リサ~異世界⑯精霊の魔法?~
「ただ今戻りました。」
肩にハーピィーさんを担ぎ、メタきちさんを片手で鷲掴みにした悪魔さんが戻ってきた。
「意識はあるでしょう?そこで転がりながら、大人しく私の話を聞いていなさい。」
無造作に2人を放り投げる悪魔さん。悪魔さんが悪魔だ。
そんな当たり前のことを思いながら、私は、悪魔さんだけは怒らせないようにしようと誓ったのである。
「さて、話を戻しますが、精霊にも協力してもらいます。」
「と言いますと?」
おかしな口調で質問してしまった。さきほどの恐怖がまだ抜けていないのだろう。
「精霊とは、人間にとっては神聖視されているものです。ですから、その精霊に王と話をしてもらいましょう。精霊が直接、森に手を出すなと言えば、よほどの愚王でない限り話を聞くはずです。まぁ、それでも言う事を聞かないならば、首でも跳ねて玉座に置いておけば‥‥」
「却下却下!後半は却下だから!」
私が慌てて止めに入ると、悪魔さんは残念そうにため息をついた。
「冗談です。マスターがいるのに、そんなことするはずありませんよ。」
冗談には全く聞こえなかった。
気を取り直して、私は精霊にも協力してくれるようにお願いしてみた。
『それがこの森のためになるなら、協力する。』
どうやら精霊も協力してくれるようだ。そこから、私たちはル・エリテーゼ王国への侵入作戦をたて始めた。
「さて、まずは現有戦力を確認しておきましょう。」
悪魔さんの進行で始まった作戦会議だった。まずは戦力の確認からだ。
メタきちさん、悪魔さん、ハーピィーさん、キラー君のステータスは、私のスキルの影響もあって、全て倍になっていた。
「そういえば、冒険者さんたちはみんなをSランクの魔物って言ってたけど、Sランクの魔物って、こんなにステータス高いの?」
私のステータスと比較すると一目瞭然だ。
雲泥の差があるとか言うよりも、超えられない壁でもあるかのような差だ。
「マスター。ランク分けというのは、人間が勝手におこなっているものです。そもそも、我々は自身のステータス数値を知ることなく生きてきましたからね。しかし、我々をSランクと定義するのであれば、我々は同ランク帯でも下級か、中級の下の方でしょう。」
「そうだな。魔王やら魔神やらはアホみたいな力だしな。」
メタきちさんの口から、魔王やら魔神なんていうとんでもない存在が示された。
神やら天使やら精霊やら、ここに来て空想上の名前ばかり聞いている気がするが、もうそろそろお腹いっぱいだ。
まぁ、兄ならば食い気味に話を促しているだろうが……。
しかし、私から話を振って何なのだが、今はそんな話をしている場合ではないだろう。
「それよりも、王国なんかにどうやって侵入するつもりなのよ?」
どうやら、ハーピィーさんも同じことを考えていたようだ。
しっかりと話が戻って、安心した。
何はともあれ、相手が超大国であるということは分かっているので、作戦が重要になるのは間違いないのだが、こちらの人数はどう考えても少ない。
「少数精鋭で行きます。」
「え?」
悪魔さんの発言に、私は素っ頓狂な声を出してしまった。
超大国に対して、少数で挑むというのはいささか無茶ではないだろうかと思ってしまったのだ。せめて、この森の魔物の手助けくらいは借りるのかと思っていたが、悪魔さんの口から出たのは、私の考えとは真逆のものだった。それは驚くのも仕方ないことだろう。
「本来なら陽動に人数をかけたいところですが、相手はあのル・エリテーゼ王国です。下手に人数をかけても、王国軍にやられてしまうだけでしょう。それならば、少数精鋭の方がいい。精鋭で、一気に王のところまで行きます。」
悪魔さんの言いたいことはなんとなく分かった。
けど、そんな簡単に王様のところに侵入できるものなのだろうか。
「けどよ、王様ってのはいつも周りに護衛付けてんだろ。そいつらどうやって突破すんだよ?」
私の疑問を、メタきちさんがピンポイントで聞いてくれた。
上手く侵入出来たとしても王様と話ができないのなら意味がない。
そんなことを考えると、悪魔さんが話し出した。
「護衛がどれほどいて、実力がどの程度かは分かりませんが、今の私たちであれば特段問題ないでしょう。まぁ、あの若者たちレベルの人間が出てくれば苦戦するでしょうが、あんなレベルの人間がそう存在するとは思いません。」
「確かに、魔王倒すくらいの奴らだからなぁ‥‥。」
悪魔さんの考えに同意を示すメタきちさん。
しかし、私としては魔王の力もメタきちさんたちの知り合いの力も知らないため、なんとも言い難いものはあったが、悪魔さんがここまで言うのだから、まず失敗したりはしないだろう。
「入ってからは何とかなりそうねぇ。それで、侵入についてはどうするつもりなの?」
ハーピィーさんが疑問を口にする。
確かに、そもそも見つからないように侵入出来なければ話にならない。
「侵入については色々と手段はあります。本来ならすぐにでも仕掛けるべきでしょうが、今日、明日くらいは回復に努めるべきでしょう。」
そう言って悪魔さんは私を見た。
どうやら、私の身を案じてくれているようだ。
確かに、戦闘が始まった時、陽はまだ天中にあった。
しかし、現在すでに陽は沈んでいる。半日近く動き回っていたことになる。
そのせいもあるだろう。精神的にも肉体的にもかなり疲労していることは間違いない。
だが‥‥。
「すぐに仕掛けた方がいいんですよね?」
私は悪魔さんに尋ねる。
「え‥‥えぇ。しかしマスター。その‥‥お体の方は‥‥。」
やはり悪魔さんは私を心配してくれていたようだ。
確かに、みんなと違って私はただの人間だ。
疲労が蓄積すれば動きも鈍るし、足手纏いになってしまうだろう。
だからこそ回復の時間は必要なのだが、今回はそんな悠長なことを言っている余裕はない。
「時間との勝負なんですよね?私なら大丈夫。だから、今日仕掛けましょう。」
私はみんなに向かって宣言した。
「嬢ちゃん‥‥。」
「リサちゃん‥‥。」
メタきちさんとハーピィーさんはかなり心配そうに私を見ていたが、悪魔さんの目にはすでに心配の二文字はなく、私の決意を汲み取って、作戦を組み立ててくれているようだった。
『体力が、回復すればいいの‥‥?』
精霊の声が聞こえたと思い、私は自分の肩に目をやると、そこにいるはずの精霊の姿がなぜか見えなくなっていた。
「あれ?いない?」
『ここ‥‥。』
声のする方に目を向けると、そこには座りながら眠っているキラー君の頭の上に精霊が座っていた。
なぜそんなところにいるのかを尋ねると、座り心地が良いという答えが返ってきた。
確かに座り心地は良さそうだ。
『それより‥‥体力を回復させるだけなら、私ができる。』
「ほんとに!」
思わず大きな声を出してしまったせいか、キラー君がびっくりして起きてしまった。
その拍子に、精霊がキラー君の頭の上から転げ落ちる。
『はわわわわ‥‥』
後ろ回りでキラー君の背中を綺麗に転がっていく精霊。
そのあまりの愛らしさに、助けることも忘れ、私はニヤつくしかなかった。
「マスター?何を笑っていらっしゃるのですか?」
精霊が見えず、状況も何も分からない悪魔さんたちからすれば、キラー君をじっと見つめた挙句、突然ニヤつきだしたようにしか見えないだろう。
「あ、えっと‥‥精霊が体力回復の方法を知ってるみたいで、それに驚いて、大きな声を出しちゃったら、精霊がキラー君の頭の上から転げ落ちちゃって‥‥。」
何が起こったかを説明するのだが、やはり見えていない相手に説明するのは難しいものだ。
精霊の愛らしさがまるで伝えられていないと感じる。
「とにかく、面白かったんです。」
最後は、自分でもかなり投げやりな言い方になったのだが、それはそれで仕方ないだろう。
「で、精霊が言う、体力を回復させる方法ってのはどんなやり方なんだ?」
メタきちさんが話を戻してくれるのだが、メタきちさんを見た私はその話に集中出来なかった。
『メタきちさんの頭の上に乗ってる‥‥』
メタきちさんの頭のトンガリ部分に跨るように座る精霊。
見える方からしたらかなり面白映像だ。
だが、いつまでも話を止めていられない。
私は気持ちを引き締めて、メタきちさんの頭の上にいる精霊に話しかけた。




