トキヤ~異世界⑲ドワーフ現る~
「獣神ってさ、どこにいるの?」
リーシュがさらっと聞いてくれた。これには内心で拍手喝采だ。
獣神の居場所がこの世界で割とポピュラーな場所だった場合、何で知らないの?みたいなことになりかねない。ん?いくらでも誤魔化しが効くって?
いやいや。俺は慎重なんだよ。
「獣神様は、聖山ガルダジュアにいらっしゃると聞いたことがあります。さきほども言いましたが、私はまだお会いしたことがないので、詳しい場所までは分かりません……。」
「まだ、ということは、獣人たちは獣神に会う機会が与えられるのか?」
俺は気になって尋ねてみた。
仮にも、神と崇められる存在だ。そんな簡単に会えてしまうとなると、なんだか価値が下がってしまう気がするんだけど……。
「ええ。各族長は、任命直後に一度だけ会うことができます。そこで、獣神様の加護と引き換えに、忠誠を誓う儀式が行われるそうです。」
ミューの話で、場所と会い方が分かった。
あとは、俺が獣神と話せるレベルなのかどうかなのだが……。
「まさかトキヤ。獣神に会う気じゃないわよね?」
リーシュがジト目で睨んでくる。
ミューとリンドウも、何か哀れなものを見る目で俺を見つめてきた。
ん?さっき説明したはずだけど、みんな忘れてんのかな?
「あぁ。獣神が説得したら、みんなも話くらい聞くだろ?」
その言葉を聞いて、3人は同時にため息をついた。
「あんたねぇ、聖山ガルダジュアのランクを知らないとかじゃないわよね?あの地域は、冒険者ランクBのパーティーでさえギリギリなのよ。そんなところを、急造パーティーの私たちが抜けられるわけないでしょうに。」
なるほど。
聖山ガルダジュアはランクBか。しかし、無知とは恐ろしいな。
常識でしょ?みたいな言われ方をするとドキッとする。
まぁ、今回は有益な情報が聞けたので結果オーライなんだけどな。
「それは分かってるよ。けど、このメンバーなら、連携さえなんとかすれば突破できると思うんだよ。前衛のリンドウに、中衛のリーシュ。ミューは後衛で、俺が全部のカバーに入ればバランスいいんじゃないか?」
さも、知ってましたけど何か?みたいな話し方をする。
こういう言い方をしてしまえば、相手はこちらをあまり疑わない。しかし、聖山ガルダジュアのランクが思ったより低くて助かった。
ゴブリンナイトでCランクだったんだ。
そこから考えると、Bランクの敵くらいなら問題ないだろう。これがAランクだとか、いるかも分からないSランクなんてものになると、途端に超えられない壁が姿を現すからな。
「あ、あと、レベリングするなら、ちょっと強めの方が、経験知が美味いだろ?」
それを聞いた3人は、デザートを前にして盛大にため息をついていた。
俺ってそんなにおかしいこと言ってるかな。
そこから、装備を整えるという話になり、俺たちは店を後にして、この街で有名な鍛冶師の店に入った。
「ここはかなり有名なのよ。すいませーん。ギルサムさーん!」
リーシュの声が店内に響く。
しかし、有名だというのに店内に客の姿はなかった。
『見るからに強そうな武具だな。それに店内の様子からすると……』
俺はこの状況から、奥から出てくる人物についてアタリがついた。
間違いなく髭もじゃのドワーフだ。この世界は、相変わらずラノベの常識を外さないのだ。
「なんじゃ。騒がしいと思ったら、エルフの小娘じゃないか。今日は一体何の用じゃ?」
店の奥から現れたのは、俺の予想通りのドワーフだった。
あまりのベタな展開に、思わず口の端が緩む。
「ん?小僧。何を笑っておる?」
「いや、雰囲気を見て、スゲー職人だなって思ってさ。嬉しくなっちまったんだよ。あんたになら、俺らの命を預けられそうだ。」
俺がそう言うと同時に、リーシュが横で頭を抱えていた。
最近、頭を抱えていることが多い気がするけど、俺のせいじゃないよな。
あと、さきほどの台詞は、半分嘘で半分は本当だ。
ベタ展開に笑ってしまうと同時に、第六感というか何というか、そういったものが働いた結果の台詞だったのだ。地球では、そういったことはなかったのだが、やはりこれも勇者補正のなせる業なのだろうか。
「はっはっは!随分と生意気な小僧じゃな!で、この小僧は何者なんじゃ?」
俺の知っている知識のドワーフならば、これくらい豪胆な方が良いのではないかと思ったが、どうやら正解だったようだ。
「ご、ごめんなさいギルサムさん!えっと、この人たちと、これからパーティーを組むことになったんです。順番に、トキヤ、ミュー、リンドウです。」
俺たちは名前を呼ばれた時に、それぞれ軽く頭を下げた。
「ほぅ。あの小娘がいっぱしにパーティーを組むか。それほどまでに信の置けるメンバーなんじゃな?」
ギルサムと呼ばれたドワーフの問いに、リーシュは黙って頷いた。
「なるほどのぅ。それで?儂への依頼は、武器か?防具か?」
「全部です。」
リーシュの返事に、ギルサムの雰囲気が明らかに変わった。
「言いよるな小娘。儂が弱き者には何も作らんということは知っておるじゃろう。それとも何か?こやつらは、わしに槌を振るわせるほどの実力があるということか?」
その圧倒的な威圧感に、一瞬だがリーシュが怯む。
ミューとリンドウも、言葉が出ないようだ。
戦闘職でもないのに、これほどの威圧を放つことが出来るとは驚きだ。
「あんたに実力を認めさせるにはどうすりゃいいんだ?」
この威圧をもろともせず、俺はギルサムに問いかけた。
「ほぅ。儂の威圧に耐えるか。それに後ろの二人もじゃ。へたり込むかと思うたが、なかなかやりよる。そこのエルフの小娘など、最初は小便を漏らしてしもうてな。片付けが大変……」
「うわぁー!」
話の途中で、リーシュのインターセプトが入った。
ギルサムの威圧は、話が進むにつれて緩められていったのだが、それでも訓練を積んでいなければ、声を出すことは難しかっただろう。
やるなリーシュ。
だが、お漏らしの件については、あとでしっかりと聞いておこう。
ミューとリンドウに関しては、俺の威圧を受けたせいか、耐性がついていたようだ。
俺のおかげだな。
「俺らには目的があるんだよ。そのためには、ここで装備を整える必要があるんだ。実力を示せって言うのなら戦うし、何か取って来いってのなら、早くその場所を教えてくれ。」
ゲーム知識のある俺から言わせてもらうと、今回は、どちらかのイベントになるだろうと思っていた。この街が序盤の街ならば、周辺の敵もそれほど強くない。
素材集めなら余裕だろう。
実力を示すにしても、ハゲーン程度なら大丈夫だ。
「なんじゃそれは?儂はそんなことを求めたりはせん。儂が認めた者には作ってやるとも。なーに。簡単じゃ。お主のステータスを見せてみぃ。」
そう言って、ギルサムは棚から板を取り出した。
「は?」
これには、さすがの俺もかなり驚かされた。
まさか相手のステータスで判断するとは思わなかったのだ。
それにしても迷うところだ。今まで、他人のステータスを見ていない俺だが、基本的に俺のステータスはチートだと思う。
そんなステータスを、おいそれと見せてしまっていいものか……。
英雄として祀り上げられるくらいならまだいいが、何者だ?なんてことになったら面倒だ。こっちは命がかかってるんだ。
こんな所で死ぬなんてまっぴらごめんだからな。
『仕方ない。リーシュの顔を潰すことになるが、ここは諦めて……』
「まずはエルフの小娘からじゃ。久々じゃから測ってやろう。ほれ。あっちの部屋で測ってこい。」
諦めかけたその時、ギルサムの言葉に、俺は天啓を得た。
有名バスケ漫画の先生も言っていたではないか。諦めたらそこで試合終了だと。そんなことを考えている間に、リーシュが測定盤を手に、別室へと入っていった。
「別室で測るのか?」
俺の問いに、ギルサムが強く頷いた。
「当たり前じゃ。ステータスやスキルは冒険者の命。儂がそれをおいそれと見るわけにはいかん。儂が知りたいのはスキルではなく、基礎ステータスの『力』『素早さ』『体力』だけじゃ。その数値を教えてくれれば、それに見合った性能の武具を作ってやるわい。まぁ、一定以上の数値でなくば、儂は武具を作らんがな。」
俺はほっと胸をなでおろした。別室で測るのであれば、いくらでも誤魔化しがきく。
特に問題はないだろう。
むしろ、ステータスを確認する良い機会だ。
そんなことを考えていると、ステータスを測り終えたリーシュが戻ってきた。




