リサ~異世界㉟王の考え~
「う……ん。」
私は、体にのしかかるような異様な重みで目が覚めた。
見慣れた天井があることから、ログハウスのベッドだということは分かったのだが、一体なぜこんなところにいるのかが分からなかった。
「確か……森の入り口まで行って……」
そんなことを呟きながら、体が重い原因を探ってみた。
考えられる理由として、キラー君がお腹に乗っているのではないかと思ったが、私の上にキラー君はいなかった。次に、ハーピィーさんが腕に絡みついているの可能性も考えたのだが、そうであるならば、最初に気が付くはずだ。
「う……ん。動かない……じゃなくて、動けないのか……。」
体が動かないだけではなく、頭もボーッとしていた。
しかし、状況も分からないまま、再び眠ってしまうわけにはいかないという気持ちだけはあった。
「あ、リサが目覚めてるぞー。」
「ホントね。じゃあ、メタきちたちを呼んできてくれる?」
タイミングよく、キラー君とハーピィーさんが来てくれた。
「リサちゃん。具合はどう?あのとんでもない魔物を造ったあと、ばったりと倒れちゃったのよ?悪魔のやつは、魔力が空になっただけでしょう。なんて言ってたけど、心配したんだから。」
どうやら私は、魔力が空っぽになって倒れてしまったようだ。
確かに魔力を抜き取られた気はしたのだが、まさか倒れるほどに消費してしまうとは思ってもみなかった。
「リサー!」
「嬢ちゃん!」
そんなことをぼんやり考えていると、再び部屋の扉が開いて、キラー君とメタきちさんが入ってきた。
「あ、ご迷惑をおかけしました……」
とりあえず、旅立ちに水を差してしまったことを謝罪する。
どれほど眠っていたかは分からなかったが、私が倒れたりしなければ、王国に少しでも近づけていたはずなのだ。
今回については、森を出るのが遅れれば遅れるほど、森への侵攻の可能性が高くなってしまう。そうならないためにも、少しでも森から離れておきたかったのだが……。
「って……私、どれくらい眠ってたの?」
窓の外を見ると、辺りはすっかり暗くなっているようだった。
少なくとも、半日以上は経過しているはずだ。
「おはようございますマスター。お加減はいかがですか?」
メタきちさんたちから遅れること少しして、悪魔さんと私が生み出した怪獣が入ってきた。
その怪獣の頭の上には精霊が乗っていた。
自分で造っておいてなんだが、まさかの自律走行型だったとは驚きだ。
「あぁ、マスターが生み出されたこの魔物ですが、どうやら指揮権が精霊にもあるようで、精霊が命令すれば動かせるようですよ。」
なるほど。だから精霊が頭の上に乗っているのか。
いや、頭に乗らなければ動かせないということはないはずなのだが……。
『けど。頭の上に乗ってるだけだと危ないよね……あとで、コックピットみたいなの作ってあげないと……』
そう思いながらも、皆の顔が見れた安心感から、私は猛烈な睡魔に襲われた。
抗いようのない眠気に対して、眠らないようになんとか踏ん張っている、悪魔さんが話しかけてきた。
「マスター。マスターの魔力欠乏についてはアイテムなどで回復できるというレベルでははありません。ですので、今は眠ることが一番の方法です。ゆっくりとお休みください。」
悪魔さんにそう言われ、私はただ頷くことしかできなかった。
こうして、私はまた眠りの世界へと誘われていった。
~王国にて~
ハッシュ・トールソンが王国を出発してすでに1日が経過した頃、王城の王の私室には、宮廷魔法士団の筆頭であるミシェルと、ミシェルの身の回りの世話をしているリリエルの姿があった。
「お伺いしたいことがあります。」
ミシェルは、眼前の王に向かって話を切りだした。
「どうした?」
王は、さも2人が訪ねてきた理由が分からないという表情を浮かべる。
とんだ化け狸である。
「私たちが王の御前にいる理由など、すでにご理解いただいているはずです。無駄話はやめましょう。」
ミシェルがそう凄むと、王は肩を竦めるようにして話しだした。
「会議での発言について……か。」
王の言葉に、2人は首肯した。
「発言の真意をお尋ねしたいのです。会議でのお言葉は、ハッシュ様をただ煽り立てるだけのものとしか思えません。私の知っている王であれば、そのような軽い発言はなさらないはずです。」
「ふ……お前が余を語るか。ふふふ……はっはっは!」
ミシェルの言葉を聞いた王の笑いが部屋中にこだまする。
それを見たミシェルは不快感を露にし、黙って聞いていたリリエルの顔は少し青ざめていた。
「すまんすまん。余はお前のそういうところを気に入っておるのじゃ。他意はない。どれ。説明してやろう。リリエルよ。人払いの魔法と遮断結界を張れ。」
王にそう言われ、リリエルは素早く魔法を発動させた。
すべての音を完璧に遮断できるほど優秀な魔法ではないのだが、この場での王との会話程度であれば問題ない。
「さて、余の真意であったな。まず、余はハッシュが反乱分子であることを知っておる。」
その言葉に、ミシェルとリリエルの表情が歪む。
「お言葉ですが、ハッシュ様は、長きにわたりこの国の経済を支えてこられた一族です。そんな方が、王を裏切りになるでしょうか。」
リリエルは尋ねたが、王はただ笑っているだけだった。
それを見て、ミシェルは自分の頭をフル回転させ、ある答えを導いていた。
『なるほど。経済を握っているからこそ、金を抜く機会はいくらでもあったはず。金さえあれば、兵力を整えることはできるわね。それならば、今回のハッシュの遠征は……なるほどね。』
答えを導き出したミシェルは、王に新たな問いを投げかけた。
「討伐が成功なさった場合はどうなさるおつもりですか。」
自分でもズレた質問だということは理解していた。
リサ自身の力がどれほどなのかは分からないが、少なくとも、リサの周りには強大な力を持った魔物が4匹は存在している。あの悪魔だけでも、私一人でどうにか抑えられる力を持っているのだ。それほどに強大な魔物を、ハッシュの兵力でどうにかしようというほうがどうかしている。しかし、世の中には「万が一」ということもある。実際に、準備さえきちんとできていれば、ミシェルだけでも悪魔だけなら単独討伐は可能なのだ。
ハッシュがどれだけの準備をしているかは分からないが、本当に万が一討伐されてしまった時のことを、王が考えていないわけがない。
そう思いながら王の返答を待っていると、王は薄く笑っていた。
「ふ……お前も、その質問が的外れであることは理解しておろう。じゃが、あえて答えてやろう。討伐成功の折には、やつにこの国をくれてやろうではないか。」
王の言葉に、リリエルはさらに目を大きく開いた。
まさか、本当に玉座を明け渡すとは思っていなかったようだ。
「リリエルよ。それほどまでに驚かずともよかろう。討伐成功とは、すなわち余の目が曇っていたことと同義。それすらも見通せぬようであるならば、余が玉座に座る資格はない。」
その言葉を聞いて、ミシェルは全てを理解した。
王はあの時、自らが指定した魔物の王と対峙して、その力をしっかりと理解したのだ。しかし、それを目の当たりにしていない重鎮たちは、王の決断に対して異を唱えた。
現に、ハッシュは王を直接批判している。
しかし、王はそれさえも織り込み済みだったのだ。
『全ては反乱分子の勢力を削ぐため……。』
ミシェルは王の狙いに辿り着き、満足そうに笑った。
「魔物の王が乗り込んできた場合は、どうなさるおつもりですか?」
私は答えが分かりきっている質問をした。分かってはいるが、このような確認は必要だ。
「その時は、やつの独断と言いきればよい。」
それを聞いたミシェルは人間の業の深さの一端を見た気がした。
『魔物の王であるリサを処分できればそれでよし。ハッシュが敗れたとしても、自分の息のかかった人間を経済の中心に据えることができる……と。』
そこまで考えて、ミシェルは、魔物の王とされたリサの方が誠実であったのではないだろうかと思わずにはいられなかった。




