トキヤ~異世界⑱異世界での一息~
「いや……リーシュってエルフじゃん。エルフって菜食主義とかなんじゃないのかなって。」
そんな俺の返答に対して、3人が大きくため息をついた。
その表情に、さきほどの緊張はなかったが、いまさら何を言っているんだという感じが強く込められていた。
「あのね。確かに、そういう感覚のエルフもいるけど、全部がそうじゃないの。私も一時期は菜食主義だったけど、冒険者を始めてからはエネルギーをとらないといけないくなって、お肉なんかも普通に食べるようになったわよ。」
呆れながらも、リーシュは丁寧に教えてくれた。
なるほど。食べれないわけではないのか。
ラノベの知識がありすぎるせいか、細かな部分で食い違うところが出てきた場合、気をつけなければならないだろうなと、俺は改めて気を引き締めた。
「はぁ……。トキヤの様子からして、敵でも来たんじゃないかって、緊張しちゃったわよ。」
「はい。私もです。」
ミューの横では、リンドウも頷いていた。
どうやら三人とも、追っ手が現れたのではないかと勘違いしていたようだ。勘違いするところなんてなかった気がするのだが、なんだかんだと、神経が過敏になっているのだろう。
「あぁ、ごめんごめん。」
俺はとりあえず謝っておくことにした。
何者かの視線をずっと感じてはいるのだが、それについては言わないことにした。
美味しい食事の前に、わざわざ不安にさせる必要もないだろうしな。
『さすがに食事中に襲ってはこないだろう。でもなぁ…そろそろ鬱陶しくなってきたな。』
女の子3人が、いつの間にか手にしたメニューを見てはしゃいでいた。
『ミューを囮にして……駄目だな。守れないわけじゃないけど、気分的に良くないな。宿屋 におびき出すのもなー。何か壊しちゃっても、弁償とかできないし。って!よく考えたら、俺って無一文じゃん!』
追跡者らしき視線への対応を考えている途中で、俺はとんでもなく重大なことに気がつき、慌ててリーシュの肩をたたく。
「な、なぁ。俺さ、森で財布落としちゃったじゃん?」
「え、ええ。だから何よ?」
俺は、何事かと驚くリーシュの耳元で囁いた。
「それでさ、俺って今、無一文なんですよねー……って。」
女の子と食事に来て、お金がありませんというのは、男としてかなり情けない。
穴があったら入りたいくらいだ。
「あぁ、そんなことね。いいわよ。命も助けてもらったし。そ、それに!あなたとはこれからずっと一緒にいるわけなんだから、しっかり働いて稼いでよね!」
「あぁ、分かった……って!えぇ!!」
リーシュさんから、まさかの受け入れ宣言が飛び出した。
そんな俺らのやりとりが気になったのか、ミューとリンドウが不思議そうにこちらを見ている。
「お二人とも、どうされたんですか?」
「な、何でもないわよ。」
ミューの問いかけに対し、動揺を隠しきれていないリーシュ。またしても、耳まで真っ赤なエルフが現れた瞬間だった。
これは、今夜はかなり熱い夜になりそうだ。
「ト、トキヤさん?」
リンドウが不思議そうな顔で俺を見ていた。
おっと。もしかしたら顔が緩んでいたのかもしれないな。
気をつけねば。
「お次、4名でお待ちのお客様どうぞー!」
そうこうしているうちに順番がきたようだ。残念ながら、俺たちを席に案内してくれたのは人間のおばさんだった。ラノベ展開ならば、ここは幼女系の看板娘が登場するところだろうに。
そんな店内は、俺の予想に反してアジアンテイストなものとなっていた。
街並みに合わせたヨーロピアンなものを期待したのだが……。
さらに、メニューを見てもどんな料理かの見当がつかなかった。とりあえず、リーシュのオススメをということでその場はやり過ごせたが、やはりこの世界の常識がないのは厳しいものがある。
どこでバレるか分からないから、内心はヒヤヒヤだ。
「お待たせしました~。」
リーシュたちが、メニューを見ながらデザートはどうだこうだと言っていると、食事が運ばれてきた。
「こちら、クリームサラダの盛り合わせに、グロウドラゴンのステーキと、ホロホロ鳥のオムレツ。それと、エクストラチーズのピザを、それぞれ三人前です。あと、こちらエールになります。」
聞いたことのない食材を使った料理が次々に置かれていく。
前世でも見たことのある料理も並んでいたが、驚くべきはその量だ。
「美味しそうだけど……これで3人前?」
明らかに3人前を上回る量だ。
「ここはね、安い、美味い、多いってのがウリなのよ。それと、ここのエールは他と違って美味しいのよ。」
このエルフは酒まで飲むのかとも思ったが、中世くらいでは小学生でも飲んでいたくらいだからな。
この世界でも、飲み水の代わりなのかもしれない。実際に、この店では飲料水の提供はなかったので、俺の読みは当たっていたのだろう。
変に尋ねなくてよかった。
その後、看板娘の登場もないまま、俺たちは料理に舌鼓をうった。
「んー!美味しー!」
「確かに美味しいです!木苺の酸味がアクセントになってますね!」
食事の後、デザートに突入した3人は、注文したケーキの感想を伝えあっていた。
デザートは別腹だという言葉は知っているが、あれほどの量を食べた後に、デザートを食べることができるというのはやはり凄い。まぁ、日本でも大食いタレントなんて人がいるくらいだから、こちらの世界でも、そんな人がいてもおかしくはないだろう。
「トキヤは食べないの?」
リーシュが勧めてくれるが、すでに俺のお腹は満腹だ。
「あ、あぁ……。もうお腹がいっぱいで入らないんだ。それよりミュー。獣人族って、神格 化しているものとか、祀っているものってないのか?」
俺のこの質問から、ようやく作戦会議らしきものが始まった。
「神格化……ですか?えっと、それぞれの部族に、『始祖』と呼ばれる神様がいらっしゃいます。あと、それらを束ね、部族として我々をお導きくださった獣神様がいらっしゃいます。」
『なるほど。獣神ときたか。確か、配合を繰り返しまくったらできるんだったっけ……って、それは神獣だな。』
思考が逸れまくっている俺に、リーシュが声をかけてきた。
「そんなこと聞いてどうするのよ?」
「ん?いや、言うこと聞かないなら、言うことを聞かせられる人に説得してもらおうと思ってさ。けど、始祖やら獣神やらってのは、もう生きてなさそうだな。」
残念そうに俺は言ったが、実のところ、そんなことは微塵も思っていなかった。俺
のラノベ知識では、こういった連中は必ず生きている。そして、なんらかの影響を一族に与え続けているはずなのだ。
「え?獣神様でしたら御存命ですよ。と言っても、私はまだお会いしたことはありませんが……。」
ほらな。
俺は内心でガッツポーズをした。
これで、作戦の八割は決定打だ。
残る2割は、獣神の場所と、俺のレベル問題を解決すれば大丈夫なはずだ。




