トキヤ~異世界⑭異世界の獣?~
「へー。もっとボロい街を想像してたけど、案外普通じゃないか。」
俺たちは、とりあえずリーシュの宿へと向かっているのだが、煉瓦造りの家が建ち並ぶ街並みを見て、俺は認識を改めた。
露店も多く出店しており、なかなかの活気だ。人々の表情も、安定した暮らしのおかげか、柔らかいものになっている。
「この街はね、ルーキーから中堅の冒険者が拠点にしてるのよ。街道がしっかり整備されてるおかげで、辺りの敵はそんなに強くないんだけど、あの森があるじゃない?」
確かに、あの森で手に入る資源は多い。しかも、森の奥は深そうだし、まだまだ未開の場所も十分にありそうだ。
それを目当てに集まるということは、あの森で手に入る品々は、良い値段で取引されているのだろう。
そんなことを考えていると、リーシュが言葉を続けた。
「きちんと対処できれば、ソロでも結構いけるのよ。ちゃんとしたパーティーさえ組めるのなら、それこそかなりの稼ぎが見込めるわ。」
安全ラインを確保しながら、金とレベルの両方を稼ぐことが出来るなら、そこそこ美味しい狩場なのだろう。
『俺もしばらくはここで稼ぐか?いや、そんなことしなくても、チートステータスなんだから、リーシュについて行っても……』
そんなことを考えていると、突然怒鳴り声が聞こえてきた。
「バカヤロー!どこに目をつけてやがんだ!」
罵声と共に、扉から勢いよく人が吹き飛んできた。
フード付きのローブを纏ってはいるが、顔立ちには、まだ幼さが残っている。
装備品も駆け出しと断言して差し支えないだろう。まぁ、ぼろ布を纏っているだけの俺に、そんなこと言われたくはないだろうが…。
「だ、だ、大丈夫!?」
後を追うように駆け出してきたのは…
『ケ、ケモミミ!しかもメガネ!!』
ケモミミに出会えた衝撃で、なぜかメガネにまで反応してしまった。
目の前のケモミミ少女は、長い髪を三つ編みにしており、牛乳ビンの底のようなメガネと相まって、なんとも地味な印象を与えている。しかも貧乳だ……。こちらも、装備品は駆け出しと変わらないレベルだ。
「ここはお前らみたいな駆け出しが来るような場所じゃねぇんだよ!」
扉から出てきたのは、スキンヘッドの戦士だった。
ハゲーンといいこいつといい、スキンヘッドがブームなのかと疑問に思っていると、吹き飛ばされたフードが話し出した。
「ここは酒場だろ?金さえ払えばメシが食えるんじゃないのか?」
声質から言って、きっと男だろう。
それにしても、なるほど、なるほど。
なんとなく話が読めた。となると、こいつの次のセリフは…。
「はっ!ヒヨッコなんかに出すもんなんかねぇよ!家に帰って、ママのオッパイでもしゃぶってな!」
だよな。
この世界に来て、何度目かのテンプレ展開だ。
その全てが予想を裏切らないので、見ているこちらとしても楽しくなってくる。
「ねぇ。なんで頷いてるのよ。」
一人で納得して頷いていると、リーシュが尋ねてきた。おっと。変に思われたかな。
「いや、これならどうなるのかなと思ってさ。助けに入るべき?」
目の前で人が痛めつけられるシーンを見るのは、日本人の感覚からしてやはり嫌なものだ。これが、一方的なものになるのであれば、やはり止めに入るべきだろう。
「どうだろ?こういうのは日常だから、またかって感じだし…。」
確かに、通行人なんかは足を止めずに歩いている。
今、ここに集まっているのは、酒場から出てきた酔っ払いばかりだ。
「じゃあ、助けても問題なしだな。」
「え?」
俺は、リーシュの返事とほぼ同時に、指先に練り上げていた小石ほどの大きさの魔力の塊を指で弾いた。
『パァン!』
小気味いい音がした後、スキンヘッドが力なく崩れ落ちた。
「「「!?」」」
フードを被った男と、横にいる貧乳ケモミミ、さらにリーシュも驚いていた。
「ねぇ。何かした?」
さすがのリーシュも気が付かなかったか。だが、俺が何かしたのかとは疑っているようだ。
「ん?助けに行こうとしたら、スキンヘッドが勝手に倒れたんだ。何が起こったんだろうな。」
適当に返事をする。
さきほどくらいの小技なら、どこかの誰かが使えても不思議はないのだが、念には念だ。
リーシュにしても、疑ってはいるが、まさか魔力の塊を撃ちだしたとは思うまい。
「それより、あの二人に声をかけてみようぜ。」
そう言って、俺はリーシュの意識を二人に向けさせた。その二人というと、突然倒れたスキンヘッドを前にして、どうしたらいいのか分からないという顔をしていた。
「大丈夫か?」
フード男に手を差し出しながら尋ねた。
「あ、あぁ、すまない。さっきのは君が?」
フード男は、未だ状況が掴めないようで、困惑の表情を浮かべていた。
「いんや。助けに入ろうとしていたのは間違いないんだけど、いざ突入って瞬間に倒れちまったんだ。どうしたんだろうな?」
俺は、差し出した手を掴むように促した。
「あの!ありがとうございました!」
「うぉっ!」
背後からの大声に、つい声が出てしまった。
顔だけ振り向くと、そこにはさきほどのケモミミ少女がいた。
見た目はかなり地味だが、近くで見ると違った印象を持った。
『以外にも小顔だな。それに、鼻筋もキレイに通っている。声の質も高めだし、聞いていてなかなか心地いい、透き通った声だな。もしかして、メガネを外したらかなり可愛いんじゃないか……。』
とりあえず、フード男を立たせ、背中の埃を払ってやる。
「さっきも言ったけど、俺が実際に何かしたわけじゃないし。そこのスキンヘッドはいきなり倒れただろ?世の中には不思議なことがあるんだな。」
「そ、それでも!お礼を言わせてください!」
なかなか頑固だが、こちらも頑なにお礼を受け取らない理由はないので、一応受け取っておく。
「それじゃあ……どういたしまして。」
そう答えると、ケモミミ少女は花が咲いたように笑顔になった。これは、メガネを外せば絶対にイケると確信する。
「ねぇ。何を見惚れてるのよ。」
おっと。リーシュさんを忘れていた。モテる男はつらいね。
「何?ヤキモチ?」
俺はリーシュの手をとって抱きしめた。さらに、オマケとばかりに、頬にキスをする。
「ばっ!馬鹿じゃないの!人が見てるじゃない!」
「人が見ていない所ならいいと?」
「そ!そんなこと言ってないわよ!」
一瞬で桃色空間の完成だ。
リーシュはからかい甲斐がありすぎて、可愛さが天元を突破しているな。
そんなやり取りを終えて、フード男とケモミミ少女に目をやると、二人はこの状況についてこれていない様子だった。
「おーい。大丈夫か?」
呆けている二人に声をかける。
「あ、あぁ。その……なんというか、仲が良いんだな。」
「仲良くなんかないわよ!」
フード男の言葉に対して、被せるように反論するリーシュ。
言葉とは裏腹に、照れているだけだということは分かっているので、今回は放っておこう。
「仲良しなのは当たり前だとして、吹き飛ばされた時の話と、装備品から見ても、君たちが駆け出しの冒険者だと分かるんだけど……。君たちはパーティーか?」
ぼろ布を纏っただけの俺が、相手の装備うんぬんというのはどうかと思うが、俺の問いにケモミミ少女が答える。
「あ、はい!私たちはこの街で冒険者になったばかりです。この子は……いえ、この人は昔からの知り合いなんです。あ、失礼しました。助けていただいたのに、名前も名乗らないなんて。私は、猫耳族のミューと申します。こっちが、リンドウです。」
「さきほどは助かった。」
ミューと名乗る礼儀正しく可憐な猫耳少女と、リンドウという名の不愛想で雰囲気のあるフード男。
フード男のほうはさておき、将来性抜群のミューちゃんとは是非仲良くなっておきたいところだ。
「猫耳族のミュー……。」
リーシュが何かを思い出すかのように呟いた。
「ん?どした?そんな敵を確認するような呟きをしなくても、俺はリーシュを愛してるぞ。」
「馬鹿。そうじゃないわよ。ミューって名前…どっかで聞いたことある名前だなって……。」
リーシュの可愛らしいリアクションを期待したのだが、どうやら、真剣に考えている時は、リアクションが薄くなるようだ。
「あ!思い出した!ミューって、あの……」




