リサ~異世界㉝それぞれの動き~
『わたしとおなじちからをもち、このせかいにまねかれしものよ。わたしは、このせかいのひほうのありかを、このほんにしるす。ひつようであれば、やくにたててくれたまえ。このほんのもじは、すべてのしゅるいのまものとこころをかよわせることができたとき、しぜんとよむことができるようになっている。こころやさしきものよ。くじけぬように、まよわぬように、がんばってくれたまえ。あべる』
どうやら悪魔さんは、本当に文章に書かれていたままを読み上げてくれたようだ。まぁ、この文章を書いた人が、漢字などの表記を使えたとも限らないので、その辺りについては、私の解釈で補うことにしよう。
「世界の秘宝かぁ……。」
そう言いながら、一体どんなものなのかと想像するのだが、ここは魔法アリ、魔物アリの異世界だ。
きっと、私の想像を超えるような宝が飛び出してくるのだろう。
「俺は知らねぇな……。」
「そうですね。残念ながら、私も知りません。」
メタきちさんと悪魔さんが知らないということは、やはりとんでもないお宝なのだろう。
それにしても、全種類の魔物と心を通わせるというのは、かなり大変なことだろう。
「この世界に魔物って何種類くらいいるんですか?」
私は聞かない方がいい質問をした。
世界の秘宝というくらいなのだから、そんな簡単に手に入るはずはないと気付いたのだ。
「どうでしょうね。200くらいはいると思いますが……。」
私の予想通りの言葉を聞いて、私はすぐに秘宝を諦めることにした。
どう考えても、200もの種類の魔物と心を通わせるなど不可能だ。
「それにしても、そんな条件を突き付けてくるなんて、「あべる」って人もケチよねー。」
ハーピィーさんが私の気持ちを代弁してくれた。
兄を捜しながら、魔物の守護獣を説得しながら、この世界の人間と戦いながら、200種類以上いる魔物と心を通わすということは不可能だろう。
兄ならば、「こんなクソゲーやってられるか」と言いそうだ。
「確かに難しいですね。まぁ、それだけ強力なものなのでしょう。気長にやっていくしかないですね。」
そう言って、悪魔さんが話を締めた。
気長にやっていくしかないと言われれば、まぁそうですねとしか言えないので、この話はここまでとなった。
「じゃあ、次は真ん中の宝箱ですね。」
私は気を取り直して2つ目の宝箱を開けた。
「お金?」
宝箱の中には、ギッシリとまではいかないものの、かなりの量のコインが収められていた。
「あぁ。確かにこれはこの世界の通貨ですね。私もある程度は持っているので必要ないと思いますが、あり過ぎて困るものでもありませんので、貰っていきましょう。」
そう言って、悪魔さんが宝箱に手を翳した。
「うわっ!消えた!」
次の瞬間、宝箱にぎっしりと詰め込まれていたお金が全て消えてしまった。
私が驚いて声をあげてしまったことに、悪魔さんが不思議そうな顔をしてしまった。
「収納の魔法がそれほど驚きですか?」
その問いかけに、私は何度も頷いた。
目の前から大量のコインが消えてなくなったら、誰だって驚くと思う。
「マスターも使えるはずです。あの若者も使っていましたからね。やり方は、収納したい物に対して手を翳し、『収納』と念じるだけです。実験したことはありませんが、大抵の物が収納可能ですよ。」
そう言われて、私はメタきちさんを見た。
「嬢ちゃん。さすがに俺は無理だぞ。」
いざとなったらメタきちさんを収納すればいいかなと思ったのだが、その目論見はあっさりと見破られてしまったようだ。
「とんでもない発想ですね」
悪魔さんにそんなことを言われてしまったのだが、本気でそれを考えていた私としては、是非とも何とかしたい案件だ。
『収納は難しいとしても、こう……一瞬で別の場所に移動できるような魔法があれば、みんなの安全は一気に確保できるんだけど……。』
いつの日か、そんな魔法を見つけてみようと思いながら、私は最後の宝箱に意識を向けた。
ここまでの2つは、私としては残念な結果となってしまっていた。
もっとこう、役に立ちそうな物なんかが入っていることを期待したのだ。
「いよいよ最後の1つですね。」
そう言いながら、私は最後の宝箱を開ける。
「おぉ!お?」
中には、見るからに高価そうな青の宝石が1つだけ埋め込まれた指輪が入っていた。
宝箱の大きさからすると、サイズ的には少々不満ではあるが、これまでとは違い、明らかに役に立ちそうだ。
私が宝箱から指輪を取り出すと、ハーピィーさんが反応した。
「何それー。すごい綺麗~。」
私は指輪を光にかざした。
ピンキーリングサイズの指輪に嵌められた宝石が、光に反射して青い輝きを放つ。
「マスター。その指輪ですが、おそらくあの若者が身につけていたものと同じですね。効果は分かりませんが、間違いなく役に立つ物です。身につけておいた方がいいかと思いますよ。『鑑定』が使えればどんな効果かくらいは分かるのでしょうけれど、あれは魔法ではなくスキルですからね。人間の経済活動の中で生まれたスキルですから、割と特殊な訓練が必要なので、私は持っていないのですよ。」
悪魔さんにそう言われて、私はさっそく指輪を小指に嵌めた。
特に変化を感じることはなかったが、同じスキルを持つ人が身に着けていたということなので、私も身に着けておいた方がよさそうだ。
「さて、これで満足でしょう。では、出発しましょう。」
そうして、私たちはようやくログハウスを出発した。
~ハッシュ・トールソンの話~
「ハッシュ様。兵と冒険者の準備が整いました。」
数ある側近の中でも、交渉事に最も優れている側近から報告を受けたハッシュは、満足そうに頷いた。
ようやく夜が明け、徐々に人々が活動を始める頃。
王の命令からわずか半日も経たず、王国の経済を担っているハッシュ・トールソンは、魔物の王と断言された理沙の討伐のために1000もの兵士と冒険者を準備した。
「ハッシュ様。王国の特別予算ですが、使用してもよろしかったのですか?」
「構わん。これはいわば必要経費だ。私が王となった後、適当に処理すれば問題ない。」
ハッシュがこれだけ早く戦力を揃えられたのには2つの理由があった。
1つは、以前から反乱のために準備していた兵士がいたこと。
そしてもう1つは、今回の王との約束だ。
この国の冒険者組合は、金さえあればいくらか強い冒険者を回してくれる。
そんな冒険者組合が、この討伐を成功させれば、「次期王」として、冒険者組合により多くの金を落としてくれるであろうハッシュの依頼を断る理由など、どこにも存在しないのだ。
「くっくっく……。私にもいよいよツキが回ってきたぞ!兵たちに伝えよ!陽が昇りきる前に出発するぞ!」
たかが魔物を操る小娘の討伐。しかも、こちらは1000もの兵力を持っている。
これほど簡単な仕事はないと、ハッシュは高をくくっており、その瞳は、すでに玉座に座る自分自身を映し出していた。




