リサ~異世界⑱王国侵入作戦会議~
「あ、出た‥‥けど‥‥これだけ?」
悪魔さんに言われて開いた魔法一覧のページに出た魔法名の数の少なさに、私はかなりガックリとなった。期待外れもいいところだ。
「マスター。読み上げていただけますか?」
悪魔さんに促されて、私は魔法一覧にある魔法を読み上げた。
⓵「精霊の名の下に、木々よ、この身を守りたまえ」
⓶「精霊の名の下に、木々よ、我に癒しを」
⓷「精霊の名の下に、木々よ、かの者を拘束せよ」
⓸「精霊の名の下に、木々よ、力を与えたまえ」
たった4つしかないのかと思いながら読み終えて顔を上げると、全員が何とも言えない表情をしていた。
「リサちゃん?それは一体、どこの言語なのかしら?」
「あれ?」
メタきちさんや悪魔さんにも確認してみたのだが、どうやら、私の話す言葉が分からなかったようだ。
「きっと精霊語だからなのでしょう。魔法一覧で効果まで出れば良かったのですが、あれは確か名前だけだったはずです。使ってみれば良いのでしょうが‥‥。マスター。どんな効果なのかを想像できないような魔法はありますか?」
悪魔さんに尋ねられて、私はもう一度魔法一覧に目を通した。
「大丈夫です。多分、身を守る魔法に、傷を癒す魔法、あとは、相手を拘束する魔法と、さっきの体力回復魔法だと思います。」
私は悪魔さんに、魔法の名前から想像した効果を伝えた。間違いはないと思うが、やはりどこかで一度使っておきたかった。
私はそのことを悪魔さんに聞いてみた。
「マスター。私もそれが一番確実な方法だと思います。しかし、どれだけ魔力を消費するかが分からない以上、今は試すべきではありません。」
「ん?おい。嬢ちゃんは、王様の前で精霊魔法を使うんだよな?」
メタきちさんが質問を口にする。
悪魔さんの予定では、王様を信じさせるために、そういう手はずになっているのだということくらいは、いくら私でも分かった。
そんなメタきちさんの質問に対して、悪魔さんが黙って頷いた。
「じゃあよ、4つしかない精霊魔法のどれを使うんだよ。」
「マスターには、拘束の魔法を使っていただきます。」
悪魔さんがはっきりとした口調で答える。
しかし、相手を拘束する魔法で、精霊魔法だと信じてもらえるのだろうか。もしかすると、精霊魔法でなくても、相手を拘束する魔法があるかもしれない。
それを使ったと言われてしまったら、どうするつもりなのだろうか。
そんなことを考えていると、悪魔さんが続きを話し始めた。
「もし、精霊が目覚めなければ人間の王を拘束していただきます。また、その際に、マスターのスキルである魔力造形で、精霊を創り出していただきたいのです。」
「なるほどな。精霊が起きていれば、嬢ちゃんが精霊に頼んで強力な魔法を使ってもらえばいいってことか。」
それを聞いて、私も納得がいた。メタきちさんも話をしながら頷いているし、ハーピィーさんも話を理解しているようだ。
キラー君は‥‥また寝そうだった。
「とすると、次は侵入経路についてだな。」
メタきちさんはもう次の話をしているのだが、私としては、魔力造形で精霊を生み出した後、精霊魔法が使えるほどの余力があるのかが心配だった。
魔力造形自体は、それほど魔力を使用するわけではないと思う。
実際、メタきちさんもどきを生み出した後、私は普通に動くことが出来ていたのだ。
だが、精霊魔法は違う気がする。
なぜそう思うかと言うと、実際にそれを使った精霊が疲れて眠ってしまっているのだ。精霊がそうなのだから、人間である私が使えば、どれくらい消費してしまうのか分かったものではない。
効果や消費魔力くらいは、やはり正確に把握しておきたい。
「あの‥‥やっぱり、試してみてもいいかな?」
「ダメです。」
おずおずと手を挙げた私の意見を一蹴する悪魔さん。
「マスター。効果と消費魔力が不安なのは理解できます。しかし、消費してしまった魔力はすぐには回復しません。この作戦を明日にするのであればまだ考える余地はあったかもしれませんが、それでは精霊がマスターの体力を回復した意味がなくなってしまいます。それに、1日待てば、逃がした冒険者に追いつけなくなってしまいます。」
「追いつけなかったら何かあるの?」
私は、悪魔さんの最後のセリフに引っかかりを覚えた。
追い付こうが追いつくまいが、作戦自体に影響はなさそうなものなのだが……。
「大違いですよマスター。ル・エリテーゼ王国は人間の足ならば3日ほどで到着します。しかし、あれほどの冒険者ならば2日でたどり着くでしょう。その後、冒険者たちは王に対してマスターの言葉を伝えるはずです。」
悪魔さんの言っていることは分かる。私がそう伝えるように言ったのだ。
しかし、それと先ほどの話の関係が私にはまだ分からない。
「ここからが重要です。」
悪魔さんが人差し指を立てた。
「王に話が通り、王国内が討伐に向けて動いている中での我々の襲撃と、何も知らないでいる王国への襲撃。どちらが容易いかなど考えるまでもありません。」
「なるほど。」
私は、悪魔さんの言うことに納得したのだが、同時に、こちらの読み通りの状況になっているのかどうか不安になる。
「あ、あの!この世界に、遠くと通信を繋ぐような魔法とか技術って無いんですか?」
そう。そんな魔法があれば、王国はすでに警戒態勢を敷いているのではないだろうか。
「ありますよ。」
そんな私の疑問に対して、悪魔さんはさらっと答えをくれた。
「じゃ、じゃあ、王国はすでに警戒してるんじゃ‥‥」
「どうでしょうか。確かに通信の魔法は便利ですが、簡単に割り込めたりするものなのです。私が政務を執っているのであれば、そんな不確かな情報、鵜呑みには出来ません。それに、警戒態勢を整えるのにも金がかかります。あやふやな情報を信じて出来るほど、安い金額ではないはずですよ。」
悪魔さんの言う事はかなり説得力がある。
政治とは無縁の世界にいた私では分からないことだらけだが、言われてみればそうなのだろうと納得する部分もある。
「冒険者たちがもっと早く王国に着いちまう可能性は無いのかよ?」
私が恐縮していると、メタきちさんが質問した。
「メタきち。今の我々のステータスなら、王国までどれくらいかかるかなど、分からないとは言わせませんよ。」
「う‥‥」
メタきちさんが言葉に詰まっている。
「ちょっと!メタきちは、リサちゃんが困ってるから質問したんじゃないの!あんたはそんなことも分かんないの!」
ハーピィーさんが悪魔さんに怒っている。
メタきちさんを見ると、どこか気恥ずかしそうにしていた。
「ち、違うっつーの!んな訳ねーだろ!」
「フフフフ‥‥分かっていますよハーピィー。マスターに対して素直になれないメタきちへのお仕置きですよ。」
悪魔さんの悪魔スマイルが全開だ。
「だーかーらー。違うっつってんだろ!」
「違うの?」
メタきちさんの優しさが嬉しくて。そして、メタきちさんの反応が面白くて、私も少しだけからかいたくなった。
「違‥‥いや、違わねーが‥‥あー!で!どうやって侵入すんだよ!」
メタきちさんが暴れまわったところで、この話は終了になった。
私は、落ち着いたメタきちさんをそっと抱き上げて、小さな声で感謝を伝えた。
すると、メタきちさんが腕の中でプルプルと震えてた。どうやら、これが照れ隠しの返事のようだ。
「フフフフ‥‥さて、侵入経路ですが、あの王国は湖の中心に城があり、城への出入り口が1箇所のみ。難攻不落に見えますが、それは人間や意思なき魔物にのみ通じるものです。」
私たちは悪魔さんの話を黙って聞く。
「侵入は至ってシンプル。闇夜に紛れて、城の裏手から侵入します。」
「え?」
何度目になるだろうか。私はまたも思わず声を出してしまった。
「上空含め、城の周囲はある程度魔法的な対策がされているでしょうが、今の我々ならば何の問題もないはずです。目視さえされなければ見つかることはありませんよ。」
悪魔さんがすごい自信だ。ステータスが上がっただけで、それだけ変わるものなのだろうか。
「しかし問題はマスターです。マスターの力では気づかれてしまうでしょう。」
「え!ど、どうするんですか?」
ここまで話が進んで、最後の最後にお荷物になるというのはやめてもらいたいのだが、悪魔さんが言うのだ。冗談でもなんでもないだろう。




