リサ~異世界㊱最大の戦いへ~
魔力を使い果たし、回復のために眠ってしまった私が再び目が覚めたのは、倒れてから丸1日経った後だった。
思い付きで魔物を造ったことが原因だと分かっている私が、皆にただただ平謝りしていると、悪魔さんがニッコリと笑ってくれた。
「大丈夫ですよマスター。王国軍の動きも把握できていますし、何より、この魔物の性能を知るにはちょうどよい時間でした。今はハーピィーとキラーが外で遊んでいるところです。マスターも、準備を整えて見に行ってはいかがですか?」
久しぶりに見た悪魔スマイルは本当に不気味だったのだが、どうやら本当に必要な時間だったようで、少しだけ気持ちが軽くなった。
悪魔さんに言われた通り、身支度を整えてから外に出ると、そこには私の造り出した魔物と対峙しているハーピィーさんとキラー君の姿があった。
「リサ!こいつ強すぎるな!」
「これなら安心よー。とんでもない魔物だわ~。」
私に気が付いた2人がこちらに走ってきてくれた。
「そんなに強いんですか?」
自分で造っておいてなんだが、そこまで強くなっているとは思わなかった。
「化け物よ~。近距離じゃ尻尾が厄介だし、遠距離には口から破壊光線出すんだもん。動きが遅いのは気になるけど、中途半端な攻撃じゃビクともしないのが余計に腹立つわね。」
日本人なら誰もが知っている最強の怪獣だからね。なんて思ったりもしたが、これだけ聞くと本当に強いようだ。
「消滅させちまうと元も子もねぇから、耐久については詳しく調べられねぇけど、ありゃ問題ねぇよ。攻撃が当たった瞬間、精霊が魔法で回復させちまうんだから。」
「回復魔法が効くんですか!」
ログハウスの中から出てきたメタきちさんの説明に対し、驚きのあまり大声を出してしまった。
その声を聞いた怪獣と精霊が、同時にこちらを振り返った。
『リサー!』
怪獣に乗った精霊が嬉しそうに叫んでいるのだが、こちらに向かって走ってきているのは怪獣だ。
これはかなり怖い。
「ちょっ!もうちょっとゆっくりでいいから!」
着ぐるみではない、日本を代表する怪獣が向かってくる体験をしたのは、日本人では私が初めてだろう。私は思わず待ったをかけてしまった。
首を傾げながらも、速度を緩める様子のない怪獣を見て、私は思わず身構えてしまった。
『リサ……大丈夫?』
目の前でピタリと静止した怪獣の頭の上で、可愛らしく首を傾げる精霊。ギャップがありすぎる。
「ありがとう。もう大丈夫だよ。そうだ。そのままじゃ、落ちちゃうかもしれないでしょ?ちょっと待ってね。」
私は精霊を肩に移し、魔力造形を使って、頭部に落下防止のコックピットもどきを作成した。
ついでに、怪獣の胸にハッチ式のコックピットも作成する。これで、精霊の安全はある程度確保できただろう。
「アンギャー!」
完成した瞬間、怪獣が叫び声をあげた。
「きゃあ!」
魔力造形で造った魔物が叫ぶということを知らなった私は、心から驚いた。
「お、嬢ちゃんも驚いたか?こいつさ、叫ぶんだよ。まるで感情があるみてぇだろ。」
「最初はそうではありませんでしたが、精霊と共に戦闘訓練をしていると、突然叫びだしたんです。」
メタきちさんと悪魔さんがそう教えてくれた。
どうやら、この2人は、スキルで造ったものに感情が芽生えるという不思議な現象に興味を抱いているようだ。
私としては、魔物なんだから当然なんじゃないのと思うのだが、こちらの世界ではそうは思わないようだ。
「さて、マスターもお目覚めになられたことですし、森を守る戦力も十分です。このまま出発しましょう。」
そう言って、私たちはそのままログハウスを後にした。
森を抜ける途中、怪獣に回復魔法が効くことについて精霊に聞いてみたのだが、精霊魔法は万能で、「命」だと認識していれば、回復することは可能なのだという。
ただ、回復量に比例した魔力を使うため、効率は悪いそうだ。
しかし、森にいる限り、少量の魔力であればすぐに回復するそうで、よほどの致命傷か、一撃必殺の技をもらわない限り、怪獣が消滅してしまうことはないという。
それを聞いた悪魔さんは、なるほどと頷いていた。私としても、回復の精霊魔法について知ることができたので、かなり勉強になった。
森の入り口で、名残を惜しみながらも、精霊と怪獣に別れを告げた私たちは、街道を外れて移動を開始した時、悪魔さんが現状について報告してくれた。
「ハーピィーの偵察の結果から言うと、人間は、ここから1日ほど行った場所で陣を張っているようです。その数は約500。この数から予想するに、人間の狙いは森とマスターの両方でしょう。」
500もの人間が押し寄せてくる光景を想像して、私は思わず息をのんだ。
いくらこの世界に慣れたとはいえ、500もの人間を相手にするのはかなり怖い。というか、そんなことを、想像すらできない。
「大丈夫よ~。空から見た限り、気をつけなきゃいけないのは数だけよ。馬鹿正直に陣を張ってる連中なんか、目じゃないわよ~。」
「森には違う意味で化け物がいるわけだしな。後ろを気にしなくていい分、戦いやすいってもんだよ。」
ハーピィーさんとメタきちさんがそう言うと、悪魔さんも大きく頷いている。私は、3人の様子を見て、少しだけ落ち着くことが出来た。
さらに、キラー君が王国軍の斥候を見つけたことにより、王国軍の作戦の全容を知ることができた。
「やはり、王国軍は私たちの実力を低く見ていますね。数で押しきる作戦をとってくることがその証拠でしょう。馬鹿正直に前進してくるようですから、横っ腹に特大の一発をお見舞いしてやりましょう。」
相手の斥候を捕えたことで、こちらの作戦が固まった。
私としては、特大の魔法とやらで、どれだけの人が傷つくのかを考えて、悲しくなってしまったのだが、それをしなければ、こちらが押し切られ、森に被害が出てしまうのだと聞かされては、反対のしようがなかった。
「嬢ちゃん。出来るだけ殺さねーようにするからよ。」
メタきちさんの優しさがありがたかったが、私の心が晴れることはなかった。
「ん?」
悪魔さんが妙な声を出したが、勘違いだということでその場は流された。
思えば、この時、もっと警戒しておけば良かったと思ったのだが、相手の数と作戦を把握したと思い込んでいた私たちは、余裕からくる隙のせいか、それを無視してしまった。
捕えた斥候を気絶させ、なるべく見つかりにくい場所に放置した後、私たちは王国軍の陣地にさらに近づいていった。
そしていよいよ作戦決行の時。
こちらの作戦としては、まず、ハーピィーさんが空中から風の魔法で正面の相手を削るところから始まる。その後、相手がハーピィーさんに意識を集中させているところに、右舷から悪魔さんが魔法をぶちかますという作戦だ。
そして、私が王国軍に姿を見せて、王国方面に進んでいくということを教えれば、王国軍は森へは行かずに引き返すはず。というのが、悪魔さんの読みだ。
「妙な気配は感じますが、メタきちとキラーがいれば問題ないでしょう。油断しないようにお願いします。ではハーピィー。行きましょう。」
そう言って、2人はそれぞれの場所へと向かっていった。
~王国陣営~
理沙たちが作戦を開始し始めたその頃、500人もの兵力に囲まれた中心では、すでに勝利を確信しているかのように、ハッシュが余裕の笑みを浮かべていた。
「どうやら、魔物の王が動き出したようだな。くっくっく……。あとはこれを使えば、私の勝利はより間違いないものとなる!」
理沙たちに気取られることなく作戦を進められていることに満足しながら、ハッシュはその手に持つアイテムを握った。
このアイテムが、自らを勝利へと導くものであるということを、ハッシュは疑わない。
しかし、このアイテムこそが、これから起こる悲劇の引き金となることを、ハッシュは知る由もなかった。
「さぁ、始めよう!我が覇道を邪魔する者を、全て蹴散らすのだ!」
そう言って、ハッシュは手にしたアイテムを破壊した。




