リサ~異世界⑰新たな戦いへの準備~
「ねぇ、精霊さん。その体力回復についてなんだけど、お願いしてもいい?」
『分かった。』
精霊はメタきちさんの頭の上から飛び降りて、胸を張って答えた。
どうやら、役に立てることが嬉しいようだ。
しかし、そのサイズから威風堂々とまではいかず、可愛い人形が胸を張って立っているようにしか見えない。
『ドゥ・デ・ラ・フォース・ル・ノン・ドゥン・エスプリ・デ・アーブルス』
(精霊の名の下に、木々よ、力を与えたまえ)
そんな私の考えはお構いなしに、精霊が言葉を紡いでいくのだが、その言葉は、どこか聞き覚えのあるものだった。これはたしか、高校の第2言語の授業で習ったフランス語に似たものだった。
まぁ、基本を一通り習っただけで、話したりとか、言葉の意味は全く分からないんだけどね。
「リ、リサちゃん?」
「嬢ちゃん!どうした!」
ハーピィーさんとメタきちさんの声で我にかえると、自分の体が緑色に光っていることに気がついた。
「な、何!?」
慌てて全身を確認する。
どうやらどこにも異常はないようで、ただ光っているだけのようだ。
「何だと……そ、そんな……」
そんな言葉が聞こえてきて、ふと目をやると、悪魔さんが怪訝な顔をしていた。
どうやら、悪魔さんはこの光について何かしらの見当がついているようだ。
「悪魔さん?」
私が呼びかけると、悪魔さんが我に返ったように話し始めた。
「あ、あぁ。すいません。私としたことが、未知の魔法に見惚れてしまっていたようです。それよりもマスター。何か変わった事はありませんか?そう‥‥疲労がすっかりと抜けている‥‥とか?」
悪魔さんにそう言われ、私は軽く体を動かしてみる。
すると、今まで感じていたような体の重みが、すっかりとなくなっていることに気がついた。
「あ、消えたぞ!」
キラー君の声と同時に、体を覆っていた緑色の光が消えていった。
「これは‥‥精霊の仕業だよな?」
メタきちさんが不思議なものを見る目で私を見ている。
私はとりあえず黙って頷いてから、力なく地面にへたり込んでしまっている精霊を両手に乗せて、出来る限り優しく問いかけた。
「ねぇ?さっきのは何なの?」
みんなが私の動きと言葉に注目する。
みんなは、精霊が見えていないだけで、当然、私の動きと言葉は分かるのだ。
それに、さきほどまではどこにいるかも分からなかった精霊が、今は確実に私の両手にいることが分かっているのだ。注目しないわけはない。
『木々の力を分け与えた‥‥。』
精霊はそれだけ答えると、私の両手の上でスヤスヤと寝息をたてて眠ってしまった。
「ね、眠っちゃった‥‥。」
精霊を起こすまいと、両手を皿のようにして動くことが出来なくなった私は、困り顔でみんなに助けを求めたのは言うまでもあるまい。
「ねー?こんなんでいいのー?」
精霊が眠ってしまった後、私はハーピィーさんとキラー君の協力のもとで、精霊の寝床を作ってあげることにした。と言っても、両手が塞がっているので、実際に作ったのはハーピィーさんだ。
「僕の毛が役に立ってるのか?」
キラー君が出来たばかりの精霊の寝床を覗き込む。
この寝床は、キラー君の毛づくろいで抜けた毛と、ハーピィーさんの羽を数枚失敬して作られたものだ。
「ありがとうキラー君。精霊も気持ち良さそうだよ。ハーピィーさんも、ありがとうございました。」
私は改めて2人にお礼を告げた。
「そうか!良かったぞ!」
「私は何もしてないわよー。」
スヤスヤと寝息をたてて眠る精霊の様子を伝えると、キラー君が尻尾を振りながら喜んでいる。
ハーピィーさんは肩をすくめて笑っていた。
本当に、2人ともあの戦闘の雰囲気はどこへやらという感じだ。
「で、嬢ちゃん。体の方はどうなんだ?」
真面目な時のメタきちさんの問いかけに、私は力こぶを作るようにして元気さをアピールした。
「大丈夫です!いつでも行けますよ!」
私は改めて、自分の体から疲労が抜けて、体力が全快していると認識した。
それこそ、先の戦闘と緊張が嘘だったかのような回復ぶりだ。
「では、すぐにでも出発しましょう。と、言いたいところですが、肝心の精霊が眠っているとなると厄介です。途中で目覚めてくれれば良いのですが、目覚めないとなると、人間との話し合いに思いきり影響しますね。」
「確かに、この計画は精霊ありきだからな。嬢ちゃん。精霊は眠る前に何か言ってなかったか?」
我がチームの頭脳である悪魔さんとメタきちさんが話を組み立てているのだが、精霊が何か言っていたかと聞かれても、私に思い当たることは何も無かった。
「えっと‥‥すいません‥‥。」
実際、いきなり眠ってしまったので、何も聞けずじまいなのだ。
私としても、あれだけ見事に眠られてしまっては、どうしようもなかった。
「リサちゃんが謝ることじゃないわよー。もう!メタきち!あなたの聞き方、もう少しなんとかならないの!」
「そ、そんなこと言われてもなぁ‥‥」
私が申し訳なさそうにしていると、ハーピィーさんがメタきちさんに怒り出してしまった。
メタきちさんとしては、普通に聞いているだけだったので、この反応も当然だろう。
「まぁまぁ。メタきちの聞き方は昔からこんなものです。それよりも、精霊抜きでの作戦も検討しましょう。」
そう言われて、私はふとした疑問に襲われた。
「あの‥‥精霊って見えないですよね?見えないのに、どうやって精霊の存在を信じさせるつもりだったんですか?」
私は悪魔さんに尋ねた。
すると、悪魔さんはいつもの笑みとともに、私の疑問に答えてくれた。
「簡単です。精霊に魔法を使ってもらえばいいんです。伝承にあるような魔法を使えば、人間も信じることでしょう。そうですね……命を生み出す魔法……くらい使ってもらえれば、信じる以外ありませんね。この精霊は使えないようですが、精霊には特定の相手に姿を見せる魔法なんてのも存在すると聞いたことがあります。」
「そんなややこしい魔法があんのかよ?」
悪魔さんの説明で、精霊に何をさせたいのかは分かったが、メタきちさんは、悪魔さんの言った魔法が気になったようだ。
「何がそんなにややこしいんですか?」
私は再び疑問を口にした。
「あ?あぁ、そうか。嬢ちゃんは分からねぇか。あのな、普通、姿ってのは『見える』もんだろ?」
何を当たり前なことを言っているのかと思いながらも、私は頷いた。
「けどな、そこの精霊は『見えない』ことが普通なんだ。俺らは『見える』ことを『見えない』ようにする魔法を使うんだよ。それが当たり前なんだ。けど、精霊はその逆なんだよ。」
「そっか!『見てもらう』ために、魔法を使うから、メタきちさんたちにとってはややこしい魔法ってことになるんですね!」
「そういうことだ。」
そう考えると、確かにややこしい魔法だ。
しかし、精霊の側に立って考えてみると、この魔法は必要なものなのだろう。
『ずっと1人ってわけじゃないだろうけど、たまには違う人とも話してみたいよね。』
姿を見せるための魔法の使い方について、私はそんなことを思いながら、スヤスヤと寝息をたる精霊の頭をそっと撫でた。
「しかしです。それは精霊が起きていればこその作戦です。精霊が使えないとなると、やはり力ずくでどうにかするしかありません‥‥ん?」
悪魔さんが物騒な話をしていたが、何かに気づいたように私の方をじっと見ている。
「な、何‥‥ですか?」
「そういえばマスター。マスターのスキル、『優シキ世界ヲ目指ス者』ですが、たしか精霊魔法がありましたよね?」
そう言われて、私は改めてスキルページを開いた。
確かに、悪魔さんの言う通り精霊魔法の項目がある。
しかし、この説明では、どんな魔法が使えるのかがまるで分からない。
「マスター。次は、『魔法一覧』のページを開いてください。」
「え?そんなページもあるの?」
ここにきて新しい設定の追加は勘弁してほしいと思ってしまったのだが、とりあえず、私は言われるがまま魔法一覧と念じてみた。




