいい度胸じゃねーか。」
この期に及んで、ぐだぐだ言い出したギルサムを止めるため、俺は意識的に威圧を放ってみた。
そういえば、スキルに威圧がなかったんだけど、これはスキルじゃないのかな。
「うっ!?」
リンドウの時のように激昂しているわけではないので、効果はイマイチのようだ。だが、怯ませることはできたようで、ギルサムの額から汗が流れ出してきている。
「まぁ、そこまで渋るなら、俺の装備はもう必要ねーよ。その辺の装備でも十分だろ。リーシュ。お前ら3人だけ作ってもらえ。」
「え?」
リーシュたちは驚いた顔をしていたが、いい加減面倒になった俺は、自身の武具を諦めることにした。まぁ、レベルが上がって、ステータスが上昇すれば、ギルサムも気持ちよく作ってくれることだろう。
それに、魔力強化を施せば、大抵の相手なら、勝つことは難しくても、逃げ切るくらいはできそうだしな。
「ちょっ!ちょっと待て!作らんとは言っとらん!むしろ逆じゃ!儂に作らせてくれ!」
「は?」
急にギルサムの態度が変わった。あれだけぶーぶー言っていたのに、一体何があったんだか。
「儂が出す条件は、武器を使っているところを見せてもらいたいということじゃ。お主の速度や跳躍にも驚きじゃが、ほかにもきっと何かあるんじゃろう?その力を十全に生かすことのできる武具など、本来なら難易度が高すぎて断るところじゃが、儂ならば作れるやもしれん。」
そういうことか。
説明不足感は否めないが、要は、自分の持てる力を全て費やして、武具を作ってみたいということなのだろう。
それならば最初からそう言えばいいのだが、俺のステータスから、そういったことを想像出来なかったようだ。
まぁ、当たり前だな。
『今のレベルが10だってのは、言わないほうが良さそうだな……。』
俺のゲーム知識で言えば、レベル10のステータスはかなり低い。
上級職や転生なんかをしているならばあり得る数値だろうが、ギルサムの話からすると、そういったものは無いと判断するのが妥当だと思う。
「作ってくれるってんなら、俺に異存はないぜ。まぁ、ギルサムさんの作る武器を使いこなせるかは分かんねーけど、出来るだけ頑張ってみるよ。」
その後、俺タッチは自分の希望する武具のイメージを伝えた。
リーシュが推薦するだけあって、ギルサムの腕前は確かなようだ。
次々に要望を聞き入れてくれた。これは歓声が楽しみだ。
「さて、全て聞き終わったの。しかし、これだけの仕事じゃ。最低でも3か月はもらわんといかんじゃろうな。」
かなり長い。
それが第一の感想だ。
聖山ガルダジュアの詳しい場所が分からないから何とも言えないが、これだけ時間があれば、行って帰ってこれそうだ。
「そ、それでは困ります。もう少し早くできませんか?」
ミューが瞳に涙を浮かべている。リンドウも横で大きく頷いていた。
「職人のやることにケチをつけるでないわ。と言いたいところじゃが、お主らは何をそれほど急いでおるんじゃ?」
ギルサムの問いかけに、俺たちは顔を見合わせた。
特段隠す必要も無いが、当事者の代わりに話すことでもない。俺とリーシュは、二人に任せることにした。
「私から話しますね。」
そう言って、ミューはこれまでの経緯を説明した。
「なるほどのぅ。聖山ガルダジュアとはまた微妙じゃな。お主らのステータスでは突破できんこともないじゃろうが、苦戦は必至じゃな。儂の武具で力を底上げしたならば……いや、それでも微妙じゃな。」
「そんなに微妙なのか?」
この世界にそれほど詳しくない俺からすると、何がどう微妙なのかを知りたいのだが、ギルサムは腕を組んで唸るだけで、具体的に何が微妙なのかを答えようとしない。
「トキヤさんはご存知ないかもしれませんが、聖山ガルダジュアには、能力に特化した魔物が住み着いているんです。」
あー。なるほど。
ミューの説明を聞いて、俺はようやく理解できた。
特化型の魔物であるならば、こちらは全能力で上回って圧倒するか、パーティーメンバーで連携しながら倒していくかしかないのだ。しかし、ギルサムにとって、俺たちはそのどちらも微妙なラインなのだろう。
ミューも、話の続きで同じようなことを言っていた。
「でもさ、微妙だの何だの言ってる余裕は俺たちにはないんだよ。ギルサムさんさ、事情を聞いたところで、どうにかなるもんなのか?」
「うーむ。正直な話じゃが、もっと難易度の低い場所じゃったなら、期間を短縮した仮の装備でも構わなかったじゃろうが、聖山ガルダジュアとなると、しっかりと準備をしていきたいところじゃな。中途半端な武具を渡して、お主らが死んでしもうたら、それこそ寝覚めが悪いわい。」
言いたいことは分かるのだが、それだけの期間、何もしないというのも無理のある話だ。
「なぁ、ミュー。3か月の間、俺たちが何もしなかった場合、獣人たちの争いはどうなっていくと思う?」
宿屋でもレストランでも、この話がこんな事態になるとは思ってもいなかった。
だからこそ、俺たちに残されている時間が重要になってくる。
「正直分かりません。何かきっかけがあれば、すぐに戦争に突入するでしょうが、猫耳族は、熊耳族と違い、接触を最低限にとどめています。今の状況を父に伝えることが出来れば、2か月くらいは耐えられるかもしれません。」
なるほど。悪くない回答だ。ミューのこの答えを聞いて、とりあえず次の方針は決まった。
「リーシュ。まずはミューの父親に会いに行こう。俺たちが護衛につけば、このあたりの装備でもなんとかなるはずだ。」
俺はそう言って、棚に飾ってあった剣を手に取った。
造りはシンプルだが、真っすぐで綺麗な剣だ。
「それはいいけど、でも、せっかくこっちに逃げてきた2人をどうして戻すのよ?手紙なら、魔法でだって送れるじゃない。」
リーシュの答えはもっともだ。というか、魔法での通信手段があるのか。
こちらの世界の知識不足は慣れっこだったのだが、さすがにこの知識が無かったのは痛い。だが、今回はまだ誤魔化しがききそうだ。
「3人ともよく考えろ。敵の狙いはミューの首か?まぁ、獲れるにこしたことはないと思うが、本当の狙いは多分そこじゃない。狙いは、ミューを獣人族から遠ざけることだ。」
「どういうことですか?」
ミューが不思議そうに尋ねる。
「いいか?俺が熊耳族なら、ミューの首なんかどうでもいい。最大の目的は、ミューの父親を討ち取って、自分たちが長になることだ。そのためには、だらだらと戦力の削り合いなんてやってられないはずだ。熊耳族は、元来、力のある種族なんだろ?一気呵成に攻め立てれば、猫耳族なんてすぐに倒せるはずなんだ。」
「確かに……。」
獣人の日から関係など知る由もない俺は、名前のイメージからそれを想像して推理を組み立てていく。ミューは、俺の言葉を聞いて、しっかりと考えているようだ。リーシュとリンドウも俺の言葉を真剣に聞いてくれているようだ。
「じゃあさ、それをしないのは何故だ?力で押し切れるなら、最初から攻めた方が楽でいいだろ?」
「それは……父の力が凄まじいから……ですか?」
その可能性は捨てきれなかったが、ミューの疑問形の発言で、俺の中からその可能性が消え去った。
「違う。ミューの父親がどれだけ強くても、全方位から熊耳族が飛びかかってくればどうなる?」
「それは……さすがに長でも、後方からは対処できません。一撃や二撃はもらうかと……あっ!」
ミューの代わりに答えたリンドウは気付いたようだ。




