リサ~異世界㊳覚醒の瞬間~
~リサ~
ハーピィーさんたちが戦う戦場から少し離れた位置で、私たちは戦況を見守っていた。と言っても、距離があるせいで、人間である私には細かな戦況はよく見えてはいない。メタきちさんが実況してくれるからこそ、だいたいの内容を掴めているだけなのだ。
「よし。ハーピィーの初撃は成功だ。あとはあいつらが上手くやってくれれば……ん?」
「どうしたんですか?」
どうやら、メタきちさんが何かに引っかかったようだ。
「いや……あいつ……何で魔法を撃たねぇ……あ?何でハーピィーの2発目がこんなに早く……」
その呟きを聞く限り、どうやら、悪魔さんの横っ腹への攻撃を待たずして、ハーピィーさんが2発目の魔法を放ったようだ。メタきちさんは不審に思っているようだが、現場をよく見ていない私からすれば、どちらでも一緒な気がした。
「ハーピィーさんが2発目を撃ったってことは、そろそろ私の出番ですよね?」
死なない程度の攻撃で奇襲を受けた兵士たちは、混乱の渦の中にいるはずだ。そこへ、私が出て行って、王国へ向かうことを宣言する。これで、森への被害も、王国の兵士たちへの被害も最小限に食い止められるはずなのだ。
作戦の順番こそ違ったが、ハーピィーさんが2発目の魔法を放ったのだ。相手はもう虫の息だろう。そんなことを思って、私が動き出そうとした次の瞬間。
「リサ!囲まれてる!」
「え?」
突然、キラー君が大声を出した。
一瞬私は何を言っているか意味が分からなかったが、キラー君の言葉に素早く反応したメタきちさんが、私を庇うように前に躍り出た。
「キラー!抜けれるか!」
「やってみる!ガァッ!」
そう言うなり、キラー君は得意としている咆哮を発した。
咆哮で開いた所から抜けるつもりだったのだろう。
叫ぶと同時に、キラー君は私を無理やり背中に乗せ、咆哮を発した場所に向かって飛び出した。
『ガキィン!』
「!?」
目の前で、まるで金属がぶつかり合ったかのような硬質な音が響いた。
それを聞いて、キラー君が急停止する。
「キラー!もど……なっ!?」
メタきちさんがキラー君を呼ぶと同時に、光に包まれた。
「これは!強制転……」
光に包まれたメタきちさんの姿が、一瞬で消えてしまった。
キラー君が私の前に立って威嚇を続けてくれているが、突然起こった出来事に、私の不安はピークを迎えていた。
「リサ!防御!」
次の瞬間、キラー君の声が響き渡った。
私は、その声に反応して、咄嗟に時魔法を使う。そして、止まった時間を利用して、無詠唱で精霊魔法を紡いでいく。
悪魔さんに、かなり難しい連携だと言われたが、私はこれだけは必死で練習した。
『精霊の名のもとに、木々よ、この身を守りたまえ!』
魔法のイメージが完成すると同時に、私の周りに木々が生い茂っていく。そして、それはまるで、私を守るかのように幾重にも重なっていった。
直後、全方位から爆音が響き渡った。
「キラー君!」
私は、木々の外にいるキラー君に呼びかけた。
この魔法だが、熟練度というものが上がっていくと、広範囲を守れるようになるらしいのだが、今の私では、自分を守るだけの大きさに展開することで精いっぱいだ。
「大丈夫!そこにいて!数を減らしてくるから!」
キラー君の声が聞こえる。どうやら、キラー君は全方位からの爆撃を、どうにかしてしのいでくれたようで、力強く宣言すると、その声が遠ざかっていった。
直後、2回目・3回目と連続して爆音が響き渡る。
「このぉ!やめろぉ!」
キラー君の叫び声が聞こえる。
キラー君の攻撃だけでは、全方位からの攻撃に対処しきればいのだろう。
『ギィン!ギィン!』
直後、木々の盾に金属がぶつかる音がした。どうやら、魔法と剣の波状攻撃を仕掛けられているようだ。どれだけ耐えられるかは分からないが、これだけの攻撃を繰り返されれば、いつかは突破されてしまうだろう。
「おりゃぁぁぁ!」
どれほどの魔法を凌いだかは分からないが、キラー君が何度目になるか分からない突撃をかけてくれた時、木々の盾に変化が起こった。
「なっ!?」
爆撃を集中して受けていた部分の装甲が薄くなり、外の明かりが漏れてきたのだ。
「リサ!」
私の驚きの声が聞こえたのだろう。
キラー君が私に声をかけてくれた瞬間だった。
「がっ…!」
今まで聞いたことのない、キラー君の苦しみの声が聞こえてきた。
「キラー君!」
私は咄嗟に精霊魔法を解除して、キラー君の声がした方を見た。
そこには、兵士の攻撃を腹に受け、その場に倒れ伏しているキラー君の姿があった。
「キ、キラー君!」
慌てて声をかけるが、キラー君はピクリとも動かない。
そんなキラー君に止めを刺そうと、何人もの兵士たちが現れ、それぞれの武器を振り上げた。
「だ、ダメーー!!」
私は周囲に時魔法をかけ続け、キラー君のもとへ走り、動かないキラー君に覆いかぶさった。
「絶対助ける……。絶対に助けるから!」
私は、時魔法と同時に、回復の精霊魔法を紡いだ。しかし、やはり今の私の魔力量では、時魔法を維持しながら回復し続けることは難しかった。
「はぁ……はぁ……」
どれくらい時間を止めていただろう。
体に力が入らなかった。
しかし、精霊魔法だけはなんとか紡ぎ続けることはできた。全快とまではいかなくても、キラー君はある程度回復しているはずだ。
「なんだっ!」
時魔法の拘束から解放された兵士たちが、目の前で蹲っている理沙を見て、驚きの声をあげた。
どうやら、さきほど止めを刺そうとしていたキラー君がいた場所に現れた私を見て、少しだけ戸惑っているようだ。
「構うな!そいつが魔王だ!ここで討ち取れば、俺たちが英雄だ!」
この兵士たちの指揮官だろうか。どこからか聞こえる声を理沙は蹲りながら聞いていた。
悲しみと同時に、心の奥から怒りが湧いてくるのを感じていた。
『人間は……なんて勝手な生き物なの……』
そんな風に絶望し、人間という欲望の塊に殺されようとしていたその時だった。
「リ…リサ……に、逃げろ……」
小さい……本当に小さな声が聞こえた。
自分の死を目の前にしても、私を守ろうとしてくれる存在がいる。
それが自分と同じ「人間」ではなく、人間から忌み嫌われている「魔物」であることを知った理沙は、自分の中で何かが変わった気がした。
『私が守らなければならないのは、魔物たちだ!』
そう認識した瞬間。
理沙から膨大な魔力が放出された。
「う、うわぁぁ!」
「な、なんだー!」
理沙から放出された膨大な魔力波に吹き飛ばされる兵士たち。
吹き飛ばされた兵士たちは慌てて立ち上がり、自分たちの前に立ち尽くす理沙を見た。
「私は……あなたたちを許さない。」
そこには、傷ついたキラーを抱えた理沙がいた。
理沙は「人間たち」を一瞥した。




