トキヤ~異世界⑮突然の戦闘~
『ガキン!』
「よう。優男。駆け出しとは思えない速度だな。」
なんと、リーシュが何かを言い終わる前に、リンドウがリーシュに対して斬りかかってきたのだ。
攻撃速度もさることながら、攻撃してきた武器もなかなか凶悪だ。
そして何より、リンドウの攻撃は、確実にリーシュの首をはね飛ばすコースをとっていたのだ。
しかし、勇者補正のおかげか、俺はリンドウの放つ殺気に反応して、リーシュの腰から武器を拝借し、2人の間に滑り込むことに成功したのだ。だが、ゴブリンたちとの戦闘でレベルが上がっていなければ、ここまで上手くはいかなかっただろう。下手をすれば、リーシュは死んでいた。
俺は、リーシュを失ってしまうのではないかという恐怖と、それをしようとした相手への怒りに、手加減をしなければならないことを、すっかりと忘れてしまっていた。
「おいおい。駆け出しが持つにしては見るからに強そうな短剣じゃねぇか。まぁ、そんなことはどうでもいい。お前、リーシュを殺そうとしたよな?」
逃げられないように、武器を持つリンドウの手を掴む。
それと同時に、手の骨が砕ける音がした。
よほどの痛みだったのか、リンドウの顔はすでに蒼白で、涙やら鼻水やらで大変なことになっていた。
「答える気はねぇか?まぁいい。とりあえず、死んどけな?」
そう言うと同時に、俺は手にした武器をリンドウの心臓に突き刺そうとした。
「お、お待ちください!」
ミューが叫んだのは、切っ先がリンドウに触れる直前だった。いや、ちょっと刺さってたかもしれない。後々思い返した時、よく止まったなと感心したほどだ。
「何?」
この時、俺は持てる優しさの全てで尋ねたつもりだったのだが、ミューにはそれが伝わらなかったようだ。
その証拠に、ミューの股からは、液体が流れ出していた。
「ひぅっ!ま、まずは、私たちのひ、非礼を、お、お許しいただけませんでしょうか……?」
声もそうだが、ミュー自身も、今にもへたり込んでしまいそうなくらいに震えていた。
ケモミミもペタンと伏せられてしまっている。
場面的にはシリアスなのだが、俺は、将来有望なメガネの女の子が、震えながらお漏らしする光景に対して、グッとくるものがあった。
俺は自身の新しい一面を知れたことに密かに感動したのだが、そこは、今は置いておこう。
「何で?俺の大事な人さ、殺されかけたんだけど?」
自分の言葉で、さらなる怒りが込み上げてきた。リンドウを掴んでいた手に、さらに力が入る。
「あ……あ……」
ついに、リンドウは立っていられなくなり、その場にへたりこんでしまった。
「トキヤ!」
次の瞬間、自分の名を呼ぶ愛しい声とともに、背中に柔らかい感触を感じた。
「ちょっ!まずはその威圧を解いて!向けられた二人がショック死しちゃうから!」
「ん?威圧?」
リーシュの声に、少し冷静さを取り戻すことが出来た俺は、ゆっくりと周り見た。
足元には放心したリンドウ。
その向こうには震えるケモミミ少女のミュー。
そして、それらを囲む野次馬たち。
「そう!威圧!どうやってんのか知らないけど、二人にだけ向いてるから!私の事なら大丈夫だから、早く解いてあげて!」
「じゃあ、今日は朝まで一緒のベッドで寝てくれる?」
「分かったから!って、え!?」
よし。言質はとったな。
俺はニヤリと笑いながら、とりあえず気を鎮めていく。しかし、ぶっちゃけた話、威圧をしていた感覚がないので、どうやって解除していいか分からなかった。とりあえず、俺は今晩、リーシュと行われるだろう夜の戦闘を想像する。
「むふふ……。」
すると、リンドウが気を失い、ミューがその場にへたり込んだ。無事に威圧が解かれたのだろう。
「だ、大丈夫!?」
リーシュがミューのもとに駆け寄る。俺は掴んでいたリンドウの腕を放り投げた。
「は、はい……。申し訳ありませんでした。本当に…申し訳ありませんでした……。」
下を向いたまま謝罪を繰り返すミュー。
「それは今はいいから!とりあえず、ここじゃ話にならないから、私の泊まっている宿へ行きましょう。トキヤ!リンドウさんを運んで!」
俺に指示を出して、リーシュはミューを抱き上げた。
さすが冒険者だ。
小柄とは言え、人を一人抱えるとは、相当な力持ちである。
「えー。」
「えー。じゃない!ほら!早くして!」
先ほど殺されそうになった相手を介抱するのは、どうなんだろうと思わなくもないが、こういう切り替えの早さも、リーシュの良いところなのかもしれない。
俺は、そう思いながら地面に転がっているリンドウを持ち上げた。
むにゅ
「ん??」
米俵を担ぐように、荒く持ち上げたその背中に、どこかで感じたような素敵な感触があった。
『まさか……』
俺は慌ててリンドウを抱き直した。いわゆる、お姫様抱っこだ。
むにゅ
むにゅ
右手に伝わる素晴らしい感触が、疑いない事実を俺に突き付けた。
『げー!!女の子だ!!しかも…結構なボリュームだ!!』
あわあわと慌てふためく俺を見て、不思議そうにリーシュが近寄ってきた。
「どうしたのよ?あー……。この手はもう戻らないかもしれないわね。」
リーシュはお腹の上に置かれていたリンドウの手の状態を見た。
『良かった……。そっちに目がいったんだ。じゃなくて!ヤバい、ヤバいぞ!女の子にメチャクチャしてしまった!』
リンドウの右手の状態を告げられた俺の混乱ぶりは、前の世界で、妹である理沙の着替えを覗いてしまうというラッキースケベに次ぐ、二番目だと断言できる。
ちなみに、覗かれた理沙が、一週間ほど口を聞いてくれなかったときは、本気で死のうかと考えたほどだ。
「とにかくこっちよ。ちょっと!そこのあなたたち!ここに転がっている戦士を片付けといてね!」
野次馬たちにスキンヘッドの処理を任せ、リーシュは歩き出した。




