トキヤ~異世界⑯新イベント勃発~
ところ変わって、現在、俺たち4人はリーシュの部屋にいる。
位置関係としては、リーシュと俺がベッドに座り、バスローブ姿のミューとリンドウは床に正座している。
なぜバスローブなのかと言うと、ここに来た時、2人は汗やら涙やらお漏らしやらで、とても話などできる状態ではなかったのだ。とりあえず、リーシュは2人を無理やり風呂に押し込み、身に着けていたものは全て宿の選択係に渡してしまったのだ。
ついでに俺も、戦闘でボロと化した服を脱ぎ捨て、リーシュの予備装備のマントを貸してもらっている。
冒険者として、そこそこの稼ぎを叩き出しているリーシュの宿は、かなりランクが高い。
さらに、部屋は1LDKと広く、4人が入ってもまだまだ余裕があった。ただ、クイーンサイズのベッドしかないので、4人で眠るとなると、かなり狭いだろうな。
ん?どうしてこんな状況になったかだって?
それを語るには、話を戻さなければならないだろう。しかし、面倒なので割愛だ。
どうせ、話の中で語られるだろうしな。
それよりも、俺が一番気になるのは、正座しているリンドウの胸の谷間だ。
下着も洗濯に出しているので、ノーパン、ノーブラなはずだ。
そんなことも考えると、大きさ的に言ってもDはある気がするんだが……。
「あの……手を治していただいて、ありがとうございました。」
フードを脱いであらわになった兎耳を力なくヘタらせているリンドウが、何度目ともなる感謝を告げた。
実はあの後、リーシュの宿に着くまでに、俺が治してしまったのだ。
骨の構成やら何やらが全く分からなかったため、『通常の状態』をイメージして、過剰なほどの魔力を注ぎ込んでみたのだ。
結果は上々で、リンドウの手は、以前と同じ状態に戻った。
俺は、改めて魔法の便利さを実感した瞬間だった。
それにしても、変身魔法を解いたリンドウといい、瓶底メガネを外したミューといい、二人ともかなりの美少女だ。
リンドウは、陸上が似合いそうな、健康美溢れる美少女。
それに対して、ミューは深窓の令嬢とでもいったところだろうか。
ん?想像しにくい?それはあれだ。
俺の表現力の問題だろう。
ぶっちゃけた話、妹クラスの美人に出会うことなど、前の世界ではあり得なかったのだ。リーシュにしてもミューにしてもリンドウにしても、この世界で出会う女の子は、とりあえず美人すぎる。
まぁ、この三人については、相当腕の立つ絵師が現れることに期待しよう。
「いいよ。ぐちゃぐちゃにしたのは俺だし。こっちが誤るべきことだよ。ごめんね。」
「いいえ!もとはといえば、私がリーシュさんを攻撃したのが原因です!むしろ、止めに入っていただいて助かりました……。」
そう言って俯いてしまった健康美溢れる痩身の『美少女』を前にして、俺は慌てて言葉を被せた。
「それでも、俺が女の子…まして、リンドウみたいな可愛い子を傷つけたことに変わりはない。まぁ、どうしても納得できないのなら、今回はお互いが悪かったってことでどう?」
「トキヤさん……。」
俺を見つめるリンドウの瞳には涙が溜まっていた。
兎耳もピンと立ったまま震えている。
それにしても、リンドウの顔が心なしか上気している気がするのだが……。
「うおっほん!」
咳払いを聞いたリンドウが固まり、兎耳も然萎れてしまった。
『お、リーシュのインターセプトが入ったな。誰かと良い雰囲気を出すとこうなるわけか。』
リーシュの心はもはや俺に向いているだろう。
前の世界であれば、こんな調子に乗った考えはしなかったが、勇者補正のなせる業なのだろうか。
今ならば、間違いないと確信できる。
「トキヤの回復魔法については、別の機会に追及するとしても、リンドウの変身魔法なんて変わった魔法よね。どこで身につけたのかも気になるけど、なんでそんな魔法を使ってたのよ?」
そう。リンドウはまさかの変身魔法の使い手だったのだ。
あの時、気を失うと同時に、魔法が解除されたのだ。というか、やっぱり俺の回復魔法も追及されるのか……。
どう誤魔化すかな。
「えっと……魔法は私の固有スキルなので、どこで身につけたかと聞かれても困るのですが……。変身していた理由は……その……」
リンドウは何やら言いにくそうにしているが、俺はその理由に見当がついていた。
この頭の冴えっぷりは、ラノベ知識と、勇者補正の為せる業だと思う。
「リーシュ。リンドウに武器を向けられる直前、何か言いかけただろ?多分、それが原因なはずだ。」
それを聞いたリンドウとミューの肩が僅かだが震えた。
「二人とも大丈夫だ。俺たちはただの冒険者。二人を狙う理由がないよ。」
あくまで予想でしかなかったのだが、俺は二人のリアクションを見て確信する。
それを分かった上で、二人が安心する言葉をかけてやったのだ。
「ありがとうございます……。」
ミューの声に力は入っていなかったが、明らかにホッとした様子の二人。
リンドウが敗れてしまった時点で、生殺与奪の権利は俺に委ねられていたため、いつ殺されるか分からないという状況から脱して、緊張が解けたのだろう。
「あの時は確か……ミューって名前に聞き覚えがあって……。獣人族のお姫様と同じ名前だなぁって……まさか……」
どうやら、リーシュも答えにたどり着いたようだ。
驚いたように2人を見る。
どうやら、俺の予想も正解だったようだ。まぁ、俺は猫耳族のお姫様くらいにしか思ってなかったんだけどね。
まさか、獣人族のお姫様とはびっくりだ。
などと考えていると、リーシュが沈痛な面持ちで話し始めた。
「お察しの通り、私は獣人族の代表である、ゼオンの娘です。そんな私が、このリンドウと共になぜこんな所にいるかと言うと……」
「ストップ!」
何やら面倒なイベントフラグをたてられそうだったので、俺は慌てて止めに入った。
なぜ止められたか分からないという表情のミューをよそに、俺はリーシュに尋ねる。
「リーシュ。この話を聞くと、獣人族のイザコザに巻き込まれる可能性が高い。それでも聞くか?」
「うーん。確かに、獣人族が揉めてるって噂は聞いたことあるけど……というか、何で私たちが巻き込まれるのよ?」
質問で返されてしまったが、『お約束』というものを知らなければ当然の疑問だろう。
仕方ないか。
今回は諦めて、このイベントを進めるか。まぁ、ミューもリンドウも美人だから、恩を売っておいて損はあるまい。
「じゃあ、とりあえず話を聞いてみようか。リーシュも、ミューの話を聞けば、俺が言った意味があると思うぞ。」
そう言って、俺はミューに続きを話すように促した。
「あ、はい。えっとですね。私たちがこんな所にいる理由からですが、それは我々、獣人族の内乱が原因なのです。」
『あー……やっぱな。』
俺は内心でため息をついた。
「獣人族は、強さこそが全てにおいて優先されるという種族です。その代表者は、各部族の代表者による決闘で決められてきました。しかし、父であるゼオンは、今のやり方に疑問を抱いておりました。
『全てが力で解決する時代は終わった』
これが父の口癖なのです。そんな父が、次代の代表は、各部族の代表者が集まって、話し合いで決めようと提案したのです。」
なるほどな。ミューの父親はかなり優秀なようだ。しかし、今まで、力ですべてを手に入れてきた連中が、急に考え方を変えて生きろと言われても、そんなことはまず不可能だろう。となると、行き着く先は決まっている。
「各部族の代表が、その提案を受け入れることはありませんでした。しかし、兎耳族だけは、父の提案を受け入れたのです。」
「で、兎耳族が攻撃されたと。その部族ってさ、もともと非力な部族だったんじゃないのか?」
アニメになると、回想シーンまで入りそうなくらいに長くなりそうだったので、俺は結論を先に言ってやった。
「はい……。」
結論を言われたにも関わらず、ミューに驚いた様子は見られなかった。
どうやら、獣人族の内乱は周知の事実なのだろう。




