リサ~異世界㉜宝箱の中身とは~
作戦が決まってからあっという間に3日が経った。
この3日間、一体何をしていたかというと、まずはメタきちさんと悪魔さんだが、これからの行動計画やら作戦会議やらを延々と続けていた。
そんな話ばかりよくまぁ飽きずに続けられるものだと思ったが、何やら楽しそうに話していたので放っておくことにした。というよりも、私が参加しても役に立てそうにないから、放っておくしかなかったのだ。
ハーピィーさんは、森の様子やその周辺の監視を引き受けてくれていた。
王国の斥候や、雇われた冒険者が様子を見に来ているかもしれないということなので、一応警戒だけはしておくことになったのだが、この3日間でそれらしい人影は見当たらなかったという。
最後に、私とキラー君と精霊の3人は、ログハウスにある3つの宝箱と睨めっこをしていた。
正確には、能力の確認を終えて暇になった私に付き合って、宝箱に危険がないかどうかの確認をしてもらっていたのだ。
「この宝箱から、危険な感じはしないぞ。」
宝箱に近づけた鼻をヒクヒクさせながら話すキラー君。
そんなキラー君の頭の上では、コクコクという音が聞こえてきそうなほど、精霊が何度も頭を上下に振っていた。
『この2人が言うなら、開けちゃっても大丈夫だよね……。もしかしたら、何かすごい物が入ってるかもしれないし……。でもなぁ、怒られたらイヤだなぁ……。』
正直に言って、この場所には魔物マスターである理沙を咎めるような者など存在しないのだが、理沙としては、他人の宝箱を開けるということに、少なからずの抵抗があるのだ。
『昔見たことのあるゲームの宝箱とかは開けらるんだけどなぁ……』
私はため息をつきながら呟いた。
兄がやっていたテレビゲームの宝箱であれば、こんなに悩むことなく開けているだろう。しかし、ここは現実の世界だ。もしかすると、ここに置いているだけなのかもしれない。そう考えると、より一層、宝箱を開けられなくなるのだ。
メタきちさんや悪魔さんに相談すれば何かしらの答えをくれるのだろうが、あの2人だと、私の葛藤を無視して、あっという間に宝箱を開けてしまいそうで怖い。
『他人の宝箱を開けるのはやっぱりねぇ……』
そんな葛藤を抱いたまま3日が経過したのだ。
そしていよいよ旅立ちの朝。
「マスター。忘れ物はありませんか?」
学校に行く前の子どもに声をかけるお母さんみたいな質問をする悪魔さん。
「大丈夫……です。」
結局、宝箱を開けることもなく出発の日を迎えてしまったことが心残りである私は、思わず歯切れの悪い返事をしてしまった。
「嬢ちゃん。どうしたよ?」
「お腹でも痛いの?リサちゃん。」
メタきちさんとハーピィーさんが、私の反応を見て心配してくれている。
『宝箱を開けるか悩んでいます……なんて、絶対に言えない……』
そう思い、私が宝箱を諦めようとしたその時だった。
「はぁ……。そんなに悩まれているようでしたら、さっさと開けていらしてください。もうここには戻って来られないかもしれないんです。気がかりを置いて行かないでください。」
エスパー悪魔降臨だ。
「ち、違います!そんなことじゃ……ないもん。」
思いきり否定してしまったが、言葉の終わりと表情がその否定を台無しにしてしまっていたようで、メタきちさんとハーピィーさんが呆れたような顔をしていた。
「嬢ちゃん。俺が開けてきてやろうか?」
絶対に言うと思ったセリフを見事に言ってくれたメタきちさん。
そう言うと思ったから、私は言うのを躊躇ったのだ。
「いや……さすがに、他の人の宝箱を開けるのはどうかと……」
「他人の宝って……別にいいだろ。あいつだって、「次にここに来た人のため」とか言ってた気もするしな。」
メタきちさんのその言葉を聞いて、私は思わず笑顔になってしまった。
私がこの3日間、ずっと求めていたセリフを、メタきちさんが言ってくれたのだ。
「ほんと!?」
私はメタきちさんを両手で鷲掴みにして尋ねる。
「ふぉ、ふぉんふぉだよ……」
「みんな!」
確認を終えた今の私に、恐れるものなど何もなかった。
「宝箱を開けてから出発しましょう!」
「オー!」
その時は、宝箱を開けられる嬉しさから、テンションが上がり過ぎてしまい、キラー君と精霊以外の3人が、すっかり引いてしまっていることに、私は気づくことが出来なかった。
出発の準備も整い、いざ出発しようとしていた場面だったはずなのだが、私たちは、全員で宝箱の前にいた。
「3つとも安全です。罠などは仕掛けられていませんよ。」
キラー君と精霊に安全性を確認してもらってはいたのだが、念のため、悪魔さんにも再度確認をお願いした。
「まずは1番右から……」
期待とともに、宝箱の蓋を開ける。「ギギギ」という音とともに、箱の中身が明らかになる。
「何?これ?」
1つ目の箱には表紙の書かれていない本が入っていた。
なんとも古臭く、年季を感じさせる本だ。
私は、パラパラとページをめくってみるのだが、そこに書かれている文字は、私では読むことはが出来なかった。
「マスター。見せていただけますか?」
そう言われた私は悪魔さんに本を手渡す。
読むことができないと分かって、私の代わりに読んでくれるつもりなのだろう。同じようにページをめくっていくのだが、ページが進んでいくにつれ、悪魔さんの表情が徐々に険しくなっていった。
「おい。何が書かれてんだよ?」
メタきちさんが尋ねる。
「いや……私も全ては読めないですね。いくつか読める文字はあるのですが、どうにも意味が繋がらない……。どうやら、このままでは解読できそうにありませんね。おや?」
悪魔さんが最後のページを開いた時、何かに気が付いたようだ。
「ほぅ……。メタきち。これは、あの若者から、次にここを訪れた者へのプレゼントのようですよ。ほら。この文字は、あの若者が使っていた文字でしょう?」
そう言いながら、悪魔さんは本の最後のページを開き、メタきちさんに差し出した。
「あぁ。確かにあいつの文字だな。しかし、あいつの使ってた文字なんて、俺には読めねぇぞ。それこそ、キラーのオヤジさんとかじゃねぇと……あぁ、そうだったな。」
話している途中で、目の前の悪魔さんも、メタきちさんたちが「あいつ」と呼ぶ人たちと旅をしていたことに気が付いたようだ。
「フフフ……一応、文字だけならば読めますよ。あの若者もその辺りには気を配っていたのでしょう。あえて難しい表記はなされていないようです。マスター。読みあげますね。面白いことが書かれていますよ。」
そう言うなり、悪魔さんは文章を読み上げていった。




