リサ~異世界㉛作戦決定~
精霊の微笑みを堪能しながら、このぬいぐるみが発売されたら買ってしまいそうだと、かなり的外れな思考になっている私をよそに、メタきちさんが悪魔さんに続きを促した。
「で?1つ目ってことは、まだ他にもあんだろ?」
「もちろんです。2つ目は、マスターだけが狙われることです。」
悪魔さんにそう言われて、私には思い当たる理由があった。
王様の前であれだけ大きな事を言ったのだ。王国側からすれば気に食わないのも当然だろう。
要求が通らないということになれば、次に起こすべき行動は限られる。
つまり、私を亡き者にすることだ。
「そうであった場合、ここにいようが、いまいが関係ありません。ですが、ここを離れれば森は焼かれずに済みます。人間どもの狙いはマスターなのですからね。」
続けられた悪魔さんの言葉を聞いて、私は俯いてしまった。
『私が出ていけば、森と精霊は助かるのかな…。』
そんなことを考えてしまっていると、メタきちさんの声が聞こえた。
「けどよ。両方の可能性もあるんじゃねぇか?」
それを聞いて、私は思わず顔を上げた。
「その通り。3つ目がそれです。森もマスターも狙われている場合です。こうなると、もう人間を殲滅する以外、対処のしようがありません。」
確かに、一方的に押し掛けたとはいえ、最後は王との話し合いにはなった。それにも関わらず、再びこちらに攻めてきているのであれば、もはや話し合いで解決しようというのは甘すぎるだろう。
殲滅とまではいかなくても、こちらの力をある程度分からせるために戦わなくてはならないのは間違いない。
「リサちゃん……」
ハーピィーさんが心配そうに私の手をとった。
私はその手を握り返すだけで、何も言うことが出来ずにいた。
「どうしますかマスター。幸い、人間どもが攻めてくるにしても、王国からここまでは日にちがかかります。迎え撃つにしても、逃げるにしても、十分な時間はありますよ。」
どうするかと聞かれて、私は答えることが出来なかった。戦うにしても逃げるにしても、必ず誰かが傷ついてしまう。そんなことを考えると、どうしても答えられなくなってしまうのだ。
私が黙ってしまっていると、悪魔さんが問いかけてきた。
「マスター。今更ですが、誰も傷つかない方法など存在しません。それは人間であるマスター自身が一番よく分かっていらっしゃるのではありませんか?」
その言葉を聞いて、私はどうにか言葉を紡いでいく。
「確かに……そうだと思います。けど……それでも私は、誰にも傷ついてほしくないんです……。」
最後の方は、消え入りそうなほどに小さな声になってしまった。
これが甘い理想論だということは自分でもよく分かっている。だけど、これを簡単に曲げてしまうと、自分の中で何かが良くない方向に変わっていってしまうような気がしてならないのだ。
その場が沈黙に包まれる中、メタきちさんがその沈黙を破って話し始めた。
「嬢ちゃん。嬢ちゃんは優しすぎだ。命が狙われてるかもしれねぇってのに、誰も傷つくことなく終わらせたいなんてのは、甘々にもほどがあるってもんだ。」
メタきちさんの言葉を聞いて、私は下を向いてしまった。
確認されなくても分かっていたことだったが、こうして改めて確認されると、余計に悲しくなってしまう。
「だが、それでこそ俺たちのマスターだ。」
そう言って、ソファーから飛び降りて私の前にやってきた。
「えっ?」
私は思わず顔を上げ、目の前にいるメタきちさんを見つめた。
相変わらず、プルプルボディのメタルスライムが、そこにいた。
「そんな嬢ちゃんに俺はこの命を捧げるぜ。嬢ちゃんの思うように使ってくれてかまわねぇ。好きにやりゃいいんだよ。俺は、嬢ちゃんが考えて出した答えなら、反対なんか絶対にしねぇからよ。」
「メタきちさん……」
その言葉は、まるで中世の騎士の誓いのようだった。
「フフフ……メタきちにばかりいい格好はさせませんよ。マスター。私はあなたのシモベです。この命続く限り、あなたにお仕えいたしましょう。」
メタきちさんに続くようにして、悪魔さんが私の前にやってきて跪いた。
「ずるーい。私もよー。」
「僕もだぞ!」
ハーピィーさんとキラー君も2人に倣うかのように跪いた。
まぁ、キラー君はお座りなんだけど……。
「みんな……」
『私も……あなたになら、ついて行く……。』
耳元で精霊の声が聞こえた。
どうやら、いつの間にか私の肩まで登ってきたようだ。
「思ったことをすればいい」
私の脳裏に、ラファエルさんの言葉が浮かんだ。
『そうだ……。後悔しないためにここに来たのに、うじうじと悩んでばかりで、また後悔するところだった。』
目の前には、私を信じてくれると言ってくれたみんながいる。
そう思うと、何だって出来そうな気がしてきた。
「みんな。頼りないマスターだけど、私に力を貸してください。」
私がはっきりと宣言すると、みんなが笑ってくれた。
「それでマスター。どうなさるおつもりですか?」
悪魔さんのこの質問に、私ははっきりと答えた。
「神様のお告げは、私に危険が迫っているとのことでした。それが言葉通りであるなら、私が森を離れれば、この森が狙われることはないはずです。けど、逃げてばかりだと、いずれ捕まってしまうでしょう。それならば、王国へ向かいましょう。」
途中まで頷きながら聞いてくれていたメタきちさんと悪魔さんだったが、最後の言葉を聞いた瞬間、渋い顔になってしまった。
「嬢ちゃん。何で王国に向かうんだよ?」
メタきちさんの疑問はもっともだ。
現状では、私に危害を加えられそうな要素は、王国以外には考えられない。
危険を避けるのであれば、王国から離れてしまうことが一番だろう。しかし、それをしてしまうと、私を捜しに来た王国の軍隊に、この森が焼かれてしまう可能性がある。
この森を再び戦場にするのはもうたくさんだ。
それならば、私たちが王国に向かって行けばいい。
妙な言い方になるが、『王国の方面に、敵に見つかるように逃げる』のだ。
しかし、王国軍と違い、我々は少数精鋭だ。発見される可能性は極めて低いだろう。それならば、それを利用して、先制攻撃を仕掛けてみようと思う。
あちらに見つかる前に、私たちが相手を見つければ先制攻撃を浴びせることができる。
その後、私たちの存在をアピールして、王国側に逃げていることを印象づけるのだ。
王国軍は、私を発見すればいいはずなので、私を発見した時点で、森へは行かずに私を追ってくるだろう。
そうなればこちらのものだ。
要は、森に行かずにこちらを追ってきてくれればいい。私たちは、追ってきた王国軍と対峙するまでの時間を利用して、もう一度王国に潜入し、王様に文句を言いにいけばいいのだ。
私がそう説明すると、悪魔さんは目を閉じて考え始めた。
「ふむ……。穴だらけの策ではありますが、悪いとも言いきれませんね。まぁ、他にアイデアがあるわけではありませんから、マスターの案でいくことにしましょう。」
褒められているのか貶されているのか分からない言い方だったが、とりあえず作戦として認められたのだろう。
「王国も、そんなに早く軍隊を編成することは不可能でしょうから、もう2、3日はここで体力と気力を回復させ、旅立ちに向けての準備をしましょう。」
悪魔さんのその言葉で、この話し合いはお開きとなった。




